glazed frost

FTのグレジュビ、OPのサンナミをこよなく愛するブログ。

君と聴く光の雫 ① ~ハーデンベルギア

グレジュビで学パロ連載第1話です。

せっかくの現代パロディなので、原作とは少しテイストを変えて、基本グレ→→(←)ジュビで進んでいく予定。

では、どぞ。


君と聴く光の雫 ① ~ハーデンベルギア






あの子だーー。

あの、3月の雨の日の。

まさか、もう一度会えるとは思っていなかった。

出逢いは偶然、でも、再会は奇跡だ、って、

言っていたのは、どこの誰だっただろうかーー。



~ハーデンベルギア~




「はァ?
トショウンエイイインって何だよ、それ。」

俺は、ウーン、と伸びをして、欠伸をかみ殺しながら面倒臭そうにそう尋ねた。
寝起きでやや機嫌の悪い時に聞かされたその単語にイヤな予感しかしなくて、不機嫌度合いは更に降下する。

「……図書運営委員ね。」

ルーシィが目の前で拳を握りしめて、わなわなと震えてそう言った。
周りでは、ナツ、ロキ、カナなどのクラスメート達がクックッと肩を震わせて笑っている。

先程のホームルームの時間、俺が睡魔と格闘してあっという間にKO負けを喫していたその間に、どうやらその図書運営委員とやらの選抜があったらしい。

図書委員であるルーシィが、皆の前で説明した所によると。

「この度、新しく建った図書館に前の図書室から本を移動したのですが、それがまだ書棚に整理されていないので、各クラスから一人ずつ整理を手伝ってもらう運営委員を出してもらうことになりました。
期間は2ヶ月ほどだと思います。
誰か立候補してくれる人はいませんか?」

ということだったらしい。

まぁ、俺は寝ていたので聞いていなかったのだが。

この春、どこぞの金持ちOBが、母校のためにと寄付してくれた図書館が中庭の奥に完成した。
赤レンガ造りの大層洒落た建物だが、見かけのオシャレ感がどうのこうのというよりは、レンガ造りというのが本の保存にとても適している、というのがポイントらしい。
この間、始業式で校長が何度もその建物の素晴らしさを連呼していた。

ルーシィ曰く。

ホントに素敵な図書館なの!
前の図書室の倍の広さになったからって、OBが本も大量に寄付してくれたのよ!
もう三年だから、一年間しか通えないけど、でも卒業までに完成してくれてよかった~

という事らしい。

で、その新図書館のために、新しく買った本やら移動した本やらの整理要員として、2・3年生から各クラス一人ずつ応援の運営委員を出すことになったというのだ。


「……で、なんっでそれが俺なんだよ…!」


委員決めはこないだ終わっただろうが!
やれやれ何とか逃れたと、自分のジャンケン運の良さにガッツポーズしたはずだったのに。

「……なんで、…ってそれはねぇ~…」

わなわなと震わせていた拳を開いたルーシィは、そのまま俺の耳をギューッと引っ張って、耳元で

「人が必死に説明してるときに、ガースカガースカあんたが寝てたからでしょっ!」

と怒鳴った。

キーンッと響いたその台詞に思わず片目を瞑ると、周りの皆からまたどっと笑いが起こる。

「アンタが爆睡こいてる間に、隣でナツがアンタの腕を持ち上げて立候補させたんだよねー」

カナが、プププーと笑いながらそう言うと、

「…ま、寝てたグレイが悪いね。
まぁまぁ、いいじゃない。
素敵な出逢いがあるかもしれないよ?」

と、ロキがそう続けた。

くっそー、何が素敵な出逢いだよ。
本の整理なんて最も苦手とする分野だっつーの。
俺がブスっとして米神に指を当てていると、

「とにかく!」

とルーシィがそう言って、ピシィッと俺を指差した。

「今日の放課後!
第一集会室に15時半だからね!
遅れずに来てよ!?」


とどめのようにそう放たれた台詞に、
俺は大きく、はぁ~っ、とため息をついた。





***





15時半少し前に第一集会室に行くと、そこにはおおよそ20人近くの生徒達が集まっていた。
ドアに程近い、後ろの方の椅子に腰かけてふっと前を見てみると、前ではルーシィとレビィが、なにやら真剣に相談しながらしおりの冊子のようなものを用意していた。
そういやアイツら、図書委員長と副委員長だったな。
二人とも本好きだから適任だが、まぁ、ご苦労さんなこった。
そんな事を思いながら、ふぅと1つ小さなため息をついていると。
もうそろそろ委員会も始まるかという時に部屋に入ってきた二人のうちの一人が
「あれ?グレイ?」
と声をかけてきた。

