glazed frost

FTのグレジュビ、OPのサンナミをこよなく愛するブログ。

ことのは ⑯

グレジュビ短編。
『ことのは』シリーズ ⑯

9/12のグレジュビの日記念のお題ワンライ
#グレジュビ版深夜の真剣60分一本勝負 として、
参加させていただいたものです。

お題 【ウェディング】or【プロポーズ】でした!

よろしければ、続きから、どうぞ。



ことのは ⑯ 〜福音〜



晴れやかな秋空の下、カルディア大聖堂の定時の鐘が鳴る。

黒のタキシードに身を包んで、ソワソワと身体を動かしていると。

スパーンと頭を平手で叩かれて、グレイはジロッとその手の持ち主の方を睨んだ。

「…ってぇな!なにすんだよ!」
「脱・ぐ・な、って何回言わせんのよ、ばか!」
「おわっ、いつの間に!」

落ち着かずに、なんだか立ったり座ったりを繰り返しているだけのつもりがいつの間にかジャケットを落として、蝶ネクタイにまで手が伸びていたようだ。

癖って怖ぇ。

「まったく、なんで私がアンタのお目付け役なの!?
私だってあっちの控え室に行きたいのに〜」

ブツブツと文句を垂れながら、じとっとこちらを睨んでくるルーシィに、そんな言い草があるかとちょっとばかり唇を尖らせながら、グレイは脱いだジャケットを羽織った。

どうやら、こっちの部屋にも1人監視係を置いておけ、というエルザ大明神の厳命により、ルーシィがそのご指名にあずかったようだ。

放っておいたら、せっかくこの日のためにと用意した服を何処かにやってしまう、と言う緋の彼女の言い分に、ギルドの皆は当然のように頷いて。

「オレ達がついててやろうか?
な、ハッピー」
「あい、おまかせあれ」

クソ炎が相方と共にそう手を挙げたわけだが。

「馬鹿もの!
お前達に任せていたら、せっかくの晴れの日が、台無しになるだろうが!」

炎と氷と2人セットにしていて、何かが壊れずに済んだことがあるか、と目くじらを立てて怒るエルザに、酷い言われ様だと、ジト目になってはみた。
しかし、なにしろ、前科が多いだけに、なんともこちらの分が悪いのは、事実だ。



「もうそろそろ、用意が終わった頃かしらねぇ?」

フワフワと笑いながら、ルーシィがそう言った。

今日のために、一生懸命に選んでいたそのドレスを。

もう彼女が、纏い終わった頃だろうか。

早く見てみたいような、
いつまでも、この気持ちを取っておきたいような、
そんなムズ痒い気持ちで、グレイはもう一度椅子に座り直した。

すると、ガヤガヤと、廊下がざわめく音がして。

それから、
バンッと、大きく、目の前の扉がひらいた。

「おぅ、グレイ、脱いでねぇな?」
「まぁ、コイツもこういうカッコしてるとちったぁマシに見えるってことかよ」
「へっ、どうせ、ルーシィに何回もしばかれてるんだぜ?」
「…だね。
じゃなきゃ大人しく着てるわけないもんね」
「…まったく、世話の焼けるヤツめ」

次々とそんなふうにと囃し立てながら、控え室に入ってきたのはラクサスに、ガジル。
それから、ナツに、ロキに、リオン。

全員が、ニヤニヤと笑顔を浮かべて、嫌味ったらしくグレイを揶揄ってくる。

「……うっせぇよ」

ブスッとして、プイと横を向くと。

またしても全員が、図星だな、とでも言いたげに、声を上げて笑った。


「それより!
すごかったぞ!ジュビア」

皆の笑いも収まらない中、少しばかり高揚した声でそんな事を言い出したのは、ナツだ。

「さっき、花嫁の方の控え室に行ってきたんだ!
そしたら!」
「うん。
ジュビア、とんでもなく綺麗で、可愛かったよね。
僕、思わず、グレイなんかやめて、僕と結婚しようって言っちゃったよ」

ナツとロキが、口々にそんな事を言い合い始めると。

「確かにな。
白いドレスに蒼い花飾り、だったか。
ミラやカナが、張り切って飾り立ててたぜ?」
「そうだな。
ジュビアはいつも美しいが。
今日は特に、満開の花が開くように、綺麗だった」

