glazed frost

FTのグレジュビ、OPのサンナミをこよなく愛するブログ。

この言葉を…①

グレジュビ小説第1段。

 

とりあえず、健気なジュビアと、必死なグレイが書きたかっただけですね。

全4話 プラス おまけ1話。

 

グレイ20歳、ジュビア19歳位のイメージでどうぞーー。

  

*****

 

この言葉を…①

 

 

 

 

降りしきる雨の中を、ともすれば蹴破りたい程の逸る気持ちを必死に抑えてギルドの扉を開く。

何日も続いているこの雨がなにかを暗示しているようで、むしゃくしゃしたこの気分は到底晴れそうにはなかった。

 

 

 

「ただいま~!」

「あら、ルーシィ。お帰りなさい。」

 

にこやかな笑顔でミラが出迎える中、最強チームの面々が次々とギルドの中に入っていく。

 

「今回は早かったわね。

依頼書には結構な難件で日数を要するって書いてあったのに。」

「馬鹿言うんじゃねえ。あの程度のクエスト、俺たちにかかれば、朝飯前どころか夜明け前だせ。」

「あいー。ナツ、意味不明だから。」

 

ミラのセリフに意気揚々と答えるナツにハッピーの合いの手が入って、ギルドの中にいつもの笑い声が響く。良くも悪くもやはり彼らはこのギルドの中心人物なのだ。

 

「っていうよりグレイがね……」

 

カウンターのスツールに腰かけながら、心底げんなりした顔でルーシィがそう口を開きかけたと同時に、グレイがカウンターの上にダンッと手をついた。

 

 

「ミラちゃん、あいつは?」

 

不機嫌な様子を隠そうともせずに、グレイがミラに訊ねると。

 

「あいつって?」

 

今度はミラが、全てを吹き飛ばす程の満面の笑みで、わざとらしくグレイに向かって聞き返した。

 

 

「……っ…」

 

次の句がつげずに押し黙ったグレイと、

相変わらずニコニコと微笑えんでいるミラを、

ルーシィはヒヤヒヤした表情で交互に見た。

 

絡み合った視線を先に反らしたのは、グレイの方だった。

そうして何かを睨み付けるような眼光でぐるりとギルドの中を見回してから、そのままもと来た扉の方に踵を返そうとしたその時。

 

 

「ジュビアなら」

 

 

その背中に向けてミラが口を開いた。

 

「昨日の夜から仕事に出掛けたわ。

帰りは、今晩か明日あたりね。」

 

カウンターの中でグラスを拭きながら、ミラがそっと目を臥せて答える。

 

「明日にはグレイ達が戻ってくるって ラクリマで連絡があったわよ、

って言ったんだけど。

どうしても夜の内に出かけたいからって。」

 

今度は幾分優しい声音で、少し労るように付け足す。

そのセリフを黙って背中で聞いていたグレイは、少しだけ肩の力を抜いて、髪をかきあげながら深い溜め息を吐いた。

 

「………わりぃけど、俺、今日は帰るわ。

仕事の報告は任せる。」

 

息を詰めてそう言い残し、グレイはそのまま扉を開けてギルドから出ていった。

 

 

 

「「……はぁぁ~~~っ…」」

 

ピーンと張りつめた空気が一気に弛んで、ギルドの中に深い溜め息がもれる。

 

「ミラさぁん~、挑発しないでよ~っ」

「あら、ルーシィ。

人聞きの悪いこと言うわね。」

 

ニッコリと満面の笑みで答えたミラは明らかに確信犯だ。

 

「日に日に不機嫌な様子が増してくのよ~!

ウェンディなんて、ビクビクして声もかけられない位に!」

「まぁ、その分仕事は早かったがな。

今回は八割は奴の手柄だ。」

「俺はちっとも楽しくなかったぞ!」

「相手の敵の方々がお気の毒な位でした~…」

 

この数日を共にしていたチームのメンバー、

ルーシィ、エルザ、ナツ、ウェンディは口々にぼやき合う。

 

「……まぁ仕方ないわよね。」

「そうだよ。ルーちゃん!

