ことのは ④
グレジュビSS。
『ことのは』シリーズ④
現パロ、大学生グレジュビ~。
*
萌える新緑の中で、突然降りだした霧のような雨。
そう、ジュビアとの、デート中。
「…っ、急に、降りだしましたね。
グレイ様、大丈夫ですか?」
雨に濡れて、ジュビアはそう言って笑った。
雨宿りした、公園の大きな木の陰で。
濡れた髪。にっこりと笑うそのはにかんだ笑顔。
そんなジュビアを見ていたら、なんだか、たまらなくなった。
腕を引き寄せて、吃驚したその瞳を無視して唇を奪う。
細い腰を抱き寄せて。
重なる唇をだんだんと深くしてゆく。
…かわいい。
付き合いはじめて、しばらくが過ぎた。
大学のサークルで知り合って、少しずつ、距離が縮まって、やっとのことで恋人になって。
雨の中で、どんどんと自分の熱が上がってゆく。
引き寄せた腕と反対の手で、そっと胸を撫でる。
途端、彼女は突き放すように、俺の肩を押しやった。
困ったような、怒ってるような赤い顔で。
そして、彼女は逃げた。
その顔を見てから、…会ってない。
わかってんだ。
いきなりのオレの行動に驚いたんだって。
口説き落として、恋人になって。
一緒にいて、必死に大事にしてきたつもりだった。
まだ早い。
急がなくていい。ゆっくりで、いいって。
そう思ってた、のに。
あんな風に拒否されて。
もうなんだか全部拒まれた気になって連絡することすら出来ねぇなんて、どんだけヘタレてんだ、俺。
もう、あれから何日たった?
ジュビアだって、きっと気にしてる。
メールの一本も来ないことに、きっと、泣きそうになってる。
***
夜中に電話がなった。
時計を見ると、もう、12時をとっくに回ってる。
携帯の着信音は、ジュビアだった。
慌てて、電話をとる。
「ジュビア?」
「…はい。」
「……どうした?…こんな時間に」
「…あの、………」
ジュビアは、そう言ったっきり、電話の向こうで黙りこんでしまった。
二人の間に、シーンと、静寂が流れる。
「………」
「……あ、の、…」
「……うん。」
「……あの、遅くに、ごめんなさい。
グレイ様は、…何してましたか?」
「今?……うん。映画見てた。」
テレビで、無造作に流れていただけの、再放送の映画。
見てた、なんて言えねぇけど。
内容なんて、全然把握してねぇし。
目が、ただ画面を追ってただけで、
頭では、ずっと、お前の事考えてた。
あの日。
驚いて開かれた瞳。
雨と共に匂う髪の香り。
甘い唇。
舌を差し入れたら、慌てて逃げたよな。
可愛いくて、愛しくて。
追いかけて、口の中を愛撫して。
力入れたら折れそうなぐらい細い腰を抱き寄せて。
柔らかな胸を撫でた。
欲しくて。
たまらなく、なった。
何もかも、全部。
足りねぇ。
急ぐことなんて、ないって、思ってたけど。
我慢してるつもりなんて、なかったけど。
でも、ジュビアが足りねぇって、そう思った。
……抱きたい。
ジュビアの、全部が欲しい。
「……ごめんなさい。
映画、邪魔しちゃいましたね。
……切ります。」
「待て…!切るなよ。」
「…や、でも。
ごめんなさい。…やっぱり…」
「切るなって!」
久しぶりの電話。
向こうから、ジュビアの声が聞こえてくる。
電話、くれたのは。
お前も、俺の事考えてくれてたからだよな?
そうだよな?
もう、怖がって、ねぇ?俺のこと。
嫌いに、なってねぇ?
…なんかもう、滅茶苦茶会いたい。
会いたくて会いたくて、気がおかしくなりそうな位。
「…ジュビア」
「……は、い。」
「…ジュビア」
「……はい。」
「……いい?」
「えっ?」
「……行っていい?」
「……グレイ様?」
「……今から、お前の部屋に、……行っていい?」
「…………」
「……会いたい。」
ベッドに放り投げていたジャケットを掴んで、
バイクのキーを乱暴にひっ掴んで、自分の部屋を飛び出た。
今から、行くからな。
少しだけ強引にそう告げると、
ジュビアは、小さく「…はい…。」と返事をくれた。
お前、わかってんのか?
こんな夜中に。
バイク飛ばして、お前の部屋で、テレビ見る訳でも、お茶飲む訳でもねぇって。
玄関に入ったら、速攻お前を抱き上げるから、俺。
わかってんのか?
いいのか?
あのときの、続きがしたいって。
そういう意味だって、ホントにわかってんのか?
あぁ、でも、もう、どうだっていい。
わかってねぇなら、わからせてやる。
会いたい。
会いたくて、もう、これ以上は無理だ。
ピンポーン。
ジュビアの部屋のインターホンが、鳴り響く。
パタパタと、ジュビアが駆けてくる音が聞こえる。
ドアが開いて、
中に、入って。
それから、上気した頬で俺を見上げるジュビアを見て。
もう、限界まで溢れでた愛しい気持ちのまま、
思いきりジュビアを腕の中に閉じ込めた--。
〈了〉
大学生。
距離を縮める二人。