glazed frost

FTのグレジュビ、OPのサンナミをこよなく愛するブログ。

ことのは ⑪

グレジュビ短編『ことのは』シリーズ⑪
⑩の続きですね。

11月22日、いい夫婦の日にちなんで。
ちょっと遅れてしまいましたが。

家族の風景。

ではでは。






水浸しになったリビングの片付けが一通り終わって。
ジュビアは夕食の準備に取り掛かったようで、パタパタと台所で動き回っている。

帰ってきて早々に繰り広げられた親子喧嘩と、玄関とリビングの散々たる有様の後片付けに追われて、
どうやらジュビアの予定は大きく狂ってしまったようだ。

共働きなのだから、と家の事もアッシュの事も分担してやろうと二人で決めてはいても、どうしても色々とジュビアの方が負担が大きくなってしまうことを、申し訳なく思ってはいるのだが。

ジュビアは、そんなことは苦とも思っていない様子でいつもニコニコ笑いながら、忙しそうに動き回っている。

『こうして、グレイ様とアッシュのご飯を作ったり、お世話をする事がジュビアの幸せなんですからね。
取り上げたりしたら、いくらグレイ様でもダメなんですよ?』

そう言って、幸せそうに微笑む。

穏やかで、愛しくて、幸せな日々の中。
アッシュとは、親子だったり、ライバルだったり、同志だったりする。

構って欲しそうに甘えてくるアッシュを愛しいと思ったり、成長した姿を見て涙ぐみそうになったり、ここはちゃんと叱らなきゃいけないと思ったり、そんな時は親子で父親の顔。

久しぶりに仕事から帰ってきたから、出来るだけジュビアを独り占めして抱きしめたいと思ってる時に限って、ジュビアがアッシュにかかりっきりだったり、さぁこれからジュビアを一晩中離すもんかと思っている時にタイミング良く(悪く?)アッシュが怖い夢を見たと言ってゴソゴソベッドルームに入って来たりする時には、ジュビアを取り合うライバルの顔。
しかも、たまにその表情を見るに、どうやらわざと俺のジャマをしてるんじゃないかと疑ってしまうような時もある。
これみよがしにジュビアの腰や胸にベッタリと引っ付いてやがるが、確信犯か?

それから。
俺が仕事に出掛ける前には、最近はアッシュと『男と男の秘密な』と言って拳をコツンとぶつけ合う同志になった。
2人で、ジュビアをママを、守る。そして、ジュビアに纏つく虫共を駆除する。
これが俺たちの暗黙の了解である。
『俺が仕事でいない時には、ママを頼む。』そう言って拳を合わせてやると、アッシュも誇らしそうに微笑む。
一人前に仕事を託されることの嬉しさと、大好きなジュビアを守りたい気持ちが溢れ出たその笑顔をいじらしいと、思う。

玄関を水浸しにして、扉を崩壊させたのはきっと、ジュビアが困ってると思って、ジュビアを守ろうと、したんだよな…。
そのいじらしさと、でもちゃんと叱らなきゃ、という思いの狭間で揺れてしまった。
こういう時に自分の父親としての未熟さを痛感して、申し訳なく思う。


ふと顔を上げると、目の前のテーブルに、アッシュがジュビアと字の練習をしているノートが、置いてあった。
……普段は、こんなとこに置いてないのに。
ジュビアが、置いていったのだろうか。

そっとそのノートを手に取って、パラパラと捲ってみた。

最初の方は全然上手くは書けていないページばかりが続くのだが、真ん中を過ぎた辺りから段々と読めるようになってくるから不思議だ。
子供は成長が早いんだな、こんなとこでも感動して泣きたくなってくるから俺もただの親バカだ。
ラストの方のページまで行くと、ちゃんと短い文章も書けるようになっていて。
ジュビアが綺麗な字を書くのをお手本にしているせいか、子供にしては整った字で、ジュビアが繰り出す質問に答えている。

『好きな食べ物は何ですか?』
『ママのつくってくれるごはん!』
『たとえば何?』
『トマトのシチュー。それから白いシチュー。
ママのパンもすき。かぼちゃのパイも。チーズケーキも。エビのグラタンも、やさいにおにくがつまったやつも、………』

