glazed frost

FTのグレジュビ、OPのサンナミをこよなく愛するブログ。

惑いの月

グレジュビ短編。

原作ストーリーをグレジュビ補充しよう、なお話です。
同棲中の2人。

暗い、内容ない、文章おかしい、の三重苦ですが。

よろしければ、どうぞ。







¨

「お、美味いな、これ。」

グレイ様がそう言って、ニヤリと笑ってくれた。

「はい。あちらの方に、お料理の仕方を教わって。
皮が硬いのでちょっと大変でしたけど、身は美味しいですよね。」

ジュビアも微笑んでそう返事をすると、グレイ様はまた優しくフッと笑って、そうして、ジュビアの頭をポンポン、としてくれた。

……幸せ。心の中がほっこりと暖かくなる。

こんな時だけど。
ううん、こんな時、だからかもしれない。
こんな僅かな、小さな日々の出来事が、とんでもなく嬉しくて、優しい。

グレイ様と、ここで、2人で暮らし始めて、5ヶ月の時が過ぎた。
周りには殆ど人もいないような、小さな小さな村とも言えないような村。

『俺は、絶対に、ENDを倒す』

そう決意したグレイ様の生き方に付き添うようにして、
2人でここへやってきた。
グレイ様は、ジュビアが共に行きたいと言い出した時も、特に何も言わなかった。
来るな、とも。
一緒に来い、とも。

ジュビアには、グレイ様の隣に居る資格なんて本当はない。
グレイ様を好きでいる権利も、もうない。
ちゃんと、それはわかっている。
でも、でも、一緒に行きたかった。
一緒に居れば、グレイ様を護れる。
共に闘うことも、それから、盾になることも出来る。

連れて行っては、くれないかもしれない。
それならそれで、影からグレイ様を守ろう。

そう決心して、グレイ様に
『……ジュ、ジュビア、一緒に、連れて行ってほしいです…!』
と切り出した。

ジュビアのそのセリフを聞いて。
グレイ様はしばらく立ちすくんで何だか辛そうな表情をしたあとで、
何も言わずに、踵を返して歩き始めた。
だから。
ただ黙って歩き出したグレイ様の跡を、ジュビアもおずおずと追いかけた。
グレイ様の数歩後ろ、ほんの僅かな距離をあけて。
どの位そうしていただろう、そうやって歩き始めてしばらく経った頃に。

突然、グレイ様が、立ち止まった。
縮まる、2人の間の、距離。

そして、グレイ様は。
ゆっくりと、ジュビアに向かって、その手を差し出してくれた。
何も言わずにそっと。

その仕草に、思わずビックリして、目を見開いてしまう。

……、……いいの?
その手を、掴んでも、いいの?

自分から言い出したくせに、そんな風に躊躇うジュビアを見て、グレイ様は何かを言いたそうにじっとジュビアを見つめて。

そして、黙って、グッとジュビアの手を掴んだ。

「……行くぞ」

一言だけそう言って、そのままゆっくりと歩き出したグレイ様は、ジュビアの手を放さずにジュビアを引っ張っていってくれた。

……許して、もらえた。
隣にいることを。
共に、行くことを。
2人で、闘うことを。

これで、これで、もう充分。
ジュビアには、もうこれで、充分すぎる。

二人での新しい世界がスタートした。

グレイ様とジュビアは、それからしばらくあちこちを彷徨った後で、ここに家を借りて落ち着くことにした。

必要な物を買わなくてはならない時、日々の暮らしのために仕事に出る時は、街へ行って買い物や仕事をしたり。
ENDの手掛かりを求めて、僅かな情報を元に旅に出たり。
何もない時は2人で修行をしたりして、共に、暮らした。

決して、きちんと腰を落ち着けた訳ではない、どこか綱渡りのような不安定な日々。
ただただ、グレイ様の『ENDを倒す』という大きな目標のためだけの、仮暮らしのような日々。

……贅沢に、なってはいけない。
これは、あくまでも、仮の夢のような日々なのだから。

でも、2人で過ごす、このある意味穏やかな日々が、ジュビアの心の中に優しい光を落としていく。

ギルドの皆に会いたい、とも思う。
こんなに暮らしが、永遠に続くわけではない、とも思う。

それでも。
それでも、こうして、2人でお互いの息遣いを感じながら過ごす日々は、とても幸せで…。

失くしたく、ない。
でも、このままでいい訳もない。
そんな葛藤の中で、毎日小さな幸せが積み重なっていっている。


そんな日々の中、今日は。

2人で出掛けた仕事先(海獣の討伐だった)で、報酬とは別に
おまけにといって、仕留めた海獣の肉を貰った。

硬い皮に包まれたその肉は、中身はとても美味しいから食べてみるといい、そう、その海街の人に言われて。

いただいたその塊を見て、『どうやって食べるの?これ…』とジュビアが途方に暮れて見つめていると、
傍にいた漁師の奥さんが、ふふっと笑って
『お料理の仕方を教えてあげるからおいで!』
と言ってくれた。
そして、
『初めてならちょっと難しいんだよ、これは。
お兄さん、このかわいい嫁さん借りてくわよ!』
そう言って、ジュビアの腕を引っ張って行く。

よ、よよよよ、嫁さん…!?

