ガラスの靴は誰の手に?
ガジレビでプチ小話
『ガラスの靴は誰の手に?』です。
お付き合い前のガジレビと、お付き合いしているグレジュビで。
仲良くしていただいているかおちゃんへ。
プレゼントの気持ちを込めて、ガジレビです。
甘辛〜いのを目指して。
続くか、どうかは、わっ、わっ、わからないですけど……(逃げ)
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ここ最近ずっと、
ガジルくんの機嫌があまりよくない。
最初は本当に些細な仕草でしかわからなかったけれど、今はもう事あるごとに、その雰囲気がタダ漏れている。
原因は……。うん、恐らく彼女。
小さな、青い髪の彼女だ。
『敵の数が多いから付き合え』
そう言われて、今回ガジルくんと一緒に仕事に出た。
ガジルくんとリリーとジュビアとの三人で。
でも、その台詞は、ジュビアにではなくて、まずはその青い髪の彼女にかけられたものだった。
小さな彼女は、そのガジルくんの誘いを聞いて、ほんの少し困った顔をした後で。
「……んー、今回はやめとく。
ごめんね、ガジル」
と申し訳なさそうにそう言った。
そして、たまたま近くにいたジュビアに、
「ジュビア、ガジルと一緒に行ってあげてくれない?」と声をかけてきたのだ。
ガジルくんと仕事に行くことはたまにあることで、そんな事は全然いいのだけれど、それよりはコレは恐らく。
そう思ってチラリと隣のガジルくんを見てみると、やっぱり彼はかなり不機嫌な顔でブスッとしてそのやり取りを見ていた。
ーーここ最近、どうもレビィさんの様子がおかしい。
もう、10日以上になると思う。
なんだか、すごく疲れている感じで、表情にも生気がない。
あまり食欲もないようで、一応は食べてはいるけれど、半分もいかずに後は残していたりする。
「レビィちゃん、何か悩んでない?」
「レビィさん、何かあったんですか?」
ルーシィも、そしてジュビアも、気になって何度もそう訊いてみたけれど、レビィさんは小さく笑って「何でもないの」と言うばかりで、何も話そうとはしなかった。
そんな彼女の様子を、ガジルくんがチラチラと気にして心配しているのは、ジュビアには手に取るように解った。
ううん、ジュビアだけじゃない。
きっと、ギルドの他のメンバーも思ってる。
グレイ様も、
「……イラついてんな、ガジルの奴」
とため息をつきながらそう言っていた。
日を追うにつれ、レビィさんの憔悴ぶりはますます酷くなっていき、それに伴うガジルくんの不機嫌(という名の心配)もどんどん
大きくなっていった。
一緒に仕事に付き合え、と言ったのは、きっとガジルくんなりの打開策だったに違いない。
なんとかしてレビィさんの悩みを聞き出そうと思ったのだろう。
しかし、その提案も、当のレビィさんによってあっさり却下されてしまったから、ガジルくんの目論見は無に帰してしまったのだけど。
仕事が終って、討伐した魔物達を、ガジルくんが纏めて鉄鎖で拘束した。
後は、引き渡して、処置をどうするかお伺いをたてるだけだ。
確かに、数だけは多かった。
ざっと数えただけでも一人頭30体位は担当した気がする。
でも、雑魚ばかりだったので、別にジュビアがいなくても、ガジルくんとリリーだけでも間に合ったんじゃないかな。
それを鑑みても、やっぱり、レビィさんを誘ったのはただの口実だったに違いない。
「……何があったのかなぁ。レビィさん」
「………」
「……。ガジルくんが、何かしたんじゃないの?」
「あぁ!?」
ジュビアがそう訊くと、ガジルくんは眉間にこれでもかっていう位に皺を寄せて返事をした。
「なんで俺だよ!?」
「…だって~。レビィさんがあんなに元気がなくなるなんて。
……ガジルくんが、無意識に何か傷付けること、言ったんじゃないの?って思うじゃない」
「………」
ジュビアがそう返事をすると、ガジルくんは更に苦虫を潰したような顔をして黙り込んだ。
違う!と言いたいのだろうけれど、良くも悪くも不器用なガジルくんだから、自分でも無意識のうちに何かをしでかしたのでは、と危惧しているようだ。
すると、
「それが、そうでもないようなのだ。ジュビア」
黙り込んだガジルくんに代わって、返事をしてきたのはリリーだった。
「リリー」
「俺も、コイツが何か地雷を踏むような事を言ったかしたかしたんじゃないかと、レビィに訊いてみたんだが」
「…オイ…」
「わかります、それで?」
「テメェらは俺を何だと思ってやがんだ!」
ガジルくんの突っ込みは無視して、リリーと話を進める。
リリーが言うには。
『ガジルが何かしでかしたのなら、俺からアイツに話すから俺に言ってみてくれ』
とレビィさんに訊いてみたところ、
レビィさんは
『…へ?なんでガジル?
