glazed frost

FTのグレジュビ、OPのサンナミをこよなく愛するブログ。

へカーテの花〈1〉

グレジュビ プチ連載 へカーテの花 第1幕です。

思いっきりパロディ。

軍人グレイ様 × 貴族令嬢ジュビア となっております。

先日読んだ、とある素敵な小説の設定を半分ほどお借りしました。

ものすごーく、好みの分かれるお話になりますので、
どんなものでも大丈夫ー、ばっちこい。な方のみ
お進みくださいませ。

ではでは。



前日からの豪雨のせいで、水嵩を増した濁流がうねっていた。
息苦しさから、ゴボッと吐いた呼吸のせいで逆流した濁水が、口の中に入ってくる。
何かを掴もうと伸ばした手も、豪流の中ではなにも掴むことなど出来るはずもなく、彼女はただただ流れる水に身を任せる事しかできなかった。

何を、掴もうと、いうの。
まさか、まだ、生きていたい、とでも思っているの?

自分の心に自問してみても、その答えは出なかった。

叩きつけられた冷たい水に一瞬飛んだ意識も、あまりの水の冷たさと息苦しさにすぐに彼女の元に戻ってきた。

苦しい、冷たい、腕も足も、ちぎれそうなほどに痛い。
助けて、助けて。
そう、心の中のどこかが、叫ぶ。
あの人を求めてる。

しかし、最後に見た彼の顔を思い出したその瞬間に、彼女は濁流に抗うことを手放した。

必死で、何かを叫んで、伸ばしてくれたあの手。

もう、あれだけで、いい。
あれだけで。

無意識で掴んでいた胸元のペンダントをギュッと握りしめた。
いつも、いつも、たったひとつこのペンダントだけが、すがりつきたいこの想いを救ってくれた。

ーーこの水底に、何もかも、置いていこう。

過去も、この想いも、そして、このちっぽけな命も。

それが、いい。
生きていても、あの人を苦しめるだけなのだもの。

零れる涙も、水に溶けてこの流れの一部になっていく。
同じように、自分自身も、このまま消えてしまえば、いい。

ゴボッ、と、もう一度、大きく息を吐いた。

意識を失う直前に、思い出したのは、やっぱりあの人の笑顔。

そして、最後に見たのは、引きちぎられて流されていく、ペンダント。

お願い、……離れて、行かないで。

必死にそう思って手を伸ばしたと同時に、
グタリ、と弛緩した身体にはもう僅かな力も残ってはいなくて、そのまま、濁流の彼方へとのまれていったーー。







もう、時刻はそろそろ、夕刻になろうとしていた。

早く帰らなきゃ。
なんだか、雨も降ってきそうな、怪しい空模様だし。

そう思って、ジュビアは、大事なおつかい籠を腕に抱えたまま、少しばかり歩いていた歩を速めた。
今日は、ご領主様から、かなり多くの寄付をいただけたのだもの。
そして、この、籠いっぱいのパンも。
帰ったら、マスターも子供たちも、きっと喜ぶにちがいない。
ジュビアには、この位しか、皆に恩返し出来ることがないのだから。
だから、早く帰って、皆に喜ぶ顔が見たいのに。

ジュビアは、そう思いながら、どんどんと暗くなっていく空の色を見つめた。

雨は、ーー嫌いだ。
出来れば、濡れたくない。
雨に、というよりも、水に。
水は、……怖い。

いつからそうなのかは、わからない。
助け出された時には、自分は、自分の名前以外のこれまでのすべての記憶を失っていたから。
でも、マスターは『おそらく、川で溺れた事が原因じゃろう』と言っていた。

助けてもらって最初の1ヶ月ほどの事はよく覚えていない。
身体を動かすことも、食事を取ることさえ、ろくに出来なかったらしい。
流れ着いた河辺でジュビアを見つけた時は、漂着物に引っ付いて、かろうじて息をしていた、と、後になってマスターから聞かされた。
なんとか溺死をまぬがれたものの、満身創痍のその身体はあちこち傷だらけで、しかも内蔵の機能も激しく低下している、と医者は言っていたらしい。
そんなジュビアが、なんとか起き上がって身体を動かせるようになるまで、マスターやミラはとても親身になってジュビアの面倒をみてくれた。
どこの誰かもわからない、こんなジュビアのことを。
本当にどれだけ感謝しても足りないのに、マスターはそれは当然の事だから、気にすることはない、と言う。
ここは慈善院じゃ、もともと、親も頼れる大人もいないそんな子供達の『家』なのだから、と。