ジュビアとグレイ様は、そんなそんな、そんなアレじゃ…!

ジュビアが焦ってワタワタとしている中、
グレイ様は『おぅ、頼むわ』と言って、ただニヤリと微笑んでヒラヒラと手を降っていた。

…グレイ様。
お願いです。
そんな風に、…何でもないことみたいに笑わないで。

グレイ様にとって、何の意味もなくても、ジュビアにはそうじゃないから。
ダメだとわかってるのに、小さな糸にすがりたくなってしまうから……。





「マジで美味かった。ご馳走さん。」
「残ったのは、塩漬けにして、置いておきます。
グレイ様、後で氷の箱に埋めてくださいね。」
「おぅ。」

ジュビアがそう言うと、グレイ様はクシャリと笑って、またジュビアの頭をポンポン、と叩いてくれた。

いつもいつも、グレイ様はこうやって、ジュビアの頭を優しく撫でてくれる。

それ以上の親密な触れ合いがあるわけではもちろんなくて、これがいつものジュビアとグレイ様との距離。

優しい、優しい、距離。
優しくて、そして、残酷な距離。

好きでいてはいけないとわかっているのに、この優しい人を諦める事が出来なくなる。

これで、充分、のはずなのに。
グレイ様の役に立てれば、それで。

なのに、小さな希望の糸にユラユラと揺られて、伸ばしてはいけない手を伸ばしそうになる。

ダメだよ、ジュビア。
自分には、そんな資格はない。

これは、仮の夢。

グレイ様の見せてくれる、儚い夢なんだからーー。





**





熱い湯を身体に浴びて、下だけさっと衣類を身に着けて、さっぱりとした気分で扉を開くと。

ベッドの上で、丸くなってスヤスヤと眠っているジュビアを見つけた。
どうやら俺を待っていて、そのまま寝落ちてしまったらしい。

……疲れたんだよな。
仕事の後に、あの硬い皮と格闘して料理を作って、それから、飯の後には残った肉を一所懸命に塩漬けにする作業をしていたのだから。

そっと傍に寄って、足元に丸まっていた掛布をかけてやる。

「……風邪、ひくっつの」

ギィ、と小さな音を立てて、ジュビアを起こさないようにベッドに腰掛けた。
かけてやった掛布の隙間からこぼれた、蒼い髪をそっと、元に戻してやる。

そのまま、じっと、ジュビアを見つめた。

シーツに散らばる、ふんわりとウェーブのかかった猫っ毛。
伏せた長い睫毛の下には、あのツンとつり上がった綺麗な瞳が隠されている。

「……なんで、連れてきちまったんだろうな。」

こんなふうになることを、きっと心のどこかでわかっていたのに。




何も言わずに、出発するつもりだった。
1人で、ENDを探す旅に出るつもりだった。

なのに、ジュビアはやってきた。
まるで、図ったかのように、出発の朝に俺のところにやってきて…、…そして、自分も連れて行って欲しい、とそう言った。

唇を噛み締めながら、必死に零れそうな涙をこらえているジュビアを見て。

……一緒に連れて行っては、いけないと、思った。

何があるのか、どんな闇が待ち受けているのかもわからない、当てのない旅だ。
自分はこれから、ぜレフ書最大の悪魔と呼ばれるモノを探しにゆくのだから。

この時は、自分の中でのジュビアの存在がどういうものなのかを、はっきりと自覚していたわけではなかった、と思う。
いや、わかっていたのに見ないようにしていただけか。

ただ、その時は、ジュビアは、ジュビアだけは、連れて行ってはいけない、と、そう思った。
自分のことなんか二の次で、俺の為ならそれこそ、どんなに自分の身が危なくても、構わず危険の中に飛び込もうとするような奴、だから。

……巻き込みたくない。
そんなジュビアだからこそ、連れていけない。

そう思って、心のどこかで自覚し始めていた自分の想いに必死に蓋をして、ジュビアを振り切った。

なのに。

1人歩く俺の後ろを、シュンと俯きながら黙って付いて来たジュビアを、泣きそうな顔で俺を見つめていたジュビアを。
……どうしても、放っておく事が出来なくて、気が付いたらその手を取って、2人で歩き出していた。




