glazed frost

FTのグレジュビ、OPのサンナミをこよなく愛するブログ。

ことのは ⑩

グレジュビ短編 『ことのは』シリーズ⑩

ものすごく久しぶりに、ことのは。
家族な風景。

ではでは。







お洗濯物を取り入れようとベランダに出ると、ベランダの隅の方で踞って膝を抱え込んで座っている、小さな塊を見つけた。

姿が見えないと思ったら、こんなところにいたのね。

思わず微笑みが顔を覆う。

チラリ、と、窓の内側のリビングの方を見てみると、ソファには少しだけ憮然として同じように片膝を抱えて座っている大きな塊が。

心配して考え込んでいるくせに、怒っているようにも、拗ねているようにも見えるその姿に、またしてもクスリ、と笑いが起こってしまう。

全く、素直じゃないところはそっくりですね…と、心の中で呟いた。


そっと、小さい方の塊に近寄って、その前にしゃがみこんだ。

「いつまでも、こんな所にいると、風邪をひきますよ?」

ゆっくりと微笑んで、そう声をかけると、
その小さな塊は、ツンとつり上がった(皆曰くコレも遺伝だと言うのだけれど)その瞳に、じんわりと涙を浮かべ始めた。

その涙が持つ複雑な感情がよくわかって、とてもとても、いじらしくなる。

「…もうすぐ晩御飯だし、お腹もすいたでしょ?」

そう言うと、その小さな彼は、またその目にジワッと水膜をためて、グッと唇を噛み締めた。

「……お腹、すいてない。」

彼は、必死で何かを我慢するようにそう答えた。

頑固な所は一体誰に似たのかしら?

あら?……そういえば、この間、ジュビアがそう呟いた時には、グレイ様には
「……お前だろ」
と呆れ顔で言われたのだったっけ。

小さな彼の目の前にしゃがみ込んだまま、
そっとその頭に手を載せて。
フワリと柔らかく青みがかったその髪を撫でてやった。

「……アッシュは、ママが困ってると思ったんですよね?
だから、ママを助けてくれようと、したのでしょ?」

ジュビアがそう言うと、アッシュの目から、必死で我慢していたはずの涙が、ポロッと溢れた。

「…ママは、アッシュの気持ちはとても嬉しかったですよ?
でも、ちゃんとパパに、謝らないとね?」

ジュビアが、そう言うと、アッシュは
我慢できずにポロポロと小さな雫をこぼしながら、
「……俺は、悪くない。」
と、呟いた。

こんなに泣いてるくせに、素直じゃない息子を見ていると、またそれも微笑ましくてほんの少し可笑しくなってくる。





アッシュが、グレイ様に叱られた。

いつもは、ちゃんとというか、しぶしぶというか、それでもきちんとパパの言う事をきいているアッシュが、
今回珍しく折れなかったので。
そこから、二人が、言い争いの喧嘩に発展したのだ。

そうして、アッシュが、感情のままにグレイ様に魔法をぶつけたので、グレイ様が、仕方なく本当に本気でアッシュを叱った。

「パパなんか、大嫌い!!」

アッシュは、そう捨て台詞を吐き出して、言い争いをしていたリビングから飛びだして、隣の寝室に篭っていたのだけど。

いつの間にかそっと、寝室の窓からベランダの方に出ていたらしい。

きっと、自分からは寝室から出ることが出来なくて。

それで、ここでジュビアに見つけてもらうのを待っていたのだろうと思うと、こんなに後悔しているくせに頑固な息子にクスリ、と、笑ってしまう。



魔法を、教えて欲しい、と、アッシュがグレイ様に初めて頼んだのはもう、半年ほど前のこと。
そんなアッシュに、グレイ様が1つ条件を出した。

「字が、全部読めるようになったらな。」

アッシュはその条件を少しだけ不満に思ったみたいだったけれど、そこはグレイ様が頑として折れなかったので、
しぶしぶ先に字の勉強を始めた。

毎日一緒に、字や言葉のお勉強をして、もうすぐ全ての文字をマスターできるかしらと思い始めていた矢先のこと、
今日、とある事件が発生した。

アッシュが家の玄関を水浸しにして、挙句の果てには玄関のドアを氷の塊で破壊してしまったのだ。

ちょうどその直後に帰ってきたグレイ様が、最初はやんわりとアッシュを叱った。

「……ちゃんと教えるまで、魔法使ったらダメだっつったろ?」
「…………」

でも、アッシュがブスッとしたまま、グレイ様に返事をせずに。
そのまま、不貞腐れてプイ、と横を向いた。

「……アッシュ。返事は?」
「………!
パパは、なんで、俺に魔法を教えてくれないの?」
「……。教えねぇとは、言ってねえだろ。
字を全部覚えたら、って…」
「フェルだって、リブルだって!
まだ、字が全部は読めないけど、もう、ちゃんと教えてもらってるもん!」
「……人は、関係ねぇだろ。」
「フェルも、リブルも、俺より一つ下なのに!
ルナだって、こないだから、ママに魔法を習ってるって言ってた!」
「……アッシュ」
「……なんで、俺だけダメなの!?
俺…、俺だって、ちゃんと、魔法を習いたい…」