「…お?リサーナ?」

振り向くと、後ろに立っていたのはリサーナだった。

リサーナはひとつ年下の幼なじみで、子供の頃からの知り合いだ。
今は別の男子校に行っている同い年の幼なじみであるエルフマンの妹にあたる。
高校では2年と3年ってことで一応先輩後輩にあたるのだが、まぁ、子供の頃からの付き合いなので、俺にもナツにも全然タメ語で話す。
その影響か俺達の周りの奴らにも半敬語の半タメ語だ。

「お前もかよ。」

俺がそう訊くと、リサーナは

「私は本委員の方だよ。
応援の委員は、こっちの彼女」

そう言って自分の後ろにいた少女を手のひらで指した。

後ろに立っていたその彼女は、チラリと此方を覗き込むと、深い海のようなアクアブルーの髪をふわりと揺らして、ペコリ、とお辞儀をして。
それから、少しつり上がった大きな目で、じっと俺を見つめてきた。


その、瞬間。


静かな淡い光のしぶきが、キラキラと雫になって降り落ちた、気がした。

周りの景色も、時間も、息を止めるように静止した。


あの子だーー。


あの、3月の雨の日の。

まさか、もう一度会えるとは思っていなかった、のに。

会えたーー。こんな、所で。

……制服。

まさか、同じ学校だったなんて。

これって……、


「グレイ?」

時が止まったように呆然と立ち尽くしている俺を見て、リサーナがきょとんとして声をかけてきた。

「どうしたの?
ひょっとして、知り合い?」

「…あ、いや、」

俺が口籠っていると、件の彼女はじっと俺を見つめていた視線を外して、

「…あの、先に座ってますね。」

リサーナにそう言ってから、俺にもペコリと小さく礼をして、教室の奥の方に入っていった。

「あっ、待って、一緒に行く。
じゃあね、グレイ」

リサーナもそう応えて、後を追ってゆく。

俺は二人が進んで行った方に視線を動かしたまま、なんだかどうしたらいいのかわからない胸の奥がザワザワとする感覚に陥った。

リサーナと一緒に来た、って事は、2年生、なのかな。
多分、そうなんだろう。

学年が違うから、今まで知らなかったってことなのかな?