ゆっくりと、ジュビアの髪に手を入れて、そっと梳いた。

くすぐったかったのか、少しだけ可愛く首をすくめて、ジュビアが身動ぐ。
それから、
んっ…、という甘い声が唇から漏れた。

ジュビアの顔の両側に、そっと手をついて。

手の檻に閉じ込めるように、その寝顔を見つめる。

決して触れないように注意して、ほんの少しだけ、その距離を縮めた。

ほんのりと色づく頬と、少しだけ開いたその唇から、目が離せなくなる。


……触れたい、と。

そう思う気持ちを抑えられなくなったのは、いつからだっただろうか。

…可愛い、愛しい、と思う、この気持ちから、どうやっても目を逸らせなくなったのは。

無防備に眠るその顔に、吸い寄せられるようにその距離を縮めた。

唇と唇が、触れるか触れないかの所まで近付いたその時。

ジュビアが『ん…』とまた小さく身じろいだ。

ハッとして、慌てて自分の身体を引き剥がす。


……だめだろ。

こんなことの為に、コイツを連れてきたわけじゃない。


……離れろよ。
この、距離はまずい。

おまえ、テメェのことわかってんのか。
こんなに近くで、ジュビアの吐息を感じて、ちゃんと自分を抑えられんのか。

自分で自分に激しく叱咤してみても、少しだけ離したその距離から、近付くことも離れることも出来ずに。
ただ、慎重に、触れないように、ジュビアの両脇についたその手の檻の中にジュビアを閉じ込めたまま、結局は動けない自分に呆れる。



「……こんなふうになるって、わかってたのに、な」

腕の中のジュビアに向かって、小さくそう囁いた。


おまえは。

もう俺の事を好きでいてはいけないんだ、と、そう言った。

親父を天に逝かせてしまったその贖罪のためだけに、ここにこうして居てくれるんだ、ということも、
ちゃんと理解ってる。


ENDは、俺が倒す。

俺とオフクロの仇を討とうと、死人の状態で必死で闘い続けた親父の遺志は、俺が継ぐ。

それが終わるまで、自分の気持ちをおまえに告げるつもりもない。
何もかも、終わらせてからだ。

親父が俺に託した想いも。
それから、おまえの、感じる必要もないのに抱え込んでいるその贖罪の想いも、すべて昇華できたら。

その時には、この気持ちに嘘をつくこともなく、真っ直ぐにおまえに向きあえる日が来るかもな、と。

そんな風に思いながら、ここでの2人の生活を過ごしてきた。


……なのに。



ジュビアが、微笑う。
美味しそうな果物を見つけたと言っては微笑み、
家の近くにやってくる子猫にエサをやっては愛しそうに撫でてやりながら、またニッコリと笑う。

『グレイ様〜』と無邪気にすり寄っては、俺の世話を焼いて、そしてまた溢れるような笑顔で笑う。

…かわいい。

そう思う度に、何度も何度も触れそうになるこの手を、ぐっと握り締める。

キョトンとしたジュビアの笑顔に、込み上げる想いを必死で堪えて、ポンポン、とジュビアの頭を撫でる。


ジュビアが、隣で眠る。

無防備に、コテンと俺の肩に頭を乗せて、すぅすぅと寝息を立てて。

引き寄せて、抱きしめて、何もかも自分の物にしてしまいたい衝動を必死で堪える。
ほんの少し、我慢できずに頬や唇にそっと指を這わせただけで、自分の身体の芯の部分がどんどん熱くなっていくのがわかる。

触れたい。
……全部、全部、欲しい。

……抱きたい。

毎日、毎日、こんなことばかりの繰り返しだ。

ここ最近は、もう、とてもじゃないが自分の想いを抑えておける自信なんてなくなってきていた。


「……ちょっとは、警戒してくれ。
……頼むから。」

眠っているジュビアに向かって、せり上がる想いと共にそう吐き出した。

いつまでも見つめていたいと思うその気持ちをなんとか振り切って、ジュビアの両側についていた手を、ベッドから引きはがした。

ゆっくりと立ち上がって、ジュビアから離れる。

そして、テーブルの上に置いてある酒を、一気に煽った。



『お兄さん、このかわいい嫁さん借りてくわよ!』

今日、あの海の街の漁師の奥さんにそう言われた。
くすぐったくて、甘酸っぱいその響きに、思わず笑みがこぼれた。

アワアワと慌てているジュビアを見て、胸がしめつけられるように温かな想いで満たされる。

まるで本当に自分のものであるかのように、『おぅ、頼むわ』と返事をした。
こんな僅かなことでおまえを縛りつけようなんて、自分でも呆れる。
何も答えなんて出せていないくせに。
ごめんな、……こんな、狡い男で。




酒の瓶を持ち上げながら、目に入った黒い腕の紋様を、じっと、見つめた。


……まさか、エルザに会うとはな。


この黒紋が、一体どういうものなのか、
滅悪魔法の副作用だということはわかっているが、これが周りにどんな影響を及ぼすのか。
色々と気になって、ジュビアには黙ってポーリュシカのバァさんの所に通っていたら。