アッシュはそう言って、悔しそうにグレイ様の方をじっと見た。
グレイ様は、そんなアッシュの頭をポンポンと宥めるように叩いた後で。

「……アイツらとおまえはちがうンだよ。
とにかく、ちゃんと字の勉強が終わったら、教えてやるか……」

そう、アッシュに言おうとしたのだろう、けれど。
その言葉は最後までは紡がれなかった。

怒ったアッシュがまたしても魔法をぶつけて、今度はリビング中を水浸しにしてしまったから。
(あと、氷の欠片もあちこちに刺さっていたけれど。)

「アッシュ!」

そうなって、今度はグレイ様が本気でアッシュを怒鳴った。
真剣な顔で、アッシュを睨みつける。

アッシュは、グレイ様が本気で怒っていることがわかったのだろう、ビクーッと少し小さくなってグレイ様を見た後で。
でも、今日は負けじとグレイ様をギッと睨みつけた。

そして、例の爆弾発言を繰り出したのだ。

「パパなんか、大嫌い!!」

言ったアッシュが、そのまま脱兎の如く駆け出して、隣の寝室に篭ってしまったあとで、
チラリ、と、グレイ様を見てみると。

グレイ様は、何とも言えない複雑な顔をして、ハァァ、と溜め息をついて。
それから傍にあったタオルを手に取ってそのまま水浸しになった床を拭き始めた。

「…グレイ様、ジュビアが、やりますから。」
「いいよ。おまえ一人じゃ大変だろ。」

そう言いながら、シュンと頭を垂れている姿に思わず笑みがこぼれる。

「…なんだよ?」
「グレイ様、落ち込んでます?」
「…別に。落ち込んでなんかねぇし。」

ブスッとしながらそう言ったグレイ様にむかって、ニッコリとほほえんだ。

アッシュが、おそらく本気で言った訳ではないことは充分わかっていても、あの大嫌い発言は相当なショックだったらしい。
見るからに尻尾を垂れて落ち込んでいるその姿が、なんだか飼い主に見捨てられた大型犬のよう。

「グレイ様、かわいいです。」
「……っ、おまえなぁ…!」

バツが悪そうにそっぽを向いたグレイ様の袖を、ツンツンとひっぱってみた。
するとグレイ様は、少しだけじとっとこっちを見たあとで、小さく一つ息をついてジュビアの肩にポスッとその頭を落とした。

「……ちょっとだけ、このままな。」

そう言ったグレイ様が、ジュビアの身体にそっと腕を回して。
そのままふんわりと抱きしめてくれる。

「グレイ様」
「充電させて。なんか、もう、いろいろ。」

帰ってきていきなりの親子喧嘩に、そう言えばおかえりも言っていなかったと、ふと反省する。

「…おかえりなさい。グレイ様。」
「うん。」

しばらくそのままジュビアを抱きしめていたグレイ様は、ジュビアの首筋にそっと唇を落とした後に、ゆっくりとその腕を解いた。


「…てかさ、ガジルの野郎、フェルとリブルに魔法、教えてやってんの?」
「…みたいですね。ついこの間、始めたばかりみたいですけど。」
「………。」
「ふふ、ガジルくんは、ほんとはリブルくんにお稽古や修行をつけたいみたいなんですけど…。
リブルくんは、本ばっかり読んでてちっとも興味を示さないって、嘆いてました。」

ガジルくんとレビィさんの間には、アッシュの一つ下の双子の子供がいる。
兄の方をリブルくん、妹の方をフェルちゃん、という。
リブルくんの方は、きっとレビィさんに似たのだろう、とにかく本が好きで、いつも穏やかに暇さえあれば本を読んでいる。
反対にフェルちゃんの方は、これまたガジルくんの血を色濃く継いだのか、常にギルドの中を走り回っては色んな人に突撃アタックをかますという豆台風娘だ。
魔法の特訓や修行も、早く教えてほしかったのか、いつもガジルくんの首や腕にぶら下がっては、教えろ教えろと強請っていたのけれど。
最初は「おまえは女の子だろ。あぶねぇだろ。」なんて難色を示していたものの、なんだかんだで娘に甘いガジルくんは、結局この間からフェルちゃんに魔法を教えてやることにしたらしい。

