glazed frost

FTのグレジュビ、OPのサンナミをこよなく愛するブログ。

へカーテの花〈4〉

えぇっと……(^ω^;);)
もう存在を忘れられてると思うのですが、
グレジュビプチ連載 へカーテの花 第4幕、です。

話は全部出来てるんですよ?
ホント、放置ですみません(←)


うぅ。
もしよろしければ。
どぞ。





「ここが、おまえの部屋だから」

そう言って通された瀟洒な部屋で、ジュビアは思わず息を飲んだ。
誰が見ても桁の違う高級品だとわかる淡いブルーのベルベットのソファ、綺麗な紗の垂れ幕のついた天蓋付きのベッドは3人で寝てもまだ余る位に大きい。
真ん中の大きなテーブルは大理石だが、周りを木枠で囲った温かい造りのもので。
部屋の中は、淡いオレンジとブルーで可愛らしく調和の取れたファブリックで彩られ、カーテンやタペストリーのどれを取っても上品な中にふんわりとした温かみがある。

ジュビアは、グレイに通されたその部屋を見て、すっかり心を奪われて、一目で気に入ってしまった。
色合いも調和も温かくて、ほんのりと優しい。
緊張して、不安でいっぱいで、ささくれだっていた自分の心が、じわりじわりと癒されていく。


昨晩は、結局ろくに眠ることも出来ないままに、ミラやマカロフと共に慈善院での最後の夜を過ごした。
皆とお別れすることが辛くて、ジュビアは、せっかく皆が開いてくれた送別会でポロポロと泣いてしまうばかりだった。

3日前に、その慈善院にジュビアを迎えに来たグレイは、最初はとにかくそのままジュビアを連れて帰ると言ってきかなかったのだが。

『ジュビアに心の準備をさせてやれ』というマカロフの言葉と、そして『ジュビアは生きてちゃんとここにいるのだから、とりあえず一旦戻ってジュビアを迎えるための準備をしよう』というロキの言葉にしぶしぶのように従って、一度慈善院から、帝都にある自分の屋敷に戻っていった。
3日後に必ず迎えにくるから、という言葉を残して。

ここから離れたくない、と泣いたジュビアに対して、マカロフは優しくジュビアを諭してくれた。
自分は、あの青年を信じてみることに、決めた、と。
きっとそれが、ジュビアの幸せでもあると信じているから、と。
いつまでも、自分がどこの誰かもわからないまま、あの慈善院でお世話になり続ける訳にはいかない、ということは、ジュビアにもよくわかっていたことだった。
そして、グレイも。
ジュビアが首を縦に振るまで、何があっても梃子でもそこを動こうとはしなかった。
マカロフも
『しばらく過ごしてみて、どうしても無理だと思うなら、いつでも帰ってくればよい』
と、笑顔で、そう言ってくれた。

だから。
結局、ジュビアは、どうしても自分を連れて帰るといってきかない、そのグレイの固い気持ちに、しばらくの間、自分の身を任せてみる事に決めた。


半日馬車に揺られて着いたそこは、高台の上にある、大きな別荘型の屋敷だった。
周りを、静かな森や、小さな湖に囲まれた、まるで美しい絵画から切り取ったような景色。
ここまで通って来るまでに見えた、そして、今窓の向こうにも拡がるその風景にも、ジュビアはほんのりと、心が和らぐような気がした。


「何でも、好きに使うといい。
足らないものがあれば、何でも言ってくれ。
すぐに用意させるから」

グレイが、ジュビアの気持ちを確かめるように、恐る恐るのようにそう言ってきた。

足らないもの、なんて。
これだけの、贅沢すぎる位の部屋なのに。

「……あの」
「…ん?」
「この、お部屋の中の物、あなたが…?」

聞いてしまってから、馬鹿な事を聞いた、と不意に思った。
そんなことをする人ではなかった、と心の隅で呟く自分が居て。
どうして、そんなふうに思ったのだろう。
そのジュビアの言葉にぐっと黙り込んでしまったグレイを見て、ジュビアは、あぁやっぱり失言だった、と
自分の発言を悔いた。

