glazed frost

FTのグレジュビ、OPのサンナミをこよなく愛するブログ。

天使は前途多難な恋をしている

グレジュビ小説、短編①

ヘタレグレイの巻

オリキャラ目線になります。



*****


天使は前途多難な恋をしている


僕は今、一生に一度の恋をしている。
何故って、だって出会ってしまったから、僕の天使に。
水を操る、僕の天使。
ジュビア・ロクサーに。




***




「ジュビア!」

今日も、僕は朝から元気に、とあるギルドの扉を開いた。フェアリーテイル。
僕の天使は、そこで優秀な魔導士として働いているのだ。

ターナーさん。」

両手を広げて彼女の側に歩み寄った僕を、ジュビアは笑顔で迎えてくれた。

ターナーさん、じゃなくて、名前で呼んでくれといつも言ってるじゃないか。
サイラス、だよ。さぁ、言ってごらん。」

僕はそう言って、ギュッとジュビアの両手を握った。彼女はとにかく恥ずかしがりやで、なかなか僕を名前で呼ぶことが出来ないようなのだ。

「…お、おはようございます、サ、イラスさん。
…あっあの、すみません。手っ…手を…」
「そうだよ、ジュビア。
上手に言えたね。
何も恥ずかしがることなんてないんだよ。
僕と君の仲じゃないか。」

僕に掴まれた両手を見つめて、ジュビアが真っ赤になっている。照れているのか、彼女の手はとても熱かった。
あぁ、そうやって恥ずかしがる君もなんて可愛いんだろう。
そう、君に初めて会った時、僕は雷に撃たれたような衝撃を受けたんだ。
「こんにちは。フェアリーテイルから参りました、ジュビア・ロクサーです。本日から3日間、貴方の警護をさせて頂きますね」
そう言って、ペコリと頭を下げた君は本当に本当に可愛いかった。
こんな可愛い娘が警護なんて出来るのか!?と思っていたら、君は本当に優れた魔導士で、何度も僕を危険から護ってくれた。
そうして、当然の流れとして、僕は一生に一度の恋に落ちた。
それからも、彼女に会いたい一心で、二度ほど彼女に仕事の依頼をした。
でも、もうそれだけでは物足りなくなってしまったんだ。
彼女と、ちゃんと、恋人同士になりたい。
依頼人と魔導士、としてではなく、恋人になって、二人で食事にでかけたり街を歩いたりしたいんだ。
そうと決まれば、この気持ちをちゃんと伝えて、アタックあるのみだ。僕はフェアリーテイルに通いつめ、毎日彼女を口説き落とす事に決めた。

「ジュビア。今日もなんて可愛いんだ。
朝から君の笑顔を見るだけで、心がどんどん満たされていくよ。」
「あ、ありがとうございます////」

頬を真っ赤に染めて、彼女がそう答えてくれる。
よし、ここでもう一押しして、今日こそは彼女とのデートに持ち込まねば。

「ジュビア、今日の予定はどうなっているのかな?」
「あの、ジュビア、今日は…」

「どいてくれねぇ?
通行の、邪魔なんだけど。」

ジュビアが、何か言葉を発しようとしたちょうどその時、凍てついた氷のような声が後ろから降ってきた。

「グレイ様!」

ジュビアが嬉しそうに瞳を輝かせて見つめたその先を見てみると、予想通りムカつく顔がそこにあった。
グレイ・フルバスター。
いつもいつも不機嫌そうな顔をしてガンを飛ばしてくる、柄の悪い男だ。
しかも僕の部下が仕入れてきた情報によると、信じられない事にジュビアがこの男の事を好きかもしれないと言う。そしてさらにあり得ない事に、なんとジュビアの片想いだと言うのだ。まったくもって、世の中は不思議に満ちていると思う。

