glazed frost

FTのグレジュビ、OPのサンナミをこよなく愛するブログ。

この言葉を…②

グレジュビ、この言葉をシリーズ②です。

今回は、ジュビア視点。

 

 どうぞ~。

 

*****

 

この言葉を…②

 

 

 

このままでいいはずはないのはわかってる。

でも、今はグレイ様に会う勇気がない。

どうしよう。

どうしたらいいんだろう。

誰か教えて。

 

 

 

**

 

 

 

マグノリアの街を、独りとぼとぼと歩く。

昨日、慌ててリクエストボードから引っ掴んだ依頼は、一日ですんなりと済んでしまった。

もう少しきちんと見て、もっと時間の掛かる物を選べばよかった…。

何しろ、もう2~3日は戻らないと思っていた最強チームのメンバーが、『翌日には戻る』という連絡をミラさんに入れてきたのを聞いて、焦って中身もよく見ずに選んだ物だったから。

このままだと今日中にギルドに戻れてしまう。

ジュビアは雨の中で俯き加減に溜め息をついた。

 

この間から何日も降りやまないこの雨はジュビアの気持ちの顕れなのかもしれない。

 

ジュビアがいつまでも決心出来ないから。

 

そして、

大好きな大好きな

グレイ様と会えていないから…。

 

 

 

 

ちょうど5ヶ月程前のあの日、

あの日を境にジュビアとグレイ様との関係は大きく変わっていった。

ジュビアはただ必死で、グレイ様を守りたくて体を水にして前に出ただけだった。

そうしたら物凄い勢いで怒鳴られて、

でもそのあと、怪我をしたジュビアをすごい力で抱きしめながら、グレイ様が震えた声で気持ちを伝えてくれた。

 

『次は、…俺が守るから。』

『お前に何かあったら…っ

……生きていけねえだろ…っ…俺が』

 

それから、たくさんたくさん

キスをくれた。

 

嬉しくて嬉しくて、そしてほんとうにビックリした。だって、ずっとジュビアの片思いだって信じて疑ってなかったから。

 

でも、グレイ様も、ジュビアと比べたら何分の1かもしれないけど、ただの仲間としてかもしれないけど。

少しはジュビアを大切に思ってくれているんだって思ったら、胸が熱くなって涙が止まらなかった。

 

 

それから、前よりもずっとグレイ様と二人で過ごす時間が多くなった。

 

キス、される事も、抱きしめられる事も。

 

グレイ様の部屋で二人で過ごす時には、

ジュビアが手料理を作ることもよくあった。

 

「うん。美味い!」

 

「よかった!たくさん練習した甲斐がありました。」

 

ジュビアが笑ってそう言うと

 

「…練習って、…俺のため?」

 

そう言って唇が触れそうな位に近い距離で、優しい笑顔でグレイ様がジュビアの顔を覗きこんだ。

 

「…グググレイ様っ…ちちち近いです~っ」

 

いつまでたってもこんなにも近い距離になんて慣れそうもない。

ドキドキしてアワアワと慌てるばかりだ。

でも、ふっと見るとグレイ様の頬っぺたにケチャップが付いてたから。

思わず親指でそれを掬って、ペロッと自分の口に含んだ。

でもその後で、何だか急にスゴく恥ずかしくなって、焦ってギュッと目を瞑ると。

 

「…お前さ、

そういうの、ホントやべぇんだけど……」

 

 

そう言ってそのままグレイ様に噛みつくようにキスされた。

 

 

 

温かくて、幸せな時間をグレイ様が沢山くれる。 

でもそんな幸せな日々が続く中で、最初からどうしても聞けない事があった。

ずっとずっと気になっているのに、どうしても聞けないでいる事。

 

それは……

 

グレイ様から一度も「好きだ」と言われた事がない、という事だった。

 

キスは、してくれる。

抱きしめても、くれる。

朝まで二人で過ごす事も…ある。

 

でも、「好き」って言葉は一度も聞いたことがなかった。

大切に思ってくれている事は、なんとなくわかる。でもそれって、ルーシィやエルザさんとどう違うんだろう。

グレイ様はお優しいから。

ジュビアが、こんなにもグレイ様の事が大好きだから、だから一緒に居てくれるだけなのかもしれない。

ジュビアがグレイ様を庇って怪我なんかしたから、だから責任とかそういうのを気にして、

大切にしてくれるのかもしれない。

だって、今まで、雨女だったジュビアのこと、みんなが敬遠してたもの。

グレイ様と出会って、今は晴れた太陽の下フェアリーテイルの仲間達との楽しい毎日があるけれど。

でも、やっぱりどうしてもジュビアは自分に自信がない。

だから、グレイ様がジュビアの事をどんな風に思ってくれているのかは聞けなかった。

 

だって、聞いたら……

失ってしまうかもしれないから---

この幸せな時間を。

 

 

 

 

*******

 

 

 

「あら、ジュビア?」

 

突然後ろから声を掛けられ、振り向いてみると

そこにミラさんが立っていた。

 

「ミラさん。」

 

「こんなとこでどうしたの?