ナツ達に続いて、ラクサスや、リオンまでがそんな事を言い出す。

次々と出てくるその台詞たちに、
グレイの手の中が、思わずピシピシと音を立てた。
冷気が、控え室に冱え冱えと通っていく。

「……なんで」

ぼそり、と、グレイが口の中で言った台詞は。
ルーシィの「やーん!いいなぁ!私も早く見たい!」という黄色い叫び声にどうやらかき消されたらしい。

「いいな、いいな。
私もちょっとだけ、見てこようかな」
「おー、いいぞ。
ここは、俺達が監視しといてやるから、ルーシィ行ってこいよ」
「雨女にしちゃ、上出来にできあがってるぜ?
チビはもう、横でずっとグズグズ泣いてやがるし」
「うぅっ、レビィちゃ……気持ち、わかるわ……」
「ほんとに綺麗だったよ、水の女神みたいで、
……って、ん?
なんか、寒くない?」

グレイの出している冷気の渦にやっと気づいたロキが、チラリ、とこちらを向いた。

おー、ようやく気づいたか。

と、グレイは冷え冷えとした空気そのまま、
全員に氷の礫を投げつけてやった。
どでかい造形物にしなかっただけでも褒めてもらいたい。
一応グレイにだって、今日のこの日に会場をぶち壊しては元も子もないという判断くらいは出来るのだ。

「なにしやがる、このアホ氷」
「…っ、なんで、おまえらの方が先に見てんだよ…!
おかしいだろ!」

部屋中に氷の手裏剣らしきものを撒き散らしたあとで、思いっきり不機嫌な顔をしてそう言ったグレイを、ルーシィか呆れたように見た。

「はぁ?
そんな事言ったってしょーがないでしょ?
花婿は大聖堂で花嫁を受け取るまで、その姿は見れないのよ。
何回もそう言ってるでしょーが!」
「…そ、そうだけど、でも!
おかしいだろ!?
俺よりコイツらの方が先に見るとか、
ぜってぇおかしいだろーがよ!」

すっかりと、以前の『照れ隠しの権化 素直じゃないの化身』だった様相を剥ぎ取って、堂々とそんな風に愚痴を零す氷の魔導士を見て。

変われば変わるものだ、と、周りの皆が笑う。

それはすべて、彼女が、頑張ったから。

今日のこの晴れの日を、こうして、迎えることができたのも。
こんなふうに、彼女のことで頭がいっぱいな男に、この馬鹿を変えたのも。

全部全部、彼女が、一途に健気に頑張ったからだ、という事を、皆が知っているから。

そんな彼女が、一生懸命に思い続けたこの男の隣で。
今日のこの日に、神にそして仲間の皆に祝福されるのに相応しい、世界で一番可愛らしい花嫁になる。

そう思ったら、
彼女のドレス姿を見る前から、もう
ルーシィの目に涙が溢れそうだった。

「……よし!
私も、見てこようっと!」

滲む視界を誤魔化すようにそう言ったルーシィを見て、それまでグダグダと文句を垂れていたグレイが、慌てて立ち上がった。
それから、そっと、彼女の肩を掴む。

「ルーシィ」
「何よ」
「…いや、あの……」
「………?」
「……アイツ、緊張して、またアワアワなってるかも、だから」
「………」
「……大丈夫だから。
ちゃんと、待ってるから、って。
そう、言っといて」

ほんのわずか横を向いて、掌で顔を覆ったグレイが、ボソボソとそう言った。
その姿が、とんでもなく微笑ましくて、ルーシィの頬もつい、緩んでしまう。

「…ん、わかった」

そのまま、バンっとグレイの肩を叩いてから、くるりと踵を返して、ルーシィが扉に向かって歩き出すと。

真っ赤になったグレイと、彼の紡いだ言葉に、周りがまた、ヒューヒューと口笛を鳴らした。

「…〜〜っ、うっせぇっつの!」

グレイのそんな叫び声が、背後でこだまする中で。


ルーシィは、これ以上ないほどの幸せな気持ちを胸いっぱいに詰めて。

水色の幸せな花嫁を1目見るために、
ウキウキとその部屋を後にしたーー。






〈続〉






華燭の日の、2人。

気合いの入るエルザ総監督(母のよう笑)と
揶揄いながらも嬉しそうなギルメン達と
涙出ちゃう位幸せなギルド女子達。

そして、こういう日まで弄られ、地位の低いグレイ様
(=^^=)

もうワンシーン書きたいところがあったのですが、
時間的に無理でした。
ワンライとしては、ここまで。

また、『ことのは』として続きをいつか(書くかも?しれない)。


お題を貰って、執筆1時間。
30分書いて、途中仕事に戻って、また30分…!

初めてのワンドロ・ワンライに挑戦させていただきました。
めっちゃハァハァ言いました(笑)
でも楽しかったです。
ワンシーンだけで仕上げるのは好きなんですけど、
終わりを綺麗に纏めるのが、難しい・・・
文章力かもん・・・