glazed frost

FTのグレジュビ、OPのサンナミをこよなく愛するブログ。

輝く未来を君と【後編】

グレジュビ新婚物。

後編、最終話です~。


続きから、どうぞ。




**



「ミラさーん、もうこれ、アッシュにあげていい?」

醒まし終わった哺乳瓶を振って、ミラさんにそう尋ねると、ミラさんは
「あぁ、お願いね、ルーシィ」 
と、返事をくれた。

その返事ににっこりと微笑みながら、ギルドのカウンター横に置いてあるベビーベッドへと近付く。

「アッシュちゃーん、ほら、もう泣かないのー。ごはんですよぅ」

そっと抱き上げながらそう言うと、それまで火がついたように泣いていた赤ん坊は、少しだけ泣く勢いを弛めてじっとこっちを見た。

横抱きに抱いて、ちょんちょんと可愛い唇をつついてやると、すごい勢いで乳首を加えて、ミルクを飲み始める。

何度見ても、飽きないし、必死でミルクを飲んでいる姿が愛しい。

赤ちゃんってこんなにかわいいんだな。

「上手くなったよねぇ。皆」

カナが、横に座って覗きこみながらそう言った。

「そりゃ、そうだよ。
毎日毎日、皆で順番だもんね。」

ミルクを飲ませながら、そう返事をする。
最初は皆、アルザックとビスカに色々教えてもらいながらの手探り状態だったけど、今ではもう、手慣れたものだ。

「たくさん、ママがいるんだもんねー。
アッシュは」

今度はレビィちゃんが、ホントに愛しそうに頬っぺたをツンツンつつきながらそう続けた。

「グレイは?」
「今日は夕方には帰れるって言ってたから、もうそろそろだと思……
あ、帰ってきたんじゃない?」

カナからの質問に答え終わらないうちにギルドの入口がざわついたので、ふっとそちらの方に視線を向けると、予想通り、グレイがちょうど仕事を終えて帰って来たところだった。

「アッシュちゃん、パパ、帰ってきたよー?」

すごい勢いでちょうどミルクを飲み終えたアッシュにそう言っていると、扉から真っ直ぐにグレイが私達の所にやって来た。

ニコリと笑って手を差し出すので、そのまま、アッシュを手渡す。

「いい子にしてたか?アッシュ」

グレイが、優しく抱き上げながら、アッシュに向かって、満面の笑みでそう尋ねた。

「いい子にしてたよねー。
あ、今ミルク飲んだの。
ゲップまだだから、させてねー。」

「コイツ、熱出さなかった?」

「うん、今回は大丈夫だったよ。」

レビィちゃんが、ニコ、と微笑ってそう答えると、グレイは、安心したように、ほっと肩を落とした。
それから、アッシュを縦に抱いて、トントンと背中を叩きながら、愛しそうにアッシュを見つめた。

暖かで、ほほえましい光景。



本当なら。

本当なら、こうやって、こんな会話を繰り広げるのは、私やレビィちゃんじゃなかったはずなのに。 

脳裏に浮かんだ、水色の髪を思い出して、潤みそうな視界を、ぐっとこらえる。

ダメだ。

グレイが、泣いてないんだから。
私達が、先に泣いたりしたら、ダメだ。

「ありがとな。いっつも。」

グレイが、穏やかに微笑んで、そう言ってくれた。

「よし。じゃあ、帰るか、アッシュ。」

グレイの言葉に、アッシュは甘えた顔ですがり付く。
まだ、もちろん言葉はわかってないけれど。
それでも、グレイに抱かれてる時が一番幸せそうに笑う。
青みがかった黒髪で、つんとつり上がった猫目で、グレイに甘える。

