ことのは ⑱
久しぶりの更新で申し訳ありません。
そして、グレジュビじゃなくて、
リオメル と ジェラエル です。
(^ω^;);););)
Twitterのお友達への、クイズ正解 プレゼント!
(あ、あと、余談ですが、明日から、しばらくは、ボチボチ更新が続きそうな予感……)
それでは、ご興味のある方は、どうぞ。
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「いい加減、その不機嫌そうな顔を何とかしないか」
隣りで座っていたジェラールが、まだ何かを思い出した様に複雑な表情を浮かべたのを見て、エルザは小さく笑みながらそう突っ込んでみた。
すると彼は、自分では気づいていなかったのか、至極不本意そうに「……そんな、不機嫌な顔などしていない」と応えてくる。
「じゃあ、言い換えよう。
いい加減、その拗ねた顔を何とかしろ」
「……拗…」
「折角の、晴れの日だぞ?」
クスクスと笑いながらそう言い放つと、今度は何だか口の中でモゴモゴと口ごもったかと思ったら、ガクリと肩を落としている。
その姿を見て、あまりの可愛らしさに、エルザは思わずクシャクシャとジェラールの髪をかきまぜてやった。
「……この子が、男でありますようにと祈るばかりだな。
女の子だったら、将来が大変そうだ」
「今からそんな事を言わないでくれ。
……想像しただけで涙が出る」
クシャクシャと髪を掻き乱さられるままに、ポツリとそんな風に言うジェラールを見て、エルザはまた笑ってしまう。
そんなやり取りをしていたら、隣のドアから
『お支度が調いましたので、どうぞ』という、上品な声が響いたので。
ほら、行くぞ、と、目の前の彼の腕を取って、二人でゆっくりと案内人の方の後をついて、その扉をくぐった。
すると。
「ジェラール!」
真っ白なドレスに身を包んだ、桃色の彼女が
嬉しそうに、隣の蒼髪の彼に飛びついてくる。
そんなに活発に動いていいのか、と言いたくなるくらいに着飾った彼女は、それでもそんな事はお構いなしに無邪気にジェラールに寄り添ってきた。
「どう!?」
瞳を満面に輝かせて、そう問うてきた彼女に、ジェラールは、何も言えずに固まってしまった。
最近、ふとした事で何だか懐古の想いに駆られる事が多くてジェラールは困っている。
昔を思い出すのは、痛みや罪や、勿論そういった類の苦しさもあるのだけれど。
最近、まるで郷愁のごとくに込み上げるのは、まだ少女の頃の、短い髪のメルディと旅を始めたばかりの頃の事で。
泣いたり怒ったり喜んだり、と、忙しい彼女は、あの贖罪の日々の中で、自分とウルティアにとっての温かな愛と光をくれた。
目の前の彼女は、もう、立派に大人になって。
そう、時には、自分に説教までしてくるようにもなって。
それから、恋をして『女性』になって。
そして、今日の彼女は、
こうして純白のドレスに身を包んで、自分の眼の前で、鮮やかに微笑んでいる。
「……似合ってない?」
ほんの少しだけ不安そうな顔をしてそう聞いてきた彼女にハッとして、ジェラールは慌てて口元に笑みをはいた。
「……まさか。
よく、似合っている」
「ほんと?」
「あぁ、とても、綺麗だ」
「よかった!