だって、グレイ、もう長いことジュビアに会ってないんだよ!?」

 

勢いこんで言ったレビィのセリフには少しばかりの同情の色も含まれているようだ。

 

「会ってないっつーかさぁ」

 

テーブルの上で酒樽を抱えたまま、カナがピシッとルーシィとレビィを指さして言った。

 

「アレは『避けられてる』って言うんじゃないの?」

「カ、カ、カナ。それは言ったら……」

 

誰もが出来るだけ触れないようにしていたその話題にズバリと切り込んだカナに向かって、ルーシィもいつもの突っ込みの切れ味を失ってしまった。

 

「あら、カナ。鋭いわね♪」

 

相変わらずニコニコと微笑むミラの様子を見て、ルーシィとレビィは顔を見合わせてガックリと項垂れた。

 

「ジュビアったら、一体どうしちゃったのよ~?」

 

 

 

********

 

 

 

ギルドを出てからも真っ直ぐに自宅に戻る気になれなかったグレイは、近くのバールでジョッキを煽っていた。

 

もうどのくらい、ジュビアと会ってないだろうか。

最後に話をしたのは……、そうか、もう2週間以上も前だ。

最初の内はそう気にもとめなかった。

お互いに別の仕事に行けばすれ違いで何日か会えないこともままあったし、ギルドでチラッと顔を見たと思ったら次の瞬間にはもうその場に居なくて、「アレ?」と思ったような時でも、なんだかんだと絡んでくるナツやガジルの相手をして乱闘になってる内に紛れてしまっていたり。

 

でも、いつもは何があっても俺の傍らにいて「グレイ様、グレイ様」と連呼している彼女が、こんなにも自分のそばの居ないことなど今までになかったことだ。

 

そう、今となってはハッキリと理解している。

 

自分はジュビアに避けられてるのだ。

 

 

彼女と、所謂『恋人同士』という間柄になってからそろそろ5か月になる。

ギルドのメンバーにはっきりと報告した訳ではないし、皆の前では何も態度が変わっていないから、気付いていない者も多いかもしれない。

別に隠すつもりもないのだが、聞かれもしないのにわざわざこちらから冷やかしのネタを与えてやる事もないかと思って黙っているだけなのだが。

何よりジュビアがギルドの中では以前のままの様子で、彼女自身が誰にも話してないようだから、こちらとしても中々口火が切れずにいた。

 

出会ってすぐの頃は、止めどなく気持ちを溢れさせる彼女を正直もてあましていた所もあった。

でも、いつの頃からか、彼女が側にいることが当たり前になって、日常になって、逆に居ないと落ち着かなくてイライラして……

 

そんな自分にとどめを刺したのがリオンのジュビアへの告白だった。

 

リオンがジュビアに触れる。

顔を近づけて甘い言葉を吐く。

ジュビアが真っ赤な顔でアワアワとリオンに答える……。

そのすべてに苛ついて、ジュビアを断ち切るようなセリフを吐いたこともあった。

 

でも。

結局は彼女が側に居ないことに耐えられない自分がそこにいて、これが『嫉妬』なのだと、自覚するまでにそう時間はかからなかった。

 

自分の気持ちを認めてからは、とにかく俺の一挙一動にいちいち反応する彼女が可愛くて。

わざと素っ気ない素振りをとってみたり、そうかと思えば猫っ可愛がりしてみたり。

自分でも『ガキかよ』と思うような態度で彼女と接していたが、実のところは、自分の方がジュビアの天然で無防備な所に振り回される毎日だった。

もう少し、もう少しの間だけ、

この穏やかでくすぐったい関係で。

 

 

そう思って過ごしていた日々の中で、ある日、二人の関係を決定付ける出来事が起こった。

 

二人で出掛けた仕事で、ジュビアが俺を庇って怪我をしたのだ。

 

 

「グレイ様!大丈夫ですか?