その姿を見て、ギルドの全員が、彼女を思い出して胸がつぶれそうに痛くなる。

グレイは、カウンターのミラさんに、さっと仕事の報告だけ済ませて、荷物を受け取りに、またこちらに戻ってきた。

そうして、ベビーベッドの横にいつも置いてあるアッシュの荷物を抱えて。

「じゃあな。
いつも、ほんとに、助かってる。
ありがとな。」

笑って、私達にそう言った。

「そんな風にいうもんじゃないよ。グレイ。」
「…カナ」
「私達にできることなんて、このくらいしかないんだからさ。」

カナの台詞にグレイは、苦く、笑った。

「…わりぃ。
よし。
じゃあ、ママのとこ、帰ろう。アッシュ」

グレイがそう言って、私達にヒラヒラと手を振って、ギルドを出ていくのを、全員で見つめた。

グレイが、扉を出た瞬間に。

隣でレビィちゃんが、ボロボロと、涙をこぼし始める。

「レビィちゃん…」

「…っ、私、もう、見てられないよ…」

レビィちゃんは、そう言って、流れ落ちる涙を構うことなく、ただじっと、扉の方を見つめる。

レビィちゃんの、そんな様子に気付いたのか、いつのまにかガジルがすっと彼女の斜め後ろに立っていて。
そして、ぐしゃぐしゃと、レビィちゃんの髪を撫でた。

「…この間、グレイに頼まれて、朝、アッシュのお迎えに行ったの。
…そしたら。」

「………」

「…中から、話し声が、聴こえて…
なんだろうと、思って、覗いてみたら」

「………」

「…グレイね、ずーっと、ジュビアを抱きしめて、離さないの……
…抱きしめて、必死で、ジュビアに話しかけてるの…」

レビィちゃんが嗚咽混じりに話すその言葉に、カナも、私も、瞳が滲んでくるのを止められなかった。

ガジルが、唇を噛み締めて、ぐっとレビィちゃんの頭を引き寄せる。


ねぇ。

お願いだよ。

こんなに、皆が祈ってる。

だから。


だから、早く


戻って、きてよ、ジュビアーー。






***






「ただいま、ジュビア」

病室で、眠っているジュビアにそう言って、そっと、額にキスを落とす。

何も、返事はしてくれないけれど、でも、触れると暖かい。

抱っこして揺られているうちに寝てしまったアッシュを、隣のベビーベッドに寝かせて。

そっとジュビアのベッドに腰かけて、
髪に手を通して、サラサラと、梳いた。



あの日。


一度止まったジュビアの心臓は、奇跡的にまた動き出した。

それから、必死の手当てが始まって。

ジュビアは、なんとか、一命をとりとめてくれた。

でも。

そこから、ずっと、ずっと。

こうして、眠ったままだ。

季節は、秋の気配が濃くなってきて。
もう、アッシュが産まれたあの日から、2ヶ月が過ぎようとしていた。

少し広めの個室の病室で。

ジュビアは、ずっと、ずっと、眠っている。

もう、魔力は充分に回復しているし、検査をしてもどこにも異常はないらしい。
でも、昏々と、眠ったまま、目覚めない。

明日にも目覚めるかもしれないし、一生このままかも、しれない。

何も先の見えない状態のまま、ただ、日々だけが過ぎていく。

仕事は、しないわけにはいかないから、
一ヶ月をすぎた辺りから、簡単な日帰りや一泊の仕事なら、受けるようになった。

今日も、ギルドを出て、一旦家に帰って、アッシュと一緒に風呂に入って荷物をまとめて、それから、こうして病室にやってきた。

病院に頼んで、広めの病室に移してもらったから、ここにベビーベッドも置かせてもらった。

毎日毎日を、ほぼこうやって、ジュビアの部屋で過ごす。

そっと、ジュビアのベッドの中に入って、
ギュッと腕の中にジュビアを引き寄せた。


「ジュビア。
おかえりなさい、グレイ様、は?」


ジュビアの唇にゆっくりと、親指を滑らせる。



「…おまえさ、ちゃんと、返事しねぇにも、ほどがあるだろ?」


腕の中のジュビアに向かって、こうやって、話しかけるのも、もう毎日の日課だ。

じっと、ジュビアを見つめて、言葉を紡ぐ。



「…寝すぎだろ。
ほら、いい加減、起きろって。」


「…起きねえと、浮気、すんぞ?
おまえ、怒るくせに。
むぅぅーっ、て膨れて、拗ねるくせに。」


「今日も、レビィとルーシィがアッシュの世話、してくれたんだぜ?
ほら、おまえ、それも拗ねるんじゃねぇの?」


「…なぁ、ジュビア。
……ジュビア…、
……聞いてる?」



腕の中の、ジュビアは、ピクリとも動かない。
苦く笑って、それから、ジュビアの閉じられた目元にそっと、口づけた。

「…ジュビア…」

唇にも、耳元にも、首筋にも。

順番にキスを落としてゆく。

「…ジュビア」

名前を呼んで、何度も何度も。

ほら、いつも、怒るだろ?