「昨日は、あちこちで色んな物が破壊されてました。」
「…あの、やんちゃ娘め。」
「ふふ、でももしかしたら、そのやんちゃ娘が、将来グレイ様の娘になるかも、ですよ?」

ジュビアが、悪戯っぽく笑ってそう言うと。

「……あー、まぁ、うん。
おまえも、そう思ってた?」

そう言って、アッシュの消えた寝室の扉の方を見つめながら、何とも言えない微笑ましい顔で笑った。

「……それで?
ルナも?」
「はい。ルナちゃんは魔法を教えて貰ってるというよりは、まだ星霊と遊んでるだけですけどね。」

ルナちゃんも、アッシュよりは、一つ年下だけれども。
ルーシィは、早いうちから、ルナちゃんにはちゃんと星霊さん達との触れ合いを大事にしてもらいたいと思っているようで。

星霊達は『モノ』でも『道具』でもなく大切な『家族』で『友人』なのよ?

ルーシィが、口癖のようにルナちゃんに言い続けている台詞だ。
ナツさんも、そんなルーシィとルナちゃんが、可愛くて仕方ないらしい、チマチマと小さな魔法を教えてやっているようだった。

「………。」
「……羨ましいんですよ、アッシュは。」
「………。」
「それに、……ふふ、特にフェルちゃんには、
負けたくないんでしょうね。
いつも、色んなものに突撃するフェルちゃんを、ハラハラしながら気にしてるのが可愛くって。
……男の子なんだなぁ、って、思います。」

ジュビアがそう言うと、グレイ様は何とも優しく目元を緩めて、苦笑した。

「今日は、ご近所に越してこられたっていう方が、ご挨拶に来られて。」
「………。」
「それで、その方が、あのぅ、ちょっと困った方で……
ジュビアが困っていたので、アッシュはそれを見て。
ジュビアを助けてくれようとしたんですよ、きっと。」

ジュビアやグレイ様より、少しだけ歳上に見えたその男の人は、何と言うかこう、あまりにもスキンシップの激しい方というか、必要以上に距離の近い方というか、とんでもなく空気を読まない方というか。
ジュビアが、その方にとてもとても困っていたのを見て、
アッシュはその人を撃退しようとして。
そして、まだ上手く制御出来ない魔力を放ってしまった。
それが、水浸し扉崩壊事件へと発展したのだ。

ジュビアの話を聞いて、グレイ様はまた少し、眦を下げて苦笑した。
そうして、もう一度、アッシュの消えて行った扉の方を見つめて大きくため息をつく。

その姿に、グレイ様のいろいろな心配と葛藤が伝わってくるような気がして、思わずもう一度グレイ様の腕にそっと触れて、じっとグレイ様を見つめた。

魔法はきちんとした使い方をしなけれぱ、毒にも刃にもなる代物だ。
時に制御出来ずに自らが放ったその魔法がまるまる自分自身に返ってくることもある。
見様見真似で、よく内容も読めないままに魔導書なんかを勝手に見たりして、その結果間違った使い方をしてしまうと、とんでもない結果が待っていたりもする。

アッシュの魔力が高すぎるから。

感情が爆発したりすると、今日のように本人の思わぬ所で、魔力が暴走したり。

そして、本を見た子供が興味本意に魔法の真似事なんかをしても、本来なら普通の子供の魔力では到底実現しないような魔法でも、アッシュならばひょっとしたら発動してしまうかもしれないから。
その自分に返ってくる反動がどれほどのものなのかは、想像に難くない。

絶対氷結(アイスドシエル)やラストエイジスなど、その身を犠牲にしてしまう魔法をたくさん見てきたグレイ様は、だからアッシュに条件を出したのだ。

『字が読めるようになったらな。』

少なくとも、少しでも危険なことがないように。

グレイ様がそう思っていることは、ジュビアには痛いほど伝わっているのだけれど。

でも、アッシュの気持ちもよくわかるから。

こればかりは、なかなかに難しい問題ですね、と、そう思う。

もう一度グレイ様を見つめると、グレイ様は何かをじっと考えているような、そんな真剣な表情で、アッシュの消えた扉の方を見ていた。

そのグレイ様の表情を見て、
くすり、と心の中で微笑む。

きっと。

きっともうすぐ ーー。





〈続〉







長くなっちゃった、ので、一旦切ります。

ガジレビの子供が、双子ちゃんでリブルくんとフェルちゃん
ナツルーの子供が、ルナちゃん、ですね。

リブル(文字、本)
フェル(鉄)
を表すフランス語から、いただきました。
ルナちゃんは、ナツとルーシィから一文字ずつ。

子供の名前って、ほんと悩みます……!