「……あの、ごめんなさ…」
「気に、入らなかった、か?」
「…え?」
「おまえの、好きそうな物を、と思ってあちこち見て回ったんだけど。
こういう色合いが、好きだったから」
「……!」
「……でも、悪ぃ。
こういうの、選んだ、事もなくて」
「………」
「……気に、入らなかったら、何でも好きなものに変え…」
「いいえ」

焦って、目を伏せてそう言ったグレイの台詞を遮って、ジュビアははっきりと否を唱えた。

「いいえ。
……とっても。
とっても、気に入りました」
「……ジュビア」
「温かで、素敵なお部屋です。
お心遣い、ありがとうございます」

緩やかに微笑んでそう言ったジュビアのその笑顔に、グレイはほんの少し痛みを堪えるような、まるで泣いてしまいそうな、そんな顔で目を伏せた。

そんなグレイの様子を見て、聞いていいのかと少し悩みながら、それでもジュビアは、おずおずとグレイに声を掛けた。

「……、あの」
「……ん?」
「あの、ここって、帝都じゃないですよね?」

流石に、どれだけ記憶がなくても感覚でわかることもあるのだな、とジュビアは感じていた。
全く自覚は伴わないが、ここに来てやはり、おそらく自分はきっと貴族の娘であったのだろう、と思う。
この部屋の調度品に怖じ気付くようなこともなく、自然に気持ちが受け入れていることもその証だ。

そして、だからこそ、やはり流石に、ここが帝都でないことも、わかる。
グレイは確か、帝都に屋敷を構える、帝国軍の将軍の1人であるはずだ。
だから。ジュビアはてっきり。

「……帝都の、お屋敷に行くんだ、と思ってました」
「……ここは、リファルという街で。
ちょうどおまえのいたアイニーの街と帝都との中間なんだ」
「………」
「いきなり帝都では、ジュビアも何かと気忙しいだろうし、ここの方がゆっくりするかと思って」
「そう、なんですね。
でも、あの、お仕事は……?」
「馬車なら5時間ほどかかるけど、馬で速駆けすれば、帝都まで1時間くらいなんだ。
俺が、ここと帝都を行ったり来たりする分には問題ねぇから」
「………」
「ジュビアが、ゆっくり、ここで休んでくれたら、その方がいい」

そう言って緩く微笑んだグレイの言葉に、ジュビアの胸に、じんわりとした温かさと拭いきれない違和感が同時に起こった。
グレイの優しさをとても嬉しいと、思う。
でも、やはりほんの少しの違和感は否めない気がした。
だって、わざわざこんな、以前まで過ごしていた屋敷と違う屋敷に連れてきて、馬車で何時間もかかるような距離を自分が馬で駆けて通ってまで?
仮に、だけれど。
仮に、グレイが言うようにジュビアがグレイの妻であったとして。
記憶を失った妻に対して一番に思う事は、やはりなるべく早く以前を思い出して欲しいということなのではないだろうか?
それなら帝都の屋敷に連れて帰った方が、そのきっかけや手掛かりもきっと多いはずなのにどうして?
それ以上にジュビアを気遣ってくれる気持ちが大きいのならそれはそれで、とても嬉しい事ではあるのだが。

それに。

もう一つ、ジュビアの感覚の中に僅かに残る『貴族の常識』が頭を擡げる。
この部屋には、本来ならあるべきものが付いていなくて、本来ならここにあるはずの無いものが置いてあるのだ。
貴族の夫婦の部屋とは、居間となる主室と寝室となる続きの間、そして衣装部屋などの庫の間が幾つか繋がっているのが普通なのに。
しかし、この部屋にはその続きの間がなくて、この部屋の中央に大きなベッドが置いてある。

「あの。……ここ、ジュビア1人の、部屋ですか?」

そう聞いたジュビアの、グレイの顔色を伺うような視線にグレイは思わずフッと笑った。

「……ん。
今の、ジュビアにとったらさ、俺と結婚してたっていう実感がまだねぇ、よな?」
「………」
「だから。
しばらくは同じ部屋じゃない方がいいんじゃねぇかな、って思って……」