もももう!グレイ様、ダメですってば…って。


「…ジュビア、ほら、起きろって……」

ジュビアの顔を見つめて、そう、囁いた。


「…ジュビア…、聞いてるか?」



瞳も、唇も。

いくら、呼び掛けても、何も返してきてはくれない。



こんなに。

こんなに、呼んでるのに。

こんなに、求めてるのに。

こんなに……。



「…っ、返事、しろよ…!ジュビア…!」


目からこぼれてくる涙と共に、ジュビアを怒鳴り付けた。


返事、しろよ。

…頼むから。


……しねぇよ、浮気なんか。

おまえ以外、何もいらない。

何も欲しくない。

我慢出来ずに、思いきり引き寄せて、抱き潰すほどの力で、ジュビアを抱きしめる。

こうやって、ちゃんと温かいのに。

命が戻ってきてくれた時には、もうそれだけで、何かにすがりつきたい位に感謝した。


でも。

でも、起きてくれない。

毎日毎日、こんなに祈ってるのに、
目覚めて、くれない。



ジュビア。

ジュビア、……会いたい。

……声が、聴きたい。

戻って、きてくれ。

頼むから。




**





真っ白な、雲の上を、あてもなく、歩く。

ここが、どこなのかは、いつもいつも、わからないまま。

どこかに行きたいのだけれど、

どっちに行ったらいいのかが、わからない。

会いたい人が、いるのに。

その人が、好きで好きで、会いたくて、たまらないのに、どこに行ったら会えるのかが、わからない。

ふわふわ、ふわふわ。

いつまで?

ジュビアは、いつまでここに、こうしていなければいけないのだろう。

遠くの方で、微かに聴こえる、声がある。

なぁ、聞……るか?

ジュビア、……ジュビア。

今日、……が、笑っ…ぞ。

早く、起き……って。


もっと。

もっと、あの人の声が聴きたい……。

ぽろぽろと頬を伝う涙が、止まらない。

こんなに、こんなに、会いたいのに…。


突然、ビクリと、身体が、震えた。

最近、よく、感じる…この、感覚は。


…あぁ、

あの人が、……泣いてる。

何かを、叫んで、泣いてる……そんな、気がする。

ふらふらと、さまよいながら。
どちらに向かえばよいのか、わからないままに、進んでいたら。

突然、声が聴こえた。


『ねぇ、そっちじゃ、ないわ。』

え……?……誰?

『そっちじゃ、ない。』

周りを見回しても、誰もいない。
でも、しっかりと、声は聴こえた。

ここに来て、初めて、誰かの声を聴いた。

『…あの子が、…泣いてる。
お願い。』

…あなたは、誰ですか?

そう、尋ねても、返事は、ない。
でも、確かに、聴こえるの。
暖かな優しい感情が、溢れてる声。

『あの子を、お願い。
ねぇ、あなた』
『ああ、頼むぞって、…言った、だろ?』

突然、声がもうひとつ、入ってくる。

この、声は、知ってる。

あの時も、こうやって、頭の中に、たくさん響いた、この声。

あなたは……。

『嬢ちゃん、やっぱり俺の見込んだ娘だったな。』
『…あら、なに、その勝ち誇った顔。』

周りの世界に、溶け込むように、声が響きわたってゆく。

『…グレイを、頼む。
戻ってやって、くれ。』

真っ白な世界の中で、突然キラキラと、何かが、光りだした。

真っ直ぐに。

一つの方向を照らして、綺麗な透白の道が、できた。

これは、…よく、知ってる。

氷だ。

私の、大好きな、大切な人の魔法と同じ。

『グレイを、……頼む』
『お願いね』

この氷の道を通っていけば、あの人に、会える?

会えるのね。


ぽろぽろと、瞳からまた、涙がこぼれた。

ありがとう、ございます。


そうして、駆け出す。

この、氷の道しるべをーー。






**







腕の中に眠るジュビアの髪に手を入れて、何度も何度も梳く。


「…ジュビア…」


名前を呼んで、それからまた、硬く閉じたままの目蓋にキスに落とした。

「ジュビア、なぁ、聞いてる?」


返事をしないジュビアに苦く笑って、もう一度、名前を呼んでみる。

「…ジュビア」

はい!グレイ様! と笑うあの笑顔が脳裏に浮かんで、少しだけ、目の奥が熱くなった。
込み上げてくる、この、気持ちを、一体どうしたら、いい?