「通路のど真ん中を塞いでんじゃねぇよ。」

僕達の横をぶち当たりそうな勢いで通りすぎながら、またしても奴は吐いて捨てるような口調でそう言った。

「あぁ、邪魔になってしまったなら失礼した。
では、あちらに行こうか。ジュビア」

僕は横目で彼をチラッと見たあと、そう言ってジュビアを促した。
すると、ジュビアが
「あのっ、あのっ、グレイ様!」
と、奴に声をかけた。

「…なんだよ。」

ジュビアから声をかけられたというのに、奴はやっぱり無愛想に返事をした。

「グググレイ様、今日はお仕事でしょうか?
ジュジュジュビア、あの、できたら今日、グレイ様と、あのっ。
…あぁっ、ジュビアじれったい!」

ジュビアがこんなにも懸命に訴えていると言うのに、グレイは相も変わらずただじっと見ているだけだ。毎度のことながら、この光景にはカチンと来るものがある。

「ジュビア、今日は僕と出掛けないか?
美味しいシーフードの店を見つけたんだよ。
できれば付き合ってほしいんだが。」
「…えっ、あの、サイラスさん。
えっと、ジュビアはどうすれば……」

ジュビアが、助けを求めるような目でグレイを見たので、間髪入れずに奴に向かってまっすぐ問いただしてやった。

「何か、問題あるかな?グレイ君」

すると奴は、更に不機嫌そうな顔になって、

「……ねぇよ。べつに。
好きにすりゃいいんじゃねーの?
俺には、…関係ねぇし。」

そう言って、フイッと目を反らした。
その反応を見て、ジュビアがシュンと頭を垂れる。可哀想だが、どうせコイツはジュビアの事を何とも思っていないのだ。
こんなヤクザな男の事なんか早く忘れて、僕という新しい恋人と幸せな日々を送る方が、よっぽど価値があるというものだ。

「……そう、ですよね。
グレイ様には、関係ない事、…ですよね」

シュンとしたままのジュビアの目元は、なんだか潤んで赤くなっているように見えた。
その姿をグレイはやっぱり不機嫌そうに横目で見つめている。
ジュビアは、そんなグレイを見てひとつタメ息をついたあとで、

「…では、ジュビアでよろしければ、
今日はター…サイラスさんにお付き合いします。」

そう言って、小さく微笑みながら僕を見た。

「ちょっとちょっと、ジュビア?」

横のテーブルに座ってその様子を見ていた金髪の少女が、少し焦った様子で声をかけた。確か、ルーシィ、とか言ったか。

「いいの?
…ちょっと、グレイもいい加減にしなさいよ」
「…はぁ?関係ねぇだろ」
「…アンタねぇ…」

金髪の少女がげんなりした顔でそう言った瞬間、ジュビアが慌てて口を挟んだ。

「いいんです、ルーシィ。
ターナーさん。申し訳ありませんが、
ちょっと待ってて貰えますか? 
…ジュビア、ちょっとお仕事の確認をしてきたいので。」
「もちろん、待つよ。
ゆっくり確認してくるといい。
…それから、ジュビア。
ターナーさん、じゃなくて、サイラス、だ」
「あっ、ごめんなさい。つい…
…では、ちょっと失礼しますね。」

そう言ってジュビアはにっこり笑った。やっぱり笑った顔が一番可愛い。
彼女がリクエストボードの方へ向かって歩いて行こうと、グレイの横を通りすぎようとした
その時。突然、奴がバッと顔を上げてジュビアを見た。

「ジュビア、お前…」
「…はい?」

しかしグレイは、しばらくジュビアを見つめた後で、「いや、何でもねぇ」と言って視線を反らすと奥のカウンターの方へ歩いて行った。
ジュビアも、そんな奴の反応に首を傾げたものの、また気を取り直してリクエストボードの方へ歩いて行く。

いったい何なんだ。奴の行動はいつもよくわからない。
そんなことはまぁ置いておいて。
何はともあれ今日は天使と出掛ける事になったのだ。
幸せな一日になることは間違いない。