もしかして、昨日の依頼終わって帰るとこ?」

 

「あっ、はい。

あの……ミラさんは?」

 

「私はちょっと追加の買い出しにね♪」

 

「そうなんですか。

ご苦労様です。」

 

ミラさんはいつも、ギルドのメンバーのために沢山働いてくれている。

本当に感謝してもしたりない位だ。

 

「偶然ねぇ。

……ふふっ、でも。

ちょうど、よかったかも♪」

 

そう言ってミラさんは見とれる程可愛いらしい顔で微笑んだ。

ちょうどよかったとは?

何か頼まれごとかしら?

 

でも、これは渡りに船かもしれない。

ここで、ミラさんに会えたのはラッキーだった。

今日の仕事の報告はこの場で済ませてしまおう。そうすれば今日は、ギルドに顔を出さなくて済む。

ましてや何か頼まれるなら尚良い。

 

そんな風に思っていると、

 

「ね、ジュビア。

ちょっとあのカフェに付き合ってくれない?」

 

ニッコリと笑って、ミラさんがそう言った。

 

「あのね、バタバタしてたら喉も渇いちゃったし。

それに。……ちょっとジュビアに訊きたい事もあるし~♪」

 

天使の笑顔でそう誘ってくれたミラさんの言う『訊きたい事』とはよくわからなかったが、

とりあえず仕事の報告もしたい所ではあるし。

 

「はい。いいですよ。

ジュビアでよければお付き合いします。」

 

ニコリと笑ってそう返事をした。

 

「ふふっ、よかった。

じゃ決まりね♪」

 

ミラさんはそう言うと、無邪気にジュビアの手を引いて、お目当てのカフェに向かって歩きだした。

 

 

 

*******

 

 

 

「…で、何でしょう?

ジュビアに訊きたい事って。」

 

ミラさんがカフェラテを、ジュビアはいつものアールグレイを注文したあと、そっとミラさんに気になっていた事を聞いてみた。

 

「…うーん、あのね~。

実はいくつかあるんだけどぉ。

ズバリ!聞いちゃっていい?」

 

そう言って微笑むこの人は、本当に天使のように可愛いらしい。

昔はエルザさんと張り合う魔人ぶりだったとは信じられない位だ。

 

「はい。どうぞ。」

 

ジュビアもニコリと笑ってそう答えると

 

「…じゃあ、1つめね。」

 

「はい。」

 

「ジュビア。

…グレイと、どうなってるの?」 

 

昼下がりのカフェにいきなりの爆弾が投下された。

 

「…ぶっ!

どう、とはあのっ…どう…っ」

 

ジュビアが飲みかけた紅茶を詰まらせながら

アワアワと慌てていると、

 

「……で、続けて2つめね。」

 

ミラさんはそんなジュビアの様子にはかまうことなく話を次に進めていく。

 

「少し前から気になってたんだけど。

 

…ジュビア、最近、ほとんど食べてないでしょう?

…どうして?」

 

「……っ…」

 

ドキンドキン、と心臓が波打つけれど、

とても答えられそうもなくて、言葉に詰まる。

 

そんな二の句が継げないジュビアに向かって、ミラさんは追求の手を弛める気は全くない様子で次の言葉を繰り出した。

 

「……3つめ。

この間、ジュビア、私がカナに出したクリームパスタを見て、急にカウンターから立ち上がってどこかに行ったわよね?

私、気になって、そっと追いかけてみたの。

そしたら…。」

 

「……っ」

 

「…ジュビア、廊下で口元を押さえてうずくまってた。

あれって、どういうこと?」

 

ミラさんは、ジュビアに一言も発する余裕を与える間もなく、静かに微笑みながら

畳み掛けるようにそう言って。

そして、決して目を反らすことなく、真っ直ぐにジュビアを見つめた。

 

「……っ…」

 

 

…ダメだ。

この、観察眼の鋭い魔人は、質問という形を取ってはいるものの、もうすでに確信をもって真実を見ている。

とてもじゃないが、誤魔化しはききそうにもない。

 

どうしよう。

どうしよう。

ぐるぐると頭を回るのは困惑ばかりで。

何か言わなければ。

でも一体なにをどう言えば…っ。

 

「……あのっ…ミラさん…」

 

「……」

 

「……あの……」

 

「……相手は、グレイ、よね?」

 

何をどう伝えればいいのかわからず口ごもるばかりのジュビアに向かって、ミラさんは静かに、でもとてもとても優しく、そう聞いてくれた。

 

そのミラさんの言葉があまりに温かくて優しかったから。

それを聞いて、我慢してきたものがどっと心の中から溢れてきた。

ギュッと結んだ手の甲に、涙がポロポロと落ちていく。

 

「…ちゃんと、調べてもらったの?」

 

また、優しくミラさんが聞いてくれた。

俯いたまま、首を横にふる。

 

「…そう。

グレイには?