ジュビアの『たとえば』に延々と答え続けているアッシュに笑ってしまう。
しかし、わかる。さすが俺の息子、言いたいことまで俺にそっくりそのまま、よくわかってやがる。
ジュビアの料理はどれも美味い。そして、アッシュが例にあげていった奴は特に美味いのだ。
今日は、さっきからにんにくの香ばしい香りがしているから、きっとパスタだな。それも、勿論店を出せるレベルの旨さなことは、間違いない。

『大好きな人は誰ですか?』
『パパとママ!』
『まぁ!ありがとうございます、アッシュ。
じゃあ、パパとママのほかだったら?』
『フェルとリブルとルナと、ナツパパとルーシィママと、ガジルパパとレビィママとミラちゃんとラクサスおじちゃんとカナちゃんと……』

そして、またしても延々と続くギルドの皆の名前にクスクスと笑ってしまった。
コイツはあれか、とにかく何でも皆、大好きなんだな。
愛情いっぱいに育ってくれていることが、嬉しい。


『嫌いなものはなんですか?』
『ほうれんそう』
『他には?』
『じのべんきょう』
『あら。うまくなってますよ?
頑張ってるのね、エライです。』


苦虫を潰したような顔をしたアッシュと、聖母のように微笑むジュビアが目に浮かんだ。
誉めてもらって、照れくさそうに笑う、アッシュの顔も。


『大きくなったら。何になりたいですか?』
『パパみたいな、つよい魔道士!』

…………。

一際力強く大きな字で書かれていたその言葉に。

ジーンとして、胸が締め付けられそうに、なった。

……ヤバイ。ちょっと、涙出そう。

こんな。
こんな、いじらしいことを言える位に、大きく、なったんだな、アイツ…。

そっと、ノートを畳んで、テーブルの上に戻した。

きっと、ジュビアが、俺に見せようとして。
ここに置いてくれたに違いない。

………。

……うん。
アッシュの所に行って、もう一度ちゃんと話をして…、

そんな風に思っていたら、ベランダへの扉がカタン、と開いて。
そこから、洗濯物の籠を抱えたジュビアと、そしてそのジュビアに手を引かれて俯いているアッシュが、リビングに入ってきた。

寝室に篭ってるとばかり、思っていたのに。
いつの間にか、ベランダに出ていたのか。

アッシュは、ジュビアに手を引かれたままで、ゆっくりとこちらに向かって歩いてくると。

少しだけ涙の跡の残った赤い目元をパチパチと何度か瞬きしてから、じぃっと俺の方を見つめてきた。

抱き上げて、とんとんと背中をさすってやりたい衝動を、ぐっと堪えて。
俺も立ち上がって、それから、アッシュの目線に合わせて、しゃがみこんだ。
男と、男の、話だもんな。
膝に乗せるんじゃなくて、しっかり、対等に。

アッシュの前にしゃがみこんで、じっと、その瞳を見つめて。
アッシュの言葉を、待つ。
……第一声、頑張れるか?