「…まったく、見てる方がイライラする。
じれったいったらないわ!」

横のテーブルで、ルーシィがダンッとグラスを置いた。
すると隣に座っていた黒髪の少女(確か、カナ、だったかな)も、はぁ~とタメ息をつきながら
「まぁ、素直じゃないからね」
と、苦笑いをこぼした。
ふっとグレイが歩いて行ったカウンターの方を見ると、何やらガンッと音がしている。
「…ってーな!
ケンカ売ってんのか!?テメーは!」
桜色の髪の少年が、蹲って怒鳴っていた。
どうやら蹴られたらしい。

「…やれやれ」
ルーシィはまたしても大きなタメ息をついた。

「どうして、彼はいつもいつもあんなに不機嫌なのだ。僕が見ている限りで、機嫌が良かった事は一度もないのだが。」
僕は、隣のテーブルで苦笑しながら事の成り行きを見ていた二人に聞いてみた。
すると、カナは
「…ま、そりゃトーゼンでしょ。」
と肩を竦めて笑った。
「当然?
…まったく、あんな様子が日常的と言うことか?
ますますもって、何故ジュビアが彼に好意を持っているのか理解出来ないな。」
僕がそう返すと、ルーシィは「ははは…」と乾いた笑みを浮かべた。
隣のカナは
「まぁ、何か、起爆剤?にでもなれば面白いからそれもアリかな~なんて思って放ってたんだけど、なかなか上手くはいかないわねぇ」と、
またしてもよくわからない事を言っている。
何なんだ。一体。

それよりもジュビアだ。
昼前位から出掛けようか。
いや、もう少し早く出て、買い物をしてもいいな。彼女に買ってあげたい物ならたくさんある。
洋服、靴、アクセサリー、…挙げていくとキリがない。
僕は僕の選んだ品々でドレスアップした彼女を想像して、それだけでとてつもなく幸せな気分になった。



******



くそっ、イライラする。
何にって、とにかく色んなもの全てにだ。
毎日毎日、あのサイラスとかいう奴がギルドにやって来るを見ているだけでもムカつくし、なんだかんだで俺に突っ掛かって来るのもムカつく。
ジュビアが好きだとか何とかほざいてやがるが、だからどうした、俺には関係ねぇし、という気持ちで一杯である。
そしてジュビアにもムカつく。
困り顔を浮かべてオドオドしている割には、最終的には奴のペースに乗って、なにかと言われるままに行動していたり、あげくのはてにはベタベタと触らせていたりする。いつ見ても肩を抱かれていたり手を取られていたりと、不快なこと極まりない。
何でちゃんと嫌だって言わねぇんだ。
ルーシィやカナ達といった周りの反応にもイラつく。
あんなにジュビアが困っているようなのに、誰も助け船を出そうとしない。
チラチラとこちらを見て「何とかしたら?グレイ」とでも言いたげな顔をしているが、逆に「はぁ!?何で俺だよ!」という気持ちが増すばかりである。

そして。

何よりもムカつくのは、自分自身に、だ。
この正体不明のイライラを、ずっと抱えたまま、右にも左にも動けない自分。
別に、誰がジュビアにベタベタしようが、ジュビアがどう反応しようが、俺には関係ねぇ。
毎日そう言い聞かせても、一向に何も解決しないばかりか、日々イライラは募るばかりで、
今にも何かが爆発しそうだ。

少し。
少しだけ…自分の気持ちに、手を伸ばせばいい。
きちんと、認めれば、いい。

そんな声が頭の中でどんどん大きくなっているのに、進む勇気のない自分にホトホト嫌気がさしていた。


「ふふっ、グレイ、
相変わらずご機嫌ナナメね。」

カウンターの中から楽しそうにミラちゃんが声をかけてきたので、げんなりしながら「…別に」と答えた。
するとミラちゃんは、人差し指を頬にあてて、
んー、と考える素振りをしながら