そこで、今日偶然にエルザに会った。

半年ぶりにお互いの近況を語り合ってから、
エルザは俺の身体の黒紋を見てしばらく考え込む素振りを見せて。

それから、ある提案を俺に投げかけてきた。

潜入作戦。
今、エルザが追っているという、とある教団に潜入してみてはくれないか、と。

二つ返事で『行く』と言って、エルザからの依頼を受け入れた。

ぜレフを盲信しているというその教団。
近づけば、何かENDに関する情報も得られるかもしれない。

それに。

ゴトリ、と持っていた瓶を、テーブルに戻した。
そして、そっと、ベッドで眠るジュビアにもう一度近付く。

起こさないように、触れないように。

静かにそこに座って、それから、じっとジュビアの顔を見つめた。

それに、な、ジュビア。

俺、もう、……そろそろ限界なんだよ。
こうやって、おまえの傍にいるのが、もう。

エルザの話を聞いた時に、一番に湧いてきたのが、実はそんな自分の中の馬鹿みたいな感情だったなんてことは、誰にも言えない事だった。


そして。

「…ごめんな、ジュビア。

今度こそ、…連れて行ってはやれねぇわ。」

眠っているジュビアに、ぼそりとそう呟いた。


エルザからは、ジュビアには黙っておくようにと釘を刺された。
事情を知るものを外部に置かないこと、それが潜入の条件だと。
そして、事情を知っているとジュビアにも危険が及ぶかもしれないから、と。

言われなくても。

はなから、ジュビアに事情を話すつもりなんてない。

何があるかわからねぇところに、連れていくことなんて出来る訳もない。
でも、話したらきっと、コイツは自分も一緒に付いていくと言いだすに決まってる。
そして、ジュビアを盾に取られてしまったら、きっと何を捨てても自分は作戦を決行なんて出来なくなる。
それなら、もう、黙って行くしかない。

そして、何よりも。

自分自身のこの能力を、自分できちんと御しきれるかの自信もない。

冥府の門(タルタロス)の奴等、特に、あのマルドギールとかいう奴と闘った時のあの感触。
自分の身体の中の、悪魔の部分が顔を出してくる、あのゾクリとした感覚。
それが、こうやって頭をもたげてくる。
ぜレフに似た魔力ーー身体中に顕れる黒い染みのようなその標(しるし)。

黒魔術教団なんてものに影響を受けて、
万が一にもこの力を御しきれずに、何かの間違いで、俺がおまえを傷つけるような事になったら…。
そんな仮の出来事を想像するだけで、この
この身が震えて、止まらなく、なる。


……おまえだけは、なくしたく、ない。

巻き込みたくない。


そっと、ジュビアの髪に、手を入れた。

フワリ、とその髪を持ち上げて、唇を落とす。

その白い肌に触れてしまったら、もう、きっと止まってやれねぇから。
だから、今は、これだけ。

この髪に触れることだけ、許してほしい。


……ごめんな。

きっと、泣かせる。

おまえが泣くことがわかってて、この依頼を引き受けた。

ごめん。


口づけたジュビアの髪を名残惜しく放してから、じっと、自分の腕の黒紋を見つめた。

……飲まれや、しねぇよ。

この能力(ちから)を制御しきって、その教団とやらを調べあげたら、ちゃんと戻ってくる。

ここに。
この俺たちの家に、ちゃんと、戻ってくるから。
そうしたら、また、あのこぼれ落ちるような笑顔を見せてくれるか?

眠るジュビアを見つめて、フッ、と自嘲じみた笑いが浮かぶ。

そうなったら、もう多分、こんな風に我慢なんて出来ないような気がした。
会えなかったその分、この腕におまえを抱き締めて、何もかも自分のものにしてしまうかも、しれない、と。

どうか。

どうか、その時まで、この温もりがここに、ありますように。


そんな祈りをこめて、もう一度。

ジュビアの髪に、そっとキスをしたのを、

蒼い月だけが見ていたーー。









〈了〉













∞∞後書き∞∞



こんなモノを書いたらダメ…!ってわかっていながらも
衝動を抑えきれず、ざかざかと。
ごめんなさい〜。
そして、半日クオリティなので、出来のショボさ等、ほんとにいろいろとご勘弁下さいませ。

本誌の流れに沿わせまして、中身を少しずつ変えていきました。

とりあえず私は、グレイ様に説教したいです!!
ジュビアの涙がもう、かわいそうで。
なんとかしろー!こら!


ということで、
半年間の2人を妄想。

すれ違いな2人だけど、想い合う2人、です。


どうか皆さんからお叱りをいただきませんようにと祈るばかりです。

に、逃げよう…。