お怪我は!?」

 

敵の数も多くて、魔力の消耗も激しかったのだろう、上手く水になれずに両脚と脇腹にいくつもの切り傷を作って、タラタラと血を流しながらそう聞いてきた彼女を、俺はカッとなって怒鳴り付けた。

 

「そうじゃねぇだろ!」

 

ジュビアはビクッとして恐る恐ると言った風に俺を見上げた。

 

「何でこんな馬鹿な真似すんだよ!

ちょっとは考えろ!」

 

何でお前が俺を庇うんだよ。違うだろ!

お前が、好きな女が目の前にいて、守るのも、盾になるのも、俺の役目だろ!

自分の身を顧みないジュビアと、何よりも不甲斐ない自分にムカついて、つい本気で怒鳴ってしまった。

 

俺が本気で怒っていることがわかったのだろう、ジュビアはビクッと肩をはねあげさせた後、

 

「……ごめ……っ…なさ…」

 

そう言って、今度は大きく目を見開いて、

じわり、と瞳に涙を浮かべ始めた。

 

「……ごめん、なさい…」

 

手で顔を覆って涙をこらえながら、再びそう言って謝ったジュビアを見て。

 

もうどうにも気持ちが抑えられなくなって、

気がついた時にはその腕を引き寄せて抱き締めていた。

 

 

「……違うんだ。わりぃ」

 

「…っ…グレイ様っ、あの…?」

 

抱きしめる腕にいっそう力が入る。

ジュビアの肩に顔を埋めて、笑える位に震えた声で、でも伝えなければ。

 

「…次は、俺が守るから。

だから、……頼むから、もうこんなことすんな。」

 

「…グレイ…様」

 

「お前に、何かあったら……

…生きていけねぇだろ…っ、俺が…」

 

 

ほんとは怪我してるんだからもっと優しく抱き締めてやらなきゃなんねぇのに、気持ちが溢れて、止められなくて。

 

でも、このまま手加減なしで抱きすくめていたらキズに障るよな、と思って。

 

そっと腕を弛めてやんわりとジュビアを抱えこんだ。

腕の中で、やっぱりまだ大粒の涙を瞳にたたえながらジュビアが俺を見上げてくる。

そんな彼女を見て、吸い寄せられるように唇を奪った。

 

深く深く、俺の気持ちが伝わるように。

何度も何度も角度を変えて呼吸ごと全部俺のものだと言うように。

 

 

 

 

そうやって、二人で気持ちを確かめあって。

そして、恋人として過ごすようになって数か月が過ぎた。

 

二人で出掛ける仕事も、デートも、幸せな気持ちが溢れて止まらなかった。

 

俺の部屋で二人で過ごす時間も増えた。

 

付き合いはじめて2か月程すぎた頃、

初めて、ジュビアを抱いた。

俺の腕の中で震える彼女が可愛くて、

俺にしか見せない顔で甘える彼女が愛しくて。

それこそ初めてだった彼女を手加減してやる余裕もなく、夢中で抱いた。

 

 

 

「……何でだよ…」

 

ジョッキで酒を煽りながら、口をついて出た言葉はなんとも情けねぇもんだった。

 

何で、こんなにも会えねぇんだよ。

何で、俺の事、避けてんだよ。

 

会いたい。

触れたい。

抱きしめたい。

 

でも、今会ったら正気でいられる自信は到底なかった。

思いきり腕の中に引き寄せて

そのまま、あいつがどんなにイヤがったとしても絶対に離してなんかやれねぇだろう。

 

 

 

「…このままになんて、

…絶対ぇさせねぇかんな。」

 

テーブルの上で、ぐっと拳を握りしめて、一人そう呟いた。

どんな事をしても、今回は捕まえてみせるからな。覚悟しろよ。

 

ジュビア。

 

お前を手離す気なんて、

ましてや考えたくもないが、他の男に渡す気なんて、俺には毛頭ない。

 

最後の一口をぐっと飲み干して、空になったジョッキをテーブルに叩きつけてから、椅子を蹴倒す勢いで立ち上がる。

 

そして、そのまま、再びギルドの方に向かって歩き出した――。

 

 

 

〈続〉

 

 

 

 

°○゜