「そうなの?
でも、今日は朝からずっと、ジュビアの方をチラチラ気にしてるように見えるけど?
いつもは、彼が来てる時はそっぽ向いて見ないのに」
と、なんとも鋭い事を言い当てて微笑んだ。
くそ、さすがというか、何というか。

「…そういうわけじゃ…
つーか、ミラちゃん、あいつさ……」

俺がそう言いかけた、ちょうどその時。
隣の隣、俺から1つ開いたカウンター席に
ガジルがダンッと腰掛けた。

「あら、ガジル。
遅かったわね。もうお昼前よ~」
「おう。…ちょっと寝すぎたかもな」
「何か食べる?」
「いつもの。鉄。」
「わかったわ。ちょっと待ってね。」

ミラちゃんはそう言って笑顔でガジルの相手をしながら、思い出したというように
「そういえば、グレイ、何か言い掛けた、わよね?」
と切り出した。

「…いや、うん。
何でもねぇ。」

タイミングを逸してしまったので、何となく口にしづらくなっちまった。
くそっ、こいつが中途半端な時に来やがるから。
そう思いながらふっと横を見ると、ガジルがミラちゃんの出してきた鉄を頬張っていた。ナツといい、コイツといい、いつ見ても奇妙な食事だぜ、全く。
俺がじっと見ていると、
「何だよ?
…相変わらず、またグジグジと不機嫌なのか?
変態氷野郎」
と、ガジルが突っ掛かってきた。
「ああ!?
ケンカ売ってんのか、てめぇは!」
ちょうど、いい。
ムシャクシャしてんだ、破格値で買ってやるぜ。
俺が今にも臨戦態勢に入ろうかとしたその時、

「グレイ」

ミラちゃんがニッコリ微笑んで、あるテーブルを指差した。
見ると、ちょうどジュビアが、あのサイラスとかいう奴と一緒に、テーブルから立ち上がった所だった。



*******



「ではジュビア、そろそろ行こうか?」

時間もそろそろ11時になろうかという頃になって、僕はジュビアにそう声をかけた。
今から出れば、ちょうどいい時間に店に着く。
先に昼飯を食べて、それからゆっくり買い物でもしたいものだ。

「あ、はい」

ジュビアも微笑んで立ち上がった。
そして、テーブルに居た二人に向かって
「じゃあ、ルーシィ、カナさん。
行ってきますね。」
と挨拶している。
なんて礼儀正しいんだろう。そんなところも勿論愛しくて仕方ない。

「はいよ」
「気を付けてね~」

テーブルの二人は、若干の苦笑いを浮かべながらヒラヒラと手を振った。

「じゃあ行こう」

そう言って歩き出すと、コクッと可愛らしく頷いて、ジュビアも後ろからついてきた。

そうして、僕がギルドの扉まであと少しのところまで足を進めた、
その時、だった。

突然後ろで、ガタタッという音がした。

びっくりして振り返ると。

ジュビアが、もたれかかるように側にあったテーブルに手をついていて。

そしてそこから。
そのままゆっくりと、横凪ぎに倒れていった。

「…ジュビア!?」

一瞬、何が起こったのかよくわからなかった。それから、はっとして、倒れてゆく彼女に、必死で手を伸ばした。

ダメだ…!間に、合わない…!

そう思って思わず目をつぶりそうになった瞬間。
誰かが、床にくずれ落ちる直前のジュビアを抱きかかえていた。
驚きの方が大きくて茫然と見つめていたら、彼女を抱き止めてくれた人がゆっくりと顔をあげた。


グレイ、だった--。


なんで、コイツが?
え、だってさっきまで、あんなに離れたカウンター席に座っていた、のに?

僕が必死で状況を把握しようとしていると

「…やっぱり。」

ジュビアを抱きかかえたまま、奴がぼそっと呟いた。
そして、そっと彼女を抱き上げながら、

「…ミラちゃん、医務室用意してやって。
こいつ、熱がある。」

そう、言った。

熱?ジュビアが?
熱って、だってさっきまであんなに元気にしてたのに…

「ジュビア!」
「…ちょっと!…っ大丈夫なの? 」

ルーシィとカナが慌ててグレイの元へ近寄って行ったので、僕もはっと我にかえった。
そうだ。ジュビア、大丈夫なのか!?