でも。

あんなに印象的な子、一目見たら忘れねぇと思うんだけど。


だって、実際、俺も会ったのは一度だけだ。

そう、あの、雨の日ーー。





***





部活が終わって、さぁ帰ろうとした途端に、突然その雨は降りだした。

そんなにすごい雨って訳じゃなくて、3月のサラサラと降る糸のような春雨。

それでも纏いつく雨の空気がちょっとだけうっとうしくて、ほんの少しの近道にと思って、公園の中を抜けて帰ろうとした。

そこで、彼女と、会った。

彼女は、ベンチの側で蹲って、なんだか一生懸命に自分の傘をベンチの柄に固定しようとしているようだった。

きれいな青い髪が、静かな春の雫に濡れてた。

一途なその瞳に、ただ、目を奪われて、

反らすことも、出来なかった。

少しだけ近付いて、覗き込むように様子を窺ってみると。

必死で立て掛けている傘の下には、小さな箱があって…、その中に、子猫が2匹、ミャアと鳴きながらその彼女の方を見つめていた。


……猫。
あぁ、それで……。

降りしきる雨から、小さな猫達を庇うように、
彼女は一生懸命傘を固定しようとしていた。

「……もう少し、だから、待ってね」

自分のハンカチを細長く伸ばして、柄の中ほど辺りをベンチの足にくくりつけている。

自分が濡れていることなんて、まるでお構い無しに、真っ直ぐに。

俺は声を出すことも出来ずに、その様子を
ただ立ち尽くして見つめていた。

「…出来た…!」

何とか満足の行く形になったのか、彼女はふぅっと息をついて、

そして。

こぼれるような笑顔で、笑った。


ドキン、と胸が脈打つのがわかった。

心臓の奥を、ギュッと掴まれたような、鈍い痛みに、息を飲む。


……、なんだよ、これ。


説明のつかない感情が、ぐるぐると回って、顔が熱くなる。


「……用事が済んだら、戻ってくるから、
それまでいい子に待っててね。」

彼女はそう言うと、雨に濡れたまますくっと立ち上がって、俺がいる方向と反対側に向かって歩き出そうとした。


「…あのっ…!」



声をかけたのは、ほぼ無意識の、衝動的な行動。
なんで、なんて自分でもよくわからない。

何やってんだ、俺。

でも、彼女はこちらを見ようとはしなかった。

全く、気づいてもないように、そのまま進んでいく。

「……! 待って!
あのさ…」

焦って、そう言って、走って彼女の前に回り込む。

彼女は、突然目の前に現れた俺に心底びっくりした様子で、ビクッと肩を跳ねた。

そんなに、驚かせたかな。
一応、声はかけたんだけど。

目の前に立っている俺に対する、怯えとそれから少しの拒絶の気持ちが、彼女の瞳の中で揺れていた。

………。
…っつーか、何、言う気だよ、俺。

ただ、あのまま行ってしまう、と思ったら、つい…。

彼女は相変わらず、雨に打たれたままで、怪訝そうな顔で俺のことを見つめていた。

……あぁ、こんなに、濡れてる。

そう思ったら、今度はなんだかいてもたってもいられなくなって、俺は自分のさしていた傘をそっと畳むと、

「…これ」

と言って彼女に差し出した。

「…使って。」

彼女は、俺のその行動に意味を見つけられないみたいで、ホントにきょとんとした顔で、傘と俺の顔とを何度も往復して見ている。

俺は、自分の浅はかな行動をちょっと後悔した。

突然目の前に出てきた男にこんなこと言われて、そりゃ戸惑うよな。

……バカじゃねーの?俺。

それから俺は、何をどうしていいかもわからず、向かいで呆然としている彼女の手に無理矢理自分の傘を握らせた後、「…じゃ」と言って、その場から駆けて立ち去った。


そのまま、走って家まで帰った後で、
濡れた制服のまま、ボスン、とベッドに飛び込む。


…何やってんだ。

ホント、訳わかんねぇ…。


自分でも知らないうちに、顔に熱が集まってくるのを止めることも出来ずに、

そのままゴロンと仰向けになって、両腕で顔を覆ったーー。





***





それが、3月終わり頃の雨の日の、出来事。


あの日俺は、どうしても色んな事が気になって、夕方もう一度、あの公園の同じ場所に行ってみた。

でも、その時にはもう、小さな子猫の入った箱も、彼女が必死で立て掛けていた傘も、そしてもちろん彼女の姿もそこにはなくて。

なんだかとんでもない空虚な気持ちになりながら、ポツリ、と歩を進めて家路についた。

それから時々。

思い出したように、その公園の同じ場所に行ってみたけれど。

やっぱり、もう二度と彼女に会うことは、なかった。






目線を斜め前にずらして、リサーナの隣に座っている彼女を見つめる。


……覚えてる、かな。俺のこと。

……覚えてねぇか。一瞬だったし。

一回、会っただけ、だし。

さっきも、何だか無反応、だったし。

そう思うと、ちょっとだけ、ほんの少しだけだが、落ち込む自分がいた。


べ、別に、また会いたいとか、思ってた訳じゃねぇし。
今日だって、たまたま、偶然、偶然、偶然、会えただけだし。
大体が俺は、こんなトコに来たくなんかなかったし、図書運営委員なんてものにもなりたくなかったし!


そんなことを沸々と考えていると、

「では、当番の曜日を決めたいと思います。」

って言うレビィの声が聞こえた。

当番?
……なんてものがあるのか。

「皆さんも、部活や塾などでそれぞれ予定があると思いますので、この、月曜日から金曜日までの間で、都合のいい曜日を1日選んでいただけたら、と思います。
で、週に1日、その曜日に図書整理のお手伝いをお願いしたいです。」

続いて今度はルーシィがそう言った。

なるほど。
担当の曜日が決まる訳ね。

で、その日に委員の仕事をしろ、という訳だ。

「前の黒板の各曜日の所に、自分の名前を書いて下さい。
あまりにも固まって希望人数が多い曜日があればじゃんけんになるかもしれませんが、基本的には、皆さんの希望通りの曜日にお手伝いをお願いしますので。」

今度はレビィが、黒板に作った表を指差しながらそう言った。


その言葉を皮切りに、座っていたメンバーがそれぞれ立ち上がって、黒板に向かって行った。

1人1人、どうしようかなぁなどと言いつつ、希望の曜日に名前を書いていく。

俺はまぁ、塾はねぇし、バイトも土日だし。
どうせ平日は部活だから何曜日でも条件は同じだな。
木曜や金曜はナツやロキ達と遊びに行くことも多いし、月曜日とかにとっとと済ますか。
どうせなら、人数の多い曜日が楽っていう手もあるな。