「……ごめん、なさい。」



アッシュは、ほんの少しだけ、目の端に雫を溜めながら、
でも、ちゃんと俺の方を見つめて、そう言った。

謝る勇気。
きちんと、その人の目を見て、逸らさずに。
その勇気をちゃんと持っているアッシュを、本当に偉いと思った。愛しい気持ちが、溢れ出てくる。

「……おう。」

クシャリ、と、その青みかがった髪に手を入れて、ガシガシと頭を撫でてやると、アッシュは我慢していた涙をこらえられなくなったのか、ポロリと、瞳からその雫を落とした。

「……アッシュ。」

片方の手をジュビアに引かれたアッシュの、もう片方の手を左手で握って。
それから、右手は、もう一度、グシャグシャと頭を撫でる。

「魔法、習いたいんだよな?」

そう尋ねるとアッシュは、じぃっと、こちらを見つめたあとで、大きく首を縦に振って肯いた。

「なんのために?
おまえは、なんのために、魔法を習いたい?」

そう言って、真剣にアッシュの目を見つめる。
アッシュは、じっと何かを考え込むように黙り込んだ後、
しばらくしてからキッと俺の方を見つめた。

「…まもりたいから。」

はっきりとした、口調でそう答えて、
そして、俺に繋がれた手を、ギュッと握り返す。

守りたいから。
ママを、フェルを、そして自分の大好きな人達を。
だから、魔法を使えるようになりたい。

そう答えたアッシュを、ギュッと抱きしめてやりたい気持ちがせり上がってきたのを、なんとか我慢して。

「……合格。
明日から、特訓な。」

そう言って、その頭をまた、ガシガシと撫でてやった。

「……!
いいの!?」
「おぅ。」
「……やった…!
ありがとう。パパ!」
「…ちゃんと、厳しくするからな。
弱音吐くなよ?」
「うん!」

アッシュが、満面の笑みを浮かべて俺に抱きついてきたから。
そのまま、ギュッと抱きしめ返してやった。

ずっと外に居たからか、身体が冷えてしまったようで、いつもよりも冷たい。

「…よし、一緒に風呂に入るか。」
「うん。」

アッシュが、にっこりと笑ってそう言った時に、今度はジュビアが、繋いでいたアッシュの手をそっと引いた。

「ママ?」
「アッシュ、じゃあ、今度はママとお約束。」
「はい。」
「パパのお許しが出たので、ママもアッシュに水の魔法を教えてあげます。」
「ほんとに!?」
「はい。……でも、その代わりに1つお約束してください。」

ジュビアの真剣な表情に、アッシュも真顔になってその場に居住まいを正す。

「魔法の本を見るときは、必ず誰か大人の人と一緒に見ること。知らない魔法を、子供だけで使ってはダメよ?」
「………。」
「世界は、まだまだアッシュの知らないことだらけです。
無茶をして、アッシュが怪我をするだけならまだしも、
フェルちゃんやリブルくんを巻き込んで怪我をさせたりしたら、皆が悲しいんですよ?わかる?」
「…うん。」
「あなたはね、人よりも少し生まれつきの魔力が高いの。
それを、よく心に置いて。
だから、人の何倍も、いろいろと気を付けなくてはなりません。これも、わかる?」
「…うん。」

ジュビアが、優しく諭していくその内容に、アッシュも真剣にジュビアの瞳を見て頷いてゆく。

「…わかったなら、いいの。
じゃあ、お風呂に入る用意をしましょうね。」

ジュビアは、一つ一つ真剣に頷くアッシュを見て満足気に微笑んでから、アッシュに向かってそう言った。

アッシュは、そんなジュビアを見てニッコリと笑った後で。
今度は、瞳をわずかに輝かせながら、俺の方を向いた。

「パパ。」
「ん?」
「パパも、お父さんに、魔法、教えてもらった?」

アッシュのキラキラとした表情に、そして、その言葉に、
親父と別れた遠いあの日を思い出して。
喉の奥の方に、なんとも言えない気持ちがこみ上げてくる。

「…うん。そうだな。
俺も、親父から、大事な魔法を貰ったよ。」
「……わぁ…!
おじいちゃんも、強かったの?」
「おぅ。俺の何倍も、な。」

アッシュの頭をクシャクシャと掻き混ぜながら、
……笑って、そう答えた。

俺とおふくろの仇を打とうと、何年も何年も生き抜いて。
とんでもない魔法を体得して、そして、嘘をついてまで俺にそれを託そうとしてくれた。
それから、そんな親父を、ジュビアが安らかに眠らせてくれたんだ。

その生き様に、今はただ、切なく温かい思いが湧き上がるばかりだ。

「……風呂、行ってきな。
俺も、あとから行くから。」

そう言って笑ってやると、アッシュは「うん!」と笑顔で頷いて。

それから、

「……だ、大嫌いなんて、言って、ごめんなさい……。」

俺の袖を小さくグッとと引いてから、一言そう言って、風呂に向かって駆け出して行った。

アッシュが、時々そんな風に俺の心を鷲掴みにしてくるのを見ていると『くそ、コイツこういうとこジュビアの息子だよな』と思わずには、いられない。
そっくりだし!
こういう天然で、可愛いところ。