「……好きだ…」

溢れる気持ちのままに、そう、呟いた。

好きだ、…好きだよ。


「…ジュビア」


おまえ、諦めねぇって、言ったよな?

だから、俺も、ぜってぇ、諦めねぇ。

何度でも。

何度でも、こうやって呼ぶよ
おまえの目が覚めるまで、ずっと、ずっと。

そのまま、優しく、首筋に、キスを落とす。

おまえ、好きだっただろ?
こうやって、首筋に、キスされるの。

ググググレイ様、ダメですっ…って、よく、真っ赤な顔して、怒ってたよな。

動かないジュビアに向かって、そう言った後で、もう一度、今度は額にキスをした。


好きだよ。

おまえだけ、だから。


ジュビア、……ジュビア。


「……好きだ。」

「…グレイ様、ジュビアもです、は?」

……ちゃんと、返事、しろよ。

待ってる、から。

いくらでも、何度でも、言ってやるから。

「ジュビア、……好きだ」

もう一度、気持ちを込めて、そう、ジュビアを呼んだ。




そのとき、だった。



ジュビアの身体から、氷の結晶が煌めくような、そんな魔力が迸った。

そして。


ビクンッ、と、身体が、震えたかと、思うと。


ジュビアが、ゆっくりと、ゆっくりと、

その瞳を、開いた。



信じられない気持ちで、茫然とジュビアを見つめる。


ジュビアは、ゆっくりと瞬きをして、目を開けた後で、じぃっと、俺の顔を見つめてきた。


……夢、か?

いつもの、ジュビアが目覚める夢。
抱きしめて眠ってから、いつもいつも見る、ジュビアが、目覚める夢。

目が覚めたら、やっぱりお前は眠ったままで。
目尻が熱くなって、拳をベッドに叩きつける、いつもの朝が、またやってくるのか?

信じられない気持ちで、でも、自分でも呆れる位に震えながら、そっと、ジュビアに手を伸ばした。

こわごわと触れた頬は、やっぱり、温かくて。

これが、現実なのか、夢なのかも、もう、わからなくなった。

何度も、瞬きを繰り返しながら、じっとこっちを見ていたジュビアの瞳が、少しずつ潤んでくる。

それから、声にならないほどの、掠れた響きで、小さく、

「……グレ…さ……」

と、呟いた。

「…ジュビア…?」

恐る恐る、ジュビアの名前を、呼ぶ。

すると、

「…は…ぃ」

と、ほとんど聞き取れないほどの掠れた声で、そう、返事を、してくれた。

「…ジュビア……」

「…グレ…ィ…さま」

もう一度、ジュビアの名前を呼んでも、ジュビアはやっぱり、ちゃんと返事をくれる。

潤んだ瞳に、そっと、指を這わすと、そこから、温かい雫が、俺の指を伝っていった。

夢じゃ、ないのか…?

本当に、本当に…?

ジュビアの目が、覚めた、のか?