助けてくれた慈善院の人達は、本当に親切だった。
なのに、ジュビアは、最初は、それさえも怖かった。
誰かの手が、自分に伸びてくることも。かけられる言葉も。
ーー逃げなければ。
そんな気持ちに突き動かされる時も何度もあって。
実際にベッドを抜け出したりも、した。

周りの人達は、そんなジュビアにも根気よく優しく接してくれた。
そんな優しい人達のおかげで、ジュビアはなんとかこうして普通の生活が送れるようになるまでに、回復した。

ジュビアが助け出された時に着ていた服はとても高級な素材の瀟洒なドレスだった。
だから『きっと上流階級の、少なくとも貴族の娘さんだと思うのよ』ミラは笑ってそう言っていたけれど、無理矢理にジュビアがどこの誰かを探し出すようなことは、しなかった。
ジュビア自身が、心のどこかでそれを怖がっていることを皆が知ってくれていたのだ。
そういった数々のことを含めて、慈善院の皆には、本当に良くしてもらっている。
決して裕福ではないのに、こうして2カ月間もジュビアをそこに置いてくれていて。
だから、自分に出来る恩返しがあれば、なんだってしたいとそうジュビアは思っていた。

元気になってからも、水は、怖い。
そして、後ろから声をかけられることも。
大人の男性に見つめられることも、怖い。
失った記憶の中に、それらへの答えはきっとあるのだろう。でも、思い出したくない。
記憶の中の何かを掴もうとすると、激しい頭痛に見舞われた。自分の身体全部でそれを拒否しているようなそんな気がした。
そして、そんな時はいつも、何かを求めるように掌が胸元をさまよった。
ジュビアは一体何を求めているのだろう。

大きくため息をついて、まっすぐと足早に慈善院への道を急ぐ。
雨、も、確かに急ぐ理由の一つではあるが。
何よりも、これだけたくさんのパンや寄付金を、早く皆に見て欲しい。皆の喜ぶ顔が、見たい。

そう思って、急ぎ足で角を曲がると、道の一番奥に求めていた温かい灯が見えた。
その灯に向かってさらに歩を速めたその時。
建物の前に、慈善院にはおよそ不釣り合いな、豪華な馬車が止まっているのが見えた。
なんだろう。ざわり、とした、イヤな予感がジュビアの中で渦巻いた。
それは、今までの2ヶ月間で1度も見たことのない光景だった。

ちょっとやそっとのお金持ちが持てるような代物では、ない。
おそらくは、貴族の、持ち物。
そんなものが、どうして。

ザワザワと荒れ狂う気持ちが、ジュビアの足を緩めた。
そして、右手は何度も、胸元でドレスを握りしめていた。
止めてある馬車の横をそっと通り過ぎ、もうすぐでたどり着く、というその扉の手前まで来て、ジュビアはついに歩を止めた。
そのまま、俯いてその場で立ち尽くしてしまう。

すると、その時。

外の気配を察知したのかどうか、突然に、バンッと、叩きつけるような音がして、その扉が開いた。
本当にドアが外れるのではないか、と思うくらいの大きな音に、ジュビアは思わずビクンッと肩をすくめた。

「…っ、ジュビア!」

そう叫んだ男の人の姿は、扉の向こうの逆光でよく見えなかった。
でも。
そのシルエットに、ザワザワとした恐怖感が、足元から這い上がってくる。

彼が、一気に距離を詰めて、自分の方へ駆け寄ってくる。

ーー逃げなきゃ。

咄嗟にそう思って、2、3歩、後ずさったジュビアの腕を、その男が掴んだ。

そして、一瞬後には。
彼に思い切り引き寄せられて、気づいた時には、ジュビアは、その男の腕の中に閉じ込められて、いたーー。





〈続〉





思いっきりのパロディなので、閲覧注意。

少しずつ、進んでいきます。