glazed frost

FTのグレジュビ、OPのサンナミをこよなく愛するブログ。

この言葉を…④

グレジュビ、この言葉をシリーズ、最終話です。

 

どうぞ~。

 

***

 

この言葉を…④

 

 

 

頭をハンマーで殴られたような衝撃が走った。

ジュビアが、俺から気持ちを聞いた事がないと言う。

そんなはずねぇだろ!…って、力一杯突っ込みたくなった。

でも、……よくよく考えてみたら。

 

確かに、こいつがやたらと可愛い事を天然でやってのけたりするから。

どうにも色んな事が我慢出来なくなって「そういうのがヤバいっつうの」とか「お前のその顔、反則だろ」とか、その手の台詞は山程吐いている気がするが(そしてそのまま我慢出来ずにそういう事に雪崩れ込んでいるような気もするが)、果たしてジュビアに向かって、きちんと『好きだ』って言った事が、あっただろうか?

 

……ない……気がする。

 

冷静になって考えてみて出てきた結論に、更に頭を横殴りされたようなショックを受けた。

呆然として、ジュビアを見つめる。

腕の中で、ジュビアは不安そうにじっと俺の事を見ていた。

何だか色んな事が急に腑に落ちた気がした。

ジュビアが、どうしてギルドのメンバーにも、俺達の事を言ってないのかも。

 

こいつは、ずっとずっと、不安だったんだ。

 

…は…、そりゃ、そうだよな。

ちゃんと、気持ちも言わねぇで、でもやることはやってんだから。

伝わってると、俺が、勝手に思ってただけだ。

 

ゆっくりと身体をおこして、ベッドの上に座った。それから、ジュビアの身体もそっと抱き上げて、俺の正面に座らせる。

ふわっとした水色の髪に手を入れて、何度か梳いた後で、そっとジュビアの頬の触れた。

そんな突然の俺の行動を、ジュビアがキョトンとして見つめ返してくる。

涙の痕が残った、少し赤くなった目元を見ていると、愛しさと申し訳なさがない交ぜになって押し寄せてきて、ゆっくりと、そして静かにジュビアを腕に閉じ込めた。

 

 

「……ごめん…」

 

「…グレイ様」

 

「…ごめんな。…ずっと。」

 

少しだけ、抱き締める腕に力が入る。

手のひらでジュビアの頭を何度も撫でながら

そう言った。

 

フルフル、と腕の中でジュビアが顔を横にふる。そして、俺の胸元に手をついて、ゆっくりと顔をあげた。

 

「…ジュビア、今、とても幸せです。

…この、幸せな気持ちは、全部、全部、グレイ様がくれたものだから……

だから、いいんです。」

 

そう言って、泣き顔のくせに、この上なく幸せそうな顔で微笑んだ。

 

…くそ、…なんつー可愛い反応すんだよ…

直視出来なくて、思わず目を反らした。

その顔、絶対、俺以外の奴に見せたくない。

いや、もし他の奴が見るような事になったら、勿論そいつは瞬殺だが。

 

…というか、

これが、いけねぇんだな。

こうして、俺が、すぐ感情のままに突っ走るから。

今、ちゃんと聞かないといけない事が、まだある。ちゃんと、きちんと話さねぇといけねぇ事が。

 

 

「…それが、原因?」

 

「……えっ?」

 

「…ずっと、避けてただろ?

俺のこと。

…それが、原因?」

 

反らしていた目を戻して、今度はしっかりとジュビアを見つめて、そう聞いた。

 

「…っ…」

 

ジュビアは、ビクッと身体を強張らせて、言葉を詰まらせた。

 

「………」

 

そうして、唇を噛みしめて俯く。

 

「…違う、よな?」

 

ある程度の確信を持って、そう聞いた。

ここにきて、頭の中は妙に冷静だった。

確かに、俺の気持ちがわからなくて、ジュビアを不安にさせたことは事実だろう。

でも、それはもうずっとこの何ヵ月間、変わらなかったはず。実際、こういう状況になるまでは、二人で普通に過ごしていたのだから。

ジュビアが、急に俺から離れていこうとしたのは、ここ2~3週間の事だから、きっと、何か別の原因がまだあるはずだ。

 

「…ジュビアが、俺から離れようとした、

その理由って、何?」

 

ジュビアの頬を、両手でそっと包み込んで上向かせる。

やっと渇きはじめていた目元に、また雫が溜まりだした。

 

「……っ…」

 

「…ジュビア」

 

唇を噛みしめたまま、黙ってしまったジュビアの涙をそっと親指で拭った。

 

「…大丈夫だから。

ゆっくりで、いいから。」

 

「………」

 

「…何を聞いても、ちゃんと、受け止める。」

 

じっと、ジュビアの目を見つめてそう言った。

 