「ジュビア…って、あつっ!」

ルーシィがジュビアの額にそっと手を当てた後、はねのけるように手をどけた。
その様子を見て、グレイが大きくタメ息をつく。

「…こいつ、なまじっか自分で体温を調節出来るもんだから、ちょっと位熱があっても無理して平気な顔をしてやがんだよ。
…で、限界まで体温が上がって、こうやって熱湯みたくなって、倒れちまう…。」

グレイが、苦々しそうにそう言った。
視線は、腕の中でグッタリとしているジュビアに向けたままで。

「…そういえば、ずっと昔にもあったね…そんなこと。」

カナも心配そうに覗きこみながら思い出したようにそう言った。

「ジュビア!」
僕もいてもたってもいられなくなって、
抱き上げられている彼女の元へ駆け寄った。
熱湯、なんて、一体どのくらいの熱なんだ。
本当に大丈夫なのか!?
心配でじっとしていられなくて、グッタリしている彼女の手や頬に手を伸ばそうとした。

「触んな。」

グレイの、声だった。
灼熱の太陽でも凍らせてしまいそうな位の、とてつもなく冷たい声。
奴は、射殺せそうな視線でキッと僕を睨み付けて、きっぱりとそう言い放った。
そして、誰にも触らせまいとでもするように、
もう一度大事そうに彼女を抱え直した。

「……っ」

そんな奴の様子に思わずたじろいでしまった僕は、何も言うことが出来なくなってしまった。
ちょうどその時、奥の方からミラジェーンの
「グレイ!用意出来たわよ!」という声がした。
奴はそれを聞いて「…あぁ」と一言返事をした後、もう一度、睨み付けるように僕を見て。

「…てめぇも、曲がりなりにもコイツの事が好きだっつーんなら、調子の悪い事ぐらい気付いてやれよ。」

そう言い残して、さっと踵を返して彼女を抱いたまま奥の部屋へと歩き出した。

一言も、言い返せなかった。
悔しい、とか、腹が立つ、とか、
そういう感情よりも、何も出来ずに呆然と見ている事しかできなかった自分が、ただただ情けなかった。

そういえば、朝からずっと
ジュビアの手もいつもよりも熱かった。
頬も目元も少し赤くなっているって、そう思ったじゃないか。
ただ単に照れてるんだと、そう思い込んで、
一緒に出掛けられることに浮かれて、
何一つ注意して見ようとなんてしなかった。

グレイとジュビアが消えていったドアの向こうを見つめて、何だか乾いた笑いがこみ上げてきた。
そして、
僕の中に、一つの結論がはっきりと出た。

『てめえも、コイツの事が好きだっつーんなら、ちゃんと気付いてやれよ。』

奴は、確かにそう言った。
つまりそれは、
奴も、ジュビアのことを好きだ、って事じゃないのか。
だから、誰一人、近くにいたルーシィやカナすらも気付かなかった事実に、奴だけが気付いた。
そういえば朝、奇妙な顔をして何かを言いかけていた。あれからずっと、ジュビアのことを気にして見ていたのだろう。

『触るな。』

人一人凍らせそうな声で発せられた台詞。

『俺のものに、触るな』

そう言っているように聞こえた。

「は、はは…」

考えれば考えるほど、色々な事が府に落ちていく。
どおりで、僕がいるときはいつもいつも不機嫌なはずだ。
自分の好きな女の周りを、その彼女を好きだという男がウロウロしていて、気持ちのいい奴はいないだろう。
しかも、あの調子だと、おそらくそれをちゃんと自覚していない。
だから、ジュビアにもあんな態度を取ってしまう。
なんというはた迷惑な話だ。