そう思いながら、黒板の前まで行って、チョークを手に取った。

リサーナは、火曜日の所に名前を書いている。

お、火曜、多いじゃん。
リサーナもいるし、じゃあ……

そう思ってチョークを握ったその時に、彼女が黒板の前にやって来た。

……どこに、書くのかな。

彼女は人差し指を口元に当てて、じーっと考えているようだった。
その様子から目が離せなくて、また俺の中で少しだけ時間が止まった。


「グレイ、早く書いてよ。」

横からルーシィがせっついてくるのに、

「……あー、うん、」

と生返事で応える。

……どこだろう。
どこに…。

すると、彼女は、何かを決心したようにスッと顔を上げた後で、サッとチョークを取って。

そして、金曜日の所に

『ジュビア・ロクサー』

と名前を書いて、静かに元いた席に戻っていった。


……ジュビア、っていうのか。

ジュビア・ロクサー、それが彼女の名前…。

席に戻ってゆく彼女の事を目で追いながら、
心の中で、彼女の名前を反芻してみた。

ジュビア、か。


「ちょっと、グレイ。まだぁ?」

レビィが横からツンツンと俺の左腕をつついてきたので、

「あぁ、うん…」

そう返事をして、黒板の方に視線を戻す。

そして、俺もゆっくりと、自分の名前を書いた。


金曜日 
ジュビア・ロクサー
グレイ・フルバスター


そこに、俺と彼女の2つの名前が並んでるのを見て、よくわからないけど、何となく不思議な気分になって、タン、とチョークを置く。

その時、その様子を隣でじーっと見ていたルーシィが、

「……へぇ~」

と呟いたのが聞こえた。

「…っ、なんだよ?」

何だか何かを含んでるようなその声に、ばっとルーシィの方に目を遣ると、

「…べぇつにぃ~」

そう言いながら、ニヤリと口角を上げている顔とぶつかった。
その顔にちょっとだけイラッとする。

「なんっだよ!?」

「…ふふっ、何でもないって!
さぁ、ジャマジャマ。
早く席に戻って~」

ルーシィはニコニコと笑いながら、俺の背中をグーでつついて、そう促した。


なんだよ、感じわりぃな、そう思いながら席に戻ろうとすると、
彼女ージュビアが、じーっと俺の方を見ているのに気付く。

えっ?と思って思わず視線を返すと、今度はそのままばっと目を伏せられた。

…えーと、

何か、まずかった、かな。

…はっ、…もしかすると、俺と一緒の曜日がイヤだとかそういうアレだろうか。

自分の席に座りながら、頭の中でぐるぐると色々考えていると、
前からルーシィの司会の声が聞こえてきた。

「では、皆さん希望の曜日が出揃ったようなので、確認します。
月曜3人、火曜4人、水曜3人、木曜3人、金曜が2人、です。
あまり偏ってはいないようなので、これで決定でよろしいですか?
変更したい人がいたら、今だったら大丈夫ですので言って下さい。」

ルーシィのその台詞に対して、教室の中からは誰からも異存の声は上がらなかった。

その後で、レビィの

「では、曜日はこれで決定です。
続いて、仕事内容の確認ですが…………」

という説明が続いていたが、そもそも興味もない俺はそれについてはろくに聞いてもいなかった。

じっと、前の黒板を見つめてみる。


金曜日。


これから、金曜日は本の整理で図書館か。


ホント、柄じゃねぇし、面倒くせぇし?


でも。
でも、なんだろう。

ちょっとだけ、まぁそういうのもアリかな、みたいな。

ほんとに、ちょっとだけ、だけどな…うん。


自分の中に沸き起こる、この感情の名前はよくわからないけれど。


とりあえずは、
早く明後日の金曜日にならねぇかな、って
思いながら。

俺は配られた栞に目を落として、

一生懸命前で説明しているレビィの声に耳を傾けたーー。








~ハーデンベルギア……奇跡的な再会~











∞∞後書き∞∞


第1話、お付き合い頂いてありがとうございました。

学パログレジュビ、です。

まだまだ、設定の半分も登場してない感じで、
皆さまの予想「うーわ、また長そう…」は大当たりな感じです、すみません(>_<)

今回の副題は、花言葉で。

ハーデンベルギアは、奇跡的な再会っていう意味です。


一応、メインキャラの設定だけ少し。

高3……グレイ、ナツ、ロキ、ガジル、ルーシィ、レビィ、カナ、エルフマン(←コイツだけ他校)

高2……ジュビア、リサーナ、スティング、ローグ

ジュビアとガジルは幼なじみ、

ナツ、グレイ、エルフマン、リサーナ、カナも幼なじみ、

ルーシィとロキは高校から。

ナツ・グレイ・ロキ、と、スティング・ローグはサッカー部の先輩後輩。
ルーシィは、マネージャー。

通ってる高校はエスカレーターで上に大学もついてる結構な進学校。

グレイ、従兄のラクサスの所で土日のみバイト中。
2歳歳上の実兄リオンがいる。

フリードは大学生で、バイト仲間。

ミラ姉は看護師さん。

ルーシィのパパは、大病院の院長さん。

などなど、まだまだ細かく色々ありますが、
とりあえずこんな感じで。

少しずつ、物語を進めて行く予定です。

もしよろしければ、気長にお付き合い下さいませ。