俺達、お互い言葉が足りねぇんだな。

俺は、伝わってると勘違いして、肝心なことは何も言えてない。

ジュビアも多分、何か言わなきゃいけねぇことがあるのに、口に出すことが出来ない。

でも、それじゃダメなんだよな。

ちゃんと、二人で、進んで行きたいんだ。

前でも後ろでもどんな場所でもかまわないから、二人で一緒に。

 

「…ジュビア」

 

もう一度、そっと声をかけてみる。

頼むから。

 

ジュビアの瞳から、大粒の涙がひとつ落ちた。

それから。

覚悟を決めたように、ギュッと目を閉じて、俺の上着を力一杯握り締めた。

そして、

 

 

「……か…ちゃんが、

…いるかも、…しれません…」

 

 

消え入りそうな位の小さな声で、ジュビアが、

そう呟いた。

 

「……え、?」

 

よく、聞き取れなかった。

何て、言った?

俺が、聞き返そうか、どうしようかと一瞬迷ったその時。

ジュビアが、ゆっくりと目を開いて、俺を見た。

 

「…ジュビア、……あ…赤、ちゃんが、

できたかも…しれません」

 

そして、まだまだ消え入りそうに小さな声だったけど、今度はちゃんと聞こえるように

そう言った。

 

 

……なんて、言った?

赤ちゃん?

赤ちゃん……って、あの、赤ちゃん?

赤ちゃんが、出来たかも…って……

 

頭の中が、真っ白な世界に塗り潰されて、フリーズした。

…のは、一瞬だった。

…子ども!?

俺と、ジュビアの!?

一気に引き戻された現実の世界が色を取り戻す。

と、同時に、またしても、とてつもない衝撃で、頭をぶん殴られた気がした。しかも、当然だが、さっきの比ではない。

 

「…子どもって、お前……!」

 

「…っ…」

 

俺が、声を荒げた瞬間に、ジュビアがビクッとして肩をすくめる。

 

「…ごっ、ごめんなさ…」

 

「…いや、ごめん とかじゃなくて!

何で、そんな大事な事、もっと早く言わねぇんだよ!」

 

ジュビアの両肩をガシッと掴んで、ついつい大きな声を出してしまう。

 

いや、ちょっと待て。

それより、俺、さっき、

こいつをベッドに放り投げなかったか!?

で、上から思い切り押さえつけて……

 

自分の行動に、サーッと血の気が引いてゆく。

 

……いやっ、待て。

それもあれだが、そんなことより。

 

「…おまっ…お前、仕事に行ってたって…!」

 

俺が、顔面蒼白になりながらそう聞くと、

 

「…あ、はい。

えーと、隣街の図書館に魔物が大量発生したとかで、その討伐に。

簡単な依頼だったので、すぐ済みましたよ。」

 

ジュビアの方は、逆にけろっというかキョトンとした顔で、平然とそう答えた。

 

…魔物……

……討伐!?

 

今度は、血の気が引いていく処の騒ぎではなかった。逆に、頭にカーッと血がのぼっていく。

 

「…お前はっ、なんつー無茶な事すんだよ!

もし、何かあったら一体どーすんだ!」

 

俺のあまりの剣幕にビックリしたのか、ジュビアの方はただ茫然と俺を見ていた。

暫くの間、二人で黙って見つめあう。

 

先に、視線を外したのは俺だった。

大きなタメ息とともに、一気に脱力してジュビアの肩口にポスッと額を落とした。

 

「…あの、グレイ様?」

 

戸惑いがちに、ジュビアが口を開く。

落ち着け。俺。

ちゃんと、話をしようって、決めたばかりだろ。パニクってる場合じゃねぇ。

 

 

「…色々、…覚悟を決めて、聞いたはずだったんだ。

……別れる、とか、他に好きな男が出来た、とか、

もし、そんな話が出たとしても、ちゃんと話そうって…。」

 

「…グレイ様」

 

「…でも、コレは予想してなかった。

まさかの、展開。」

 

「…………」

 

ゆっくりと顔を上げて、ジュビアの下腹部の辺りを見つめた。それから、そっとそこに手を置いてみる。

 

「…ほんとに…いる、のか?

ここに…」

 

「ま、まだ、ちゃんと調べて貰ったわけじゃなくて……

だから、はっきりしてなくて、

…あの、ごめんなさい……」

 

オドオドと、ジュビアが言葉を紡ぐ。

 

ずっと、俺を避けてた。

きっと、一人で物凄く悩んで、どうしたらいいかわからなくて、途方に暮れていたにちがいない。おまけに、俺の気持ちもわからなくて、ますます切り出す事すら出来なかったんだろう。

あまりの申し訳なさに、何だか涙が出そうな位だった。

 

でも、ここからは俺の仕事だ。

ジュビアの気持ちも、ジュビア自身も、これから起こるかもしれない何もかも、ちゃんと引き受けてみせる。

 

ジュビアに触れていた手を離して、大きく深呼吸をしてから、ベッドの横にすくっと立ち上がった。

そして、

 

「…とりあえず、行くぞ。」

 

そう言って、そのままジュビアを抱き上げた。

 

「…きゃっ…グレイ様っ?