じっと、ジュビアを、見つめると、
また、小さな声で、

「グレイ…さま」

と、呟いてくれた。

そこで。

そこで、初めて、感情の何もかもが一気に流れて、溢れ出てきた。

「ジュビア…!」

ジュビアの名前を呼んで、力いっぱいに抱きしめる。

「…っ…ジュビア、ジュビア…!」

「……グレイ、さま…」

ジュビアも、俺の名前を呼んで、ギュッ
と、しがみついてきた。

帰って、きてくれた…。

戻ってきた…。この、腕の中に。

ジュビア、ジュビア。

もう。

溢れてくる涙を、止めることも、出来なくなった。

あまりにも力いっぱい抱きしめたから、腕の中で、ジュビアが、苦しそうに呻き声をあげた。

でも、そんなことにも、もうかまってなんかいられなくて。

ただ ただ、必死に、ジュビアの身体を、掻き抱いた。

「…っ、ジュビア…」

「…っ、グレ…さま…、痛い、です。」

ジュビアが、また、苦しそうにそう言った。

…ごめん、…でも。

…俺の、この、2ヶ月間の気持ちを、思い知れば、いい。

離すもんか。

やっと…だぞ…。
やっと…。
俺が、一体どんな思いで……。

「…っ、会いたかった…。
ジュビア…。」

会いたかった。
…会いたかった。

気が狂いそうなほどの思いで、待ち続けた日々。

やっと、この手の中に、戻ってきた。

力いっぱい抱きしめていた腕を、少しだけ弛めて、ジュビアの顔を、覗きこむ。

ジュビアは、あの大きな猫目を見開いて、少しだけ潤んだ瞳で、じっと俺の方を見て。

それから、

「グレ、イさま、ジュビア、も、会いたかった、です……」

途切れ途切れに、声を出すのもやっとの状態で、そう、言葉を紡いだ。

そのまま、ゆっくりと、唇を寄せる。

触れるか触れないかの所で、一瞬止まってから、そっと、静かに、唇を合わせた。

怖々と軽く触れて、ゆっくりと、唇を外してから。

もう、とても我慢が出来なくなって、
そのまま、奪い取るように、深く深く、キスをした。

ジュビアは、一生懸命に、俺のキスに応えてくれた。

でも、途中で、少しだけ角度をずらして、俺のキスから、逃げようとしたから。

離すもんか、と、頭ごと抱え込んで、もっともっと深く、口づけてやった。

そっと、合わせていた唇を外して。

ジュビアの額に、自分の額を合わせる。

目から溢れてくる涙は、まだ到底止まりそうもなかった。


「……おせぇよ。」

滲んだ声で、そう、告げる。

「…どんだけ、待ったと、思ってんだ…」

「……ごめ、…なさい」

「…2ヶ月、だぞ。
おまえ、2ヶ月も、眠ってたんだから……な。」

俺がそう告げると、ジュビアは本当に驚いた顔をして、俺の方を見た。

「…でも、もう、…いい。
こうして、戻ってきて、くれたから。」

そう言って、またもう一度、ギュッと抱きしめる。

「……グレイ様、ジュビア…」

ジュビアは、俺の頬にそっと手を添えた。

それから。

「…ジュビア、
グレイ様の、お父、様とお母様、に、会い、ました。」

と、信じられないことを、話し出した。

「えっ…?」

「お顔は、見れな、かった、です、けど。
声で、わかり、ました。」

「…………」

「グレイ様に、会いたくて、でも、どっちへ、行ったら、いいのか、わから、なくて……」

瞳に、雫を潤ませながら、ジュビアは、一生懸命にそう言った。

「……お父様が、道を、教えてくれ、ました。」

「…………」

「グレイを、頼む……って、そう、仰ってました。」


ジュビアは、そう言って、俺の首筋に腕を回して、ギューッとしがみついてきた。

…そうなのか。

親父と、お袋が、助けてくれたのか。

俺にジュビアを、返して、くれたんだな。

しがみついてきたジュビアを、抱え込むように、抱きしめる。

こうやって、ジュビアが、戻ってきてくれた奇跡に、感謝せずにはいられなかった。



「……あの、グレイさま、」

「……ん?」

ジュビアが、胸に手をついて、不安そうに、俺に声をかけた。

「あの、……、赤ちゃん、は……?」

ジュビアのその台詞に、フっと笑って、
そうだな、ちゃんと、説明しないと……、
と、思っていたら。

突然アッシュが、ピギャーッと、火がついたように、泣き出した。

「……あっ、」

赤ん坊の声が聴こえたことで、ジュビアが、大慌てで首を振って、部屋のあちこちを見回した。

そんなジュビアの頭をポンポンと、撫でる。

「…連れてくるから。
待ってろ。」

そう言って、名残惜しい気持ちをぐっと我慢して、腕をほどいてアッシュを抱き上げるために立ち上がった。

ベビーベッドから抱き上げて揺らしてやると、アッシュは抱っこされて、少しだけ泣いていた勢いを落とした。
でも、やはりまだビービーと、泣いている。
そのまま、ジュビアの、ベッドの方に連れていく。
そして、いつものように。