…言ってないの?」

 

その言葉に。

今度は少しだけ顔を上げて、首を縦にふった。

ポロポロ、ポロポロ。

頷いた弾みに涙がまた下にこぼれおちる。

 

「……グレイ様には…っ

黙ってて…くださ…」

 

嗚咽を必死でこらえながら、何とかその言葉だけは繰り出した。

 

「……どうして?」

 

ミラさんがまた優しく聞いてくれる。

 

「…一番最初に、言わなくちゃいけない人、…なんじゃないの?」

 

「…でも…っ

グレイ様に、迷惑をかける訳にはいきませんから…っ」

 

 

グレイ様に迷惑をかける訳にはいかない。

確かにその気持ちも本当だ。

 

でも、もっともっと、大きく心を占める感情がある。

 

グレイ様に知られるのは怖い。

グレイ様は責任感の強い方だから。

こんなことを言ったら自分が責任をとらなけらば、と思うかもしれない。

でも、それを告げる時に、一瞬でも困った顔をされたら。

もしくはそれよりももっと明らかに拒絶の言葉を言われたら?

その瞬間に、これまでの幸せだった時間が

すべて崩れさってしまうような気がした。

 

 

グレイ様はジュビアに一度も「好きだ」と言ってくれたことはない。

だから、ギルドの皆にも、自分とグレイ様との関係を伝える事ができなかった。

でも、いつか、いつかジュビアにその言葉を聞かせてくれたら。

今は、自分からは聞けないけど。

ジュビアが頑張っていれば、いつかは言ってくれるかもしれない。

そんな風に思って自分を納得させてきたけれど。

こんなことになって、とてもじゃないけれど、

グレイ様に会う勇気すら持てそうもなかった。

 

 

「…グレイの気持ちは、わかってるんでしょう?」

 

ミラさんが慈愛を込めた口調でそう聞いてくれたから、ジュビアも泣き笑いで微笑んで

首を横にふった。

 

「……優しく、してくれてることは、

わかるんです。

…でも、」

 

「………」

 

「…『好き』って、言ってもらった事がない…、ので……」

 

そう言った時のジュビアの表情が、きっと形容しづらいものだったのだろう。

ミラさんは一瞬大きく目を見開いて、

それから大きく溜め息をついた。

 

「…なんて、困ったちゃんな子なの。

お仕置きね。」

 

「…ごめんなさい。」

 

「何言ってるの。

ジュビアじゃないわよ。

グレイよ。」

 

ミラさんは、まるで子供に『メッ』とでも言うようにそう言った。

 

そして、

 

「………」

 

ゆっくりと顔を上げたジュビアに向かって

静かに微笑みながら、黙ってジュビアの次の言葉を待ってくれた。

 

「……心配かけて、ごめんなさい。」

 

ミラさんがくれたこの凪の時間は

とても長く感じたけれど、ただジュビアがそう思っただけで実際にはそんなに長い時間ではなかったのかもしれない。

でも

色々な混沌の気持ちから、ジュビアを掬い上げてくれるような気がした。

 

 

「…ジュビアも、ちゃんとわかってますから。」

 

この話が始まってから初めて、しっかりとミラさんの目を見た。

きちんと伝えなくては。

 

「…もう少ししたら、ちゃんと覚悟を決めます。」

 

「…覚悟?」

 

「はい。

フェアリーテイルを出て、

一人できちんと頑張ります。」

 

ジュビアのその言葉を聞いて、

ミラさんはまた大きく目を見開いてこちらを見つめた。

 

「グレイ様には、出来れば何も言わずに…。

 

だから、ミラさんも、黙ってて下さいね。」

 

落ち着いて静かに微笑みながら。

ミラさんに向かってそう言った。

 

ミラさんは、何も言わなかった。

ただ長い時間ジュビアを見つめた後で、少しだけ目を伏せて、そして静かに微笑んだ。

 

「…わかったわ。

ジュビアに、任せる。」

 

「はい。」

 

そして、次に顔を上げた時には

今度はいつもの『ニッコリ』っていう顔で、

こう付け足した。

 

 

「…ふふっ。

そうね。物事はドラマチックじゃないとね。」

 

 

 

 

********

 

 

 

 

夕方の少し冷たい風が吹く中歩いていると

自宅であるフェアリーヒルズが見えてきた。

先程のカフェで、仕事の報告も済ませてしまったので、ギルドに立ち寄る必要もなくなった。

 

ミラさんと話したことで、気持ちも少しだけ

落ち着いた気がする。

少なくとも、前に向いて進まなければ、と思えるようになった。

今日はゆっくり休んで、

明日になったら覚悟を決めよう。

 

そんな事を思いながら、そっとフェアリーヒルズの門をくぐった、

その時だった。

 

 

「……よぉ」

 

後ろから、突然声をかけられた。

この、声って……。

 

吃驚して振り向くと、

門の内側の外からは死角になって見えない木の陰に……

これ以上ないぐらい、不機嫌な顔で。

腕を組んで凭れかかっている…

 

グレイ様が、いた----。

 

 

 

 

〈続〉

 

 

 

 

 

【後書き】

 

ラストでやっとグレイ様登場…!

次で完結予定です。

 

頑張れるか!?グレイ~。