…い、行くって、あのっ」

 

展開についていけないらしく、ジュビアもバタバタと慌てているが、無視だ、無視。

 

「とりあえず、ポーリュシカのばーさんとこに行く。

ちゃんと、診てもらわねぇと。」

 

「…グレイ様」

 

「…もし。もし、出来てたら。

当然だけど、お前、当分仕事は禁止。

一人で外出、も、基本禁止だからな。」

 

「……!

それは、あの、…ちょっと無理なのでは…」

 

「駄目。

俺の、心臓がもたねぇわ。」

 

「……!」

 

ホントに、今日だけで一体何度青くなったり、赤くなったりしたことだろうか。

とにかく、大人しくさせてねぇと、こっちの身が持たない。

それから、

俺の首筋にしがみつきながら、固まってしまったジュビアに向かって、畳み掛けるように続けて言った。

 

「…で、そのあとそのまま。

たとえ出来てても、出来てなくても、

ジーさんところに行くからな。」

 

ゆっくりと歩を進めながら、きっぱりとそう伝えると、

 

「マスター、ですか?

あの、何のために…?」

 

固まったままのジュビアが、

不思議そうにそう聞いてきたから。

 

 

「…決まってんだろ。

 

『結婚するから』っていう報告に行くんだよ。」

 

一旦立ち止まって、腕の中のジュビアを見据えながら、きっぱりとそう言った。

 

「……!」

 

ジュビアが、茫然とこちらを見つめてくる。

驚きのせいか、あの大きな猫目をこれ以上ないほどに見開いて。

 

 

「…結婚、しよう。ジュビア。」

 

 

もう一度、今度は確かめるように、ゆっくりと。自分の気持ちを、ジュビアに伝えた。

ジュビアの瞳に、みるみる小さな雫がたまってゆく。

 

「……好きだ。

だから、…ずっと、俺の側にいてくれ。」

 

子どもが、出来てても、出来てなくても、

勿論それはすげぇ大事な事だけど、そんなことは関係なく。

お前がいないと、息も出来ないくらい、

その位、お前の事が好きでたまんねぇから、

一生、一緒に居たいんだ。

 

ジュビアの瞳から、ポロポロと涙がこぼれ落ちる。そして、それから、恐る恐るギュッと俺に抱きついてきた。

 

「…ジュビア、…ゆ……夢を、見てるんでしょうか?」

 

「…は?」

 

「…だってっ、…少し前まで、

ギルドにもお別れして、…ひ、ひとりで、

頑張らなきゃ…って、そう…思ってたのに」

 

「…は?

って、アホか。そんなこと、許すはずねぇだろ。」

 

どんな遠くに行こうとしたって、たとえそこが地の果てだったとしても、追いかけていって、連れ戻すに決まってる。

全く、こいつは一人にしておくと、ほんとロクな事考えねぇな。

 

「…急に、こんなに幸せな事が、いっぱいやってくるなんて、……やっぱり、夢です…」

 

首筋に抱きついたまま、まだぐずぐずと言っているジュビアの耳元に唇を寄せる。

そして、そのプクッとした耳たぶに歯をたてて、くっと甘噛みしてやった。

とたんに、腕の中でジュビアが、ビクッと跳ね上がる。

 

「…夢じゃ、なかったろ?」

 

そう言って、ニッと笑ってやると、

今度は真っ赤になって、アワアワと慌てだした。

 

いつもの、ジュビアだ。

 

 

 

「行くぞ。」

 

そう言って、二人で外に出る。

 

あんなに降り続いていた雨も、いつの間にか止んでいて。

キレイな夕闇空が広がっていた。

 

そっと、ジュビアを降ろしてやって、

それから、どちらともなく手を握りあう。

 

一歩、一歩。

これからずっと、こうやって二人で歩いて行こう。

こみ上げる幸せと愛しさとで、胸が一杯になる。

そうして、ジュビアの手を引いて、

ゆっくりと歩き出した----

 

 

 

〈了〉

 

 

 

 

°○゜

 

 

 

 

 

∞∞後書き∞∞

 

 

 

最終話までおつきあい頂き、ありがとうございました。

途中で、何パターンもの筋書きが出てきてしまって、どのストーリーにしようか悩みに悩んだ挙げ句、結局このようなラストに…(汗)

ご期待に添えなかった方には、本当に申し訳ありません(>_<)

一応、グレイ20歳位、ジュビア19歳位の設定で書かせていただいたので、『いいよね?結婚しても』って感じです。

 

続きのおまけが1話あります。

よろしければそちらもどうぞ。