「…ほら、ママだぞ。」

そう言って、アッシュをジュビアの横に寝かせてやると、これまたいつものように、アッシュはピタリと泣き止んだ。
そして、満足げに、すぅすぅと、眠っている。

ジュビアは、その様子を呆然と眺めて。
それから、ばっと、俺の方を向いた。

「…アッシュ、だよ。」
「…………」
「…こうやってさ、
おまえの横に寝かせてやると、
ピタっと、泣き止むんだ。」
「………!」
「…ママが、大好き、らしい。」

ふっと、微笑って、そう言ってやると。


ジュビアは、みるみるうちに、瞳に大粒の涙を湛えて、泣き出した。

「…っ、よかった……
ちゃんと、産んであげられたん、ですね…」

「…そうだよ。
ジュビアが、頑張って、くれたから…」

そう言うと、
ジュビアは、それはそれは愛しそうにアッシュを、ギューッと、だきしめて。

それから。

「…ありがとう。
こんな、ママで…、……ごめんね。」

そう言って、何度も何度も、アッシュの頭を撫でた。


その姿に、目頭が、また、熱くなっていく。


「…コイツさ、やっぱり、魔力が高すぎるみたいでさ、」

「……はい。」

「しょっちゅう、熱、出すんだわ…」

「…そう、なんですか…」

ジュビアが、心配そうに、アッシュを見つめる。
ジュビアのベッドに腰かけて、そっと腕をついて、右手で、アッシュの頭を撫でた。

それから、左手で、ジュビアの髪を梳きながら。

「…だから、やっぱり、…俺も、コイツも。
……お前がいないと、生きてけねぇわ。」

しみじみとそう言って、もう一度アッシュの頭を撫でる。

アッシュはジュビアに抱いて貰ったことに満足したのか、すぅすぅと、寝息を立てて、また眠り始めた。

そっと抱き上げて、ベビーベッドに戻してトントンとしてやると、ふにゃっと頬を緩めて、コテンと眠っている。

その様子を見つめてから、もう一度ジュビアのベッドに戻ると。

名残惜しそうに、アッシュの方を眺めているジュビアと目があった。

もっと抱いていたかったのに……と、その顔に書いてある。

それから、シュンとして、俺の方を見つめてきた。
その顔が、可愛いやら、愛しいやらで、クスリ、と笑って、しまう。

でも。


「…アイツの時間は、今は、ねぇの。」

「グレイ様…?」
 
俺の台詞に、きょとんとしたジュビアが、首を傾げる。


「まずは、…俺だろ」

そう言って、もう一度ジュビアに覆い被さるように、ジュビアのベッドに乗り上げた。

すると、ジュビアが、かぁぁと、頬を真っ赤に火照らせる。

ジュビアの顔の両側に腕をついて、そっと、その耳や頬に、触れた。

…あぁ、夢じゃ、ねぇんだな。

ここに、いるんだよな、おまえ。


「ジュビア」

「…はい」

滲んだ声で、そっと、ジュビアの名前を呼ぶ。


「…俺の、名前、呼んで」

懇願するように、そう、言うと。



ジュビアは、大きく目を見開いた後で、

「…グレイさま」

と、優しい声で、そう言ってくれた。


「もう、一回…」

そう囁きながら、ギュッ、と、ジュビアを抱きしめる。

ジュビアも、俺の背中に腕を回して、ゆっくりと、抱きしめ返してくれた。

それから。

「グレイさま…」

と、もう一度、今度は少しだけ潤んだ声で、そう言ってくれる


おまえの、その声が、好きだ。

「グレイさま、…好き、です」

おまえの、その台詞も。

「…大好き、です」

その、笑顔も。

何もかも、全部、全部、…愛してる。


もう、絶対、離さねぇから。

……どこにも、行かせねぇからな。


腕の中のジュビアの存在を確かめるように。

何度も、何度も、キスを落として。


「……好きだ」


そう言って、もう一度、思いきり、

ジュビアを抱きしめた--。









〈了〉










∞∞後書き∞∞





長々と、申し訳ございません……

土下座。

ハッピーエンドにいくまでが長かったので、書いてる当時、何度も挫折して、吐きそうになってました。


頑張るジュビアと、ジュビアがいないと生きていけないグレイ様が書きたかった。
…のですが、上手く表現出来なくて。

そして。
シルバーさんとミカママ。
どうしても出て欲しかった。


アッシュは、アッシュグレイから。
青みがかった灰色、ですね。
銀→灰ってきてますから、
やっぱり色かなと。

ここから、

ことのは⑧⑩⑪と、続きます。