ほんの少し、何かを堪えるような瞳をして、グレイがそう説明してくれた。
その、グレイの、言葉に。
ジュビアは大きく肩を震わせて、それから、そっと息をついた。
正直、かなりホッとしたことは事実だ。
グレイと共に帰る、と決めた時に、その事実に対して、ジュビアはある程度の覚悟をしてきた。
これから2人で夫婦として生活するなら。
それには勿論、そういう関係も含まれるはずだ、と。
しかし、実際にはジュビアはそれが怖くて仕方なかった。ジュビア自身には、グレイと結婚していたなんていう自覚も実感も何一つないのだから。
自分とグレイの間にどんな時間が積み重ねられてきたのかは、ジュビアにはわからない。
でも、慈善院で彼も言っていた通り、彼との間には当然そういう関係があったのだ。
夫婦なのだから当たり前だが。
だから、グレイに求められれば、ジュビアが否を言い続けることはきっと難しい。
どうしよう、どうしよう、とそれはずっと頭を悩ませていたことだった。

「…そう、ですか」

優しい、人だ。
こんなふうに、ちゃんと、部屋に対する気遣いまでしてくれる。
グレイのその気遣いに、アワアワと焦りながら、顔を真っ赤にしてそう言って俯いたら、グレイが可笑しそうにクスッと笑った。

「二人用の、夫婦の寝室の方が、よかったか?」
「そ、そんな!
そんなはずありません!
あの、お心遣い、感謝します……」

ジュビアが焦ってそう返事をすると、グレイは少し眉を下げて「……ん」と苦く笑った。

「……そんなに思いっきり、否定されるとさ」
「………」
「さすがにちょっと、傷つく」

そう言って苦笑したグレイに向かって、ジュビアはまたオタオタと、焦ってしまった。
シュンとして、小さく「ごめんなさい…」と呟く。
そんなジュビアを見て、グレイは優しい瞳でフッと笑った。

「……安心して、いいから」
「………!」
「ジュビアが、いいって言うまで。
ちゃんと俺を受け入れてくれるように、なるまで」
「………」
「……自分の気持ちだけで、触れたりしねぇから」

グレイは、まるで覚悟を決めるように、真剣な眼差しでジュビアに向かってそう言った。
その、グレイの気持ちと真剣な瞳に。
ここに来るまで、不安と緊張でいっぱいだったジュビアの気持ちも、どんどんと溶かされていくような気がした。

ジュビアは、じっと、グレイの方を見つめてみた。

この人が。
この、優しい人が、私の旦那様、なんだ。

「……あの。
ジュビアは、あなたの事をなんてお呼びすればいいでか?……旦那様?」
「……前は」
「はい」
「……前は。『グレイ様』って。
そう、呼んでくれてた」

そう言ったグレイの表情が、瞳が、戸惑うようにユラユラと揺れた。

「……、グレイ様」

ジュビアが上目遣いにグレイを見つめてそう呼ぶと、グレイはなんだか泣きそうな顔をして微笑んで、ぐっと拳を握りしめた。

そんなグレイを見ていると、ジュビアの気持ちの中に、目の前のこの人が震わせているその手をそっと抱きしめて『大丈夫ですよ』と言ってあげたくなるような、そんな気持ちまで生まれてくる。

でも。

大きなその手に触れる、勇気はまだないから。

だから、そっと、そのグレイの、袖口をつかんでみた。

それから、ほんの少しだけ、その袖口をつまむ指に力をこめて。

「……これから。
よろしくお願いします、グレイ様」

にっこりと微笑んで、ジュビアはグレイに向かってそう言った。

途端にグレイの顔が、クシャリと歪んだ。

そして。
ジュビアに袖を掴まれていない方の手を彼女の方に伸ばしかけて、しかし、すぐにハッとしたような表情(かお)を揺らした後で、触れる直前でその手をぐっと握りしめる。
そのまま、フッとジュビアからわずかに視線を逸らして、ゆっくりとその手を下げた。

「……うん。
これから、よろしくな、ジュビア」

ほんの少し紅くなったその顔を隠す様に、行き先を失ったその手で自分の口元を覆ったグレイは。

戸惑いと、苦笑と、それから、なんだか熱い熱が入り交じったような、そんな何とも言えないような瞳を湛えて、そう言って優しく微笑んで、くれたーー。









〈続〉






遅々として進みませんが、気長にお付き合い下さると
本当に嬉しいです。

ちょっとずつ、ちょっとずつ、近付く2人・・・