「はは、ははは」

額に片手を当てて、悲しく笑ってみる。
僕はもう泣きたいのを通り越して、本当に苦い笑いしか沸いて来なかった。

「…大丈夫?」
気遣わしげにこちらを覗きこんで、そっとルーシィが尋ねてくれた。
「…まぁ、そういうこと、なのよね」
カナも労るように付け足す。

「…少しは、起爆剤に、なれたかな?」

僕が乾いた笑い顔でそう言うと、

「…うーん、たぶん?」
「でも、まぁ、何しろ素直じゃないからね」

ルーシィとカナは二人してお手上げだとでも言いたげなポーズでそう言った。

「…そうか。
少しはジュビアの役に立ったんなら、それでいい。」

何故だろう、あまりにも完敗だったからだろうか、僕は何だかむしろスッキリした気分になって、今度は静かに微笑みながらそう答えた。

ジュビア。

どうやら、君の好きな彼も、ちゃんとちゃんと君を好きらしい。
それこそ、僕の出番なんて全くない位に。
でも、奴がそれを認めるまでには
まだまだ時間がかかりそうだよ。

天使は、前途多難な恋をしている。
本当に奴ときたら、はた迷惑で面倒くさいこと極まりない。

でも、いつかきっと、君の恋は叶う。

僕は、フェアリーテイルの他のメンバー達と一緒に、その日が来るまでずっと君を応援し続けようと決めた。






〈了〉





→→おまけ





誰もいない医務室で、二人きり。
ジュビアの寝息が、少し楽になってきたようだ。
医務室のベッドにおろした時はまだまだ熱くて、慌てて解熱剤を飲ませた後、手のひらに冷気を集めて首や額を冷やしてやった。
やっと、薬も効いてきたのかもしれない。
そっと手を握ってみると、まだまだ平熱には程遠いが、それでも先ほどまでのようなべらぼうな体温ではなくなっているようだ。
心配でたまらなかった気持ちが少し減ってほっとすると、とたんに今度は何やらムカムカした気持ちが沸いてくる。

「…無茶ばっか、しやがって」

寝ているジュビアに向かって、ぼそっと悪態をついてみる。
大体コイツはいつもいつもそうなのだ。
放っておいたら、いつの間にか無理をしていたり戦闘中にも誰かを庇っていたりする。
だから、目が離せねぇんだっつーの。

それにしても、こんな状態でよくもまぁ、あのサイラスとかいう男の誘いに乗って出掛けようとしていたものだ。
そのことを思い出すと、また今度は違うムカムカが沸き上がってくる。

じっと、ジュビアを見つめてみた。

わかってんだ。もう、多分。

抱き上げたコイツに、奴が触れようとした瞬間、脳天がぶちギレそうになった。

俺のものに触るな。

そう、怒鳴り付けそうな自分がいた。

「…誰にでも、ベタベタと触らせてんじゃねーよ。」

お前の好きな男は、お前に触れていい男は、
…俺だけ、だろ。

こみ上げてくる気持ちを抑えきれずに、そっとジュビアに触れてみる。
水色の髪を手を入れて、手のひらで頬をつつみこんで……

そのまま、吸い寄せられるように、唇を重ねた。
啄むような、触れるだけの、キス。

起きてる時にしてたら、一体どんな反応だっただろうか。ハワハワと慌てている姿が目に浮かんで、とてつもなく可愛くて愛しくなった。
当然だが、今なんの反応もないことにちょっとむくれてみる。

そして、色んな気持ちを込めて、
今度は少し開いた首筋に向かって唇を寄せて……

そうして、小さな所有の印をそこに刻んでやった---。






〈了〉







∞∞後書き∞∞



今回は、自覚するかしないかのグレイ様です。
なかなか残念な子に出来上がっておりますが、
後半からおまけにかけて、ちょっとだけ頑張りました(笑)
サイラスくんにはお気の毒な事になりましたが、最後にちょっぴりかっこよく書いたので許して貰おうかななんて。はは。

お付きあいありがとうございました~



¨