……あのね、ジェラールに、一番に見てもらいたかったの」
そう言った彼女が、本当に嬉しそうに笑ったのを見て、ジェラールの心も何かに撃ち抜かれたように滲んでくる。
その気持ちを誤魔化すように、今度はわざと巫山戯てメルディの額をつついてみた。
「今からでもやめてもいいんだぞ、メルディ」
「まだ言ってる」
クスクスとそう笑ったメルディが、そっとジェラールの手を握ってきた。
それから、じっと上目遣いに自分を見つめてくる。
「……あのね」
「うん 」
「もし、何かあって、ケンカとかしてね?」
「……」
「それで、実家に帰ります!ってなったら……
ジェラールのとこに、帰っていい?」
「……!」
「それから……。
それからね、もし、赤ちゃんが出来たりしたら…」
「………」
「その時も、一番に、ジェラールのとこに報告に行くね?」
「………」
柔らかく微笑みながら、ゆっくりと。
彼女が、言葉を紡いでいく。
「それとね、それと……」
「………」
「……今まで、たくさん。
……ありがとう。ジェラール」
ほんの少しだけ涙に滲んだようなメルディのその言葉を聞いて。
クシャリと微笑んだジェラールが、そのままゆっくりと顔を伏せた。
それから、ポン、と一回、ベールの上からメルディの頭を小突いてから、前髪に隠れたその表情を隠すかのように背を向けて、元いた隣の控え室の方に向かって歩いていく。
ジェラールのその姿を、滲んだ視界で見送ったあとで、メルディがフワリとエルザの方を振り向いてみると。
エルザもその瞳に僅かに水膜を浮かべながら、肩を竦めて優しく苦笑した。
そうして『……行ってくる』と微笑みながら、ジェラールの跡を追って、隣の控え室に戻って行く。
うん、彼の事は、彼女に任せておけばいい。
ジェラールの俯いた前髪の隙間から見えた綺麗な雫は、きっと、幸せの灯りなのだから。
ーーコンコン、と、指が木を叩くような優しい音につられて振り向くと、今度は反対のドアに、真っ白なタキシードを着た銀髪の彼が扉に凭れて立っていた。
ほんのり苦笑しているその顔に、もしかして聞いてた?と、思わずメルディは肩を竦めて小さく微笑む。
ゆっくりと近付いてきた彼は、眩しそうに瞳を眇めてそっとそのベールを撫でてくれた。
それから、ふっと悪戯っぽく笑って
「……今からでも間に合うらしいな、やめるか?」
と聞いてくる。
やはり、先程の会話は聴こえていたようだ。
「ふふ、やめても、いいの?」
「……心臓に悪いから、冗談でもやめてくれ」
「そっちが、先に言い出したくせに」
本気で泣きそうな顔で、そんな事を言うリオンに向かってメルディはプッと吹き出した。
そんな幸せの花弁を振りまいたような可愛い笑みも、それからその身を包む純白のドレスも。
すべてが、まるで当たり前に、自分の前に自分のために存在してくれる事に、リオンは世界を彩る色々なものに感謝したくなった。
「とても、似合ってる。
……綺麗すぎて、どうにかなりそうだ」
「…ありがとう」
「約束を、覚えているか?」
「もちろん」
二人であの日、決めた約束。
「俺が、メルディに幸せにしてもらうんだったな」
「そうよ。
そして、私がリオンに、幸せにしてもらうの」
「今日、初日からもう、たっぷり幸せを貰っているが」
「…え?そう?」
「こんなに綺麗な花嫁を見て、幸せを感じない男がいるなら、きっと世界は終わっている」
至極真面目にそんなふうに言うリオンのその顔を見てフワリと笑ったメルディのその表情に。
必ず。一生をかけて、大事にするから。
リオンは、反対側の扉の向こうに向かってそう誓いを立てたーー。
(……これで、今日になってやめるとか言い出したら、七星剣が降るな)
(天輪五芒星も降ってくるかも。
……命が幾つあっても足りないわね)
✱✱
(おまけ)
「……よろしく頼む、はよかったのか?」
「……」
「昨日、鏡に向かって練習していただろう?」
「……エルザ、そういうのは、次からは見なかった振りで頼む……」
「それは、悪かった」
「………」
「………」
「……。……この顔で言うのは、さすがに格好がつかないので、今日は遠慮しておく」
「……そうか。
うん、頑張ったな」
〈了〉
ほのぼの?
に、なってたら、いいな……(遠い目)