駆け出して行ったアッシュを笑顔で見送っていたジュビアにそっとそっと近付いて、
それから、
ゆっくりとその肩を引き寄せた。

「グレイ様?」

腕の中で、不思議そうにそう呟いたジュビアを少し強めにギュッと抱きしめる。
それから、

「ありがとな。」

噛み締めるように、そう言った。

「な、何がです?」

ジュビアの方は、心底解らないとでも言いたげにキョトンとしてそう訊いてくる。

「…色々。ほんとに、色々、だよ。」


『守りたいから。』

俺は、今のアッシュよりも、もっと大きくなってからウルに弟子入りしたけれど、それでも先走って自分の復讐の気持ちのままに魔法を使おうとした。
俺よりずっと小さなうちから、アッシュはちゃんと、大事な物がわかってる。
俺なんかより、ずっと、偉いと思う。

ジュビアが、愛情たっぷりにしっかりと、アッシュを育ててくれているおかげだ。

今日、久しぶりに思い出した、親父のことも。
ジュビアのお陰で、ああして親父をお袋の所へ送ってやることが出来た。
辛い役目を背負わせたのに、ジュビアはいつも笑って俺を支えてくれた。

アッシュを産むときだって。
ジュビアは、自分の命をかけて、がんばってくれた。

それから、日々の生活でも。
おまえがいるから、俺達もこうやって生きていけるんだ、って。
何度も何度も、そう思うんだ。

「グレイ様?」

「ありがとう。」

再度ギュッと抱きしめた後で、今度は両手でその頬を覆って、額と額とをくっつけて。
俺に出来る最大限の優しい声で、精一杯の感謝の気持ちを込めて、もう一度そう言った。

ジュビアも、訳が解らないという顔をしながらも、腕の中で嬉しそうにニコニコ笑ったと思ったら、今度は俺の背中に手を回してギューッと抱きしめてきた。

「グレイ様、今回、お仕事長引きましたね。」
「うん。」
「やっぱり10日も会えないと、ジュビア、寂しくて死んじゃいそうでした……。」

ジュビアが、そんな風に言って甘えてきてくれたので、
俺も一気に恋愛モードに切り替わってしまう。

頤に手を掛けて上向かせて、
ゆっくりとその唇を塞いだ。

堪能するように、両の唇を食んだ後、そっと舌でジュビアの口を叩いて。
ゆっくりと唇を開いてくれたジュビアの舌を絡めとって、
それからまた、深く深く、キスをした。

……あぁ、ダメだ。
久しぶりだし、いろいろ、いろいろ、ヤバイ。
昔なら、このままここで、ジュビアの制止も全部無視して、何もかもいただいてしまうところだけれど。

アッシュが、風呂で待ってる。
行って、やらなきゃな。

「……今晩、覚悟しとけよ。
寝かせてやれねぇと、思う。」

その一言にボボボッと、真っ赤になったジュビアの瞼に、そっともう一つキスを落として。

クシャリ、と水色の髪に手を入れてから、

アッシュの待つ風呂場に向かったーー。








***






《おまけ》

お風呂な風景。


「あ、そうだ、アッシュ。
本を見るとき、の話だけど。
ママの言う『大人の人』に、ナツは入れるなよ?」
「え、そうなの?」
「……ガジル、…ガジルは、まぁ、…いいか。」
「……?
うん、でも、わかった!」


「それから、今日、玄関に来たっつーその困った人?
一体、何した訳?」
「んーとね、その人、ずっと、ママの手を握ってて…」
「……は?」
「こんな近くにこんな綺麗な女性(ひと)がいるなんて。とか、
ここに引っ越してきてよかった。とか、言ってた。
でー、ママに、……あの、ほら、なんだっけ…?」
「………。」
「……えーと…
こないだカナちゃんが、言ってた……
あー!『壁ドン』だ!『壁ドン』ってやつ、してた!」
「………。」
「…パパ?」
「……どいつだったか、明日、俺に教えろよ。」










〈了〉







親子な風景。
そして、夫婦な風景。

お引越ししてきた方は、グイグイジュビアに寄って行っただけで、決して壁ドン?はしておりません。笑

カナは、一体何を教えているのだろう……笑