違うよ~。違う違う!』
と、キョトンとした顔で返してきたのだと言う。
……そうなんだ。
なるほど、その反応を聞いた限りでは、どうやら本当にガジルくんの事で悩んでる訳ではないらしい。
ガジルくんはその話を聞きながら、近くにあった木にタンッと背中を預けて、大きくため息をついた。
そして、無造作にグシャグシャと髪をかきあげて斜め下の地面を睨み付ける。
「……、ジュビア」
「なに?」
「アイツ、寮でもあんな感じか?」
そうして、ぽつりとそう呟いた。
「……うん。
ずっと部屋に籠ったまま出てこなかったり、そうかと思うと、なんだかものすごく部屋に帰るのを渋ってみたり」
「………」
「……特に、朝が酷いような気がするの。
ジュビアが、そう思うだけかもしれないけど」
「………」
ジュビアのその台詞に、ガジルくんはますます眉間の皺を深くして、いつも以上に凶悪な顔付きになった。
「なんかあるなら、俺に言え、って、何度も言ってるのによ……」
ガジルくんは、よく知らない人が見たら、まるで脅しているかのような目付きでボソッとそう言った。
「アイツの『なんでもない』は、もう聞き飽きた。
……俺が、ぶちギレる一歩手前だっての」
そして、普段なら絶対に言わないような弱音を吐く。
「次もまだ、シラを切り続けるようなら……」
がジルくんは、そこまで言って静かに言葉を切った。
そして、ぐっとその拳を握り締める。
心配からの、怒髪天を衝く状態が容易に想像出来て、ジュビアとリリーは二人で顔を見合わせて、そっとため息をついたーー。
***
「……っ、キャァァ……っ!」
隣の部屋からかすかに聴こえた引き攣る様な悲鳴にフッと目が覚めたのは、がジルくん達と一緒に行った仕事から帰ってきた日の翌朝だった。
「なに?」
飛び起きてゆっくりと隣の部屋へと続く壁を見つめる。
隣はレビィさんの部屋だ。
何か、何かあったのだろうか?
これまでの様子も相まってものすごく心配になったジュビアは、そのまま軽くカーディガンを羽織って廊下に出た。
まだ、早朝ともいえる時間なので廊下には誰もいなくて。
どうやら、あの微かな悲鳴もジュビア以外には聴こえなかったらしい。
トントン、と、少し躊躇いながら、レビィさんの部屋をノックしてみた。
すると、中からまた「ひっ…!」という小さな声が引き攣るのが聴こえて。
「レビィさん?ジュビアです。
大丈夫ですか?どうかしましたか?」
「……!…あ、あぁ、ジュビア……
ううん、なんでもないの……」
レビィさんのほっとしたような声が、それでも微かに震えているのがわかる。
なんでも、ないわけない。
こうやっていても、埒があかない。
「レビィさん?入っていいですか?」
そう言ってドアを開けようとしたら、当然というかなんというか、鍵が掛かっていたので、
「レビィさん、開けてください」
と、中に向かってお願いしてみた。
「ジュビア、あの、大丈夫だから」
中からはレビィさんがそういう返事をするのが聴こえてくる。
「………。
レビィさん、ごめんなさい。
弁償はジュビアがしますね」
暫く悩んだ後で、そう言って水流(ウォーター)で、扉の鍵だけを壊した。
だって、絶対に何かに怯えている声だったから。
不法侵入をいかがなものかとは思ったけれど、昨日のガジルくんの様子もある。
皆だって、本当に心配していると思うから。
ちょっと強引に鍵を取り除いて、
「レビィさん、失礼しますね」
そう言って、隣のレビィさんの部屋に入らせてもらった。
中に入ってきたジュビアを見て、レビィさんがワタワタと慌てた。そして。
「ジュビア…!
あの、これは……っ」
焦ったレビィさんが、慌てて隠そうとしたものを、目の端で捉える。
そこに、拡がっていたものに。
「……!」
愕然として目を見開いて、思わず声を失ってしまう。
そこには、
散乱する紙と、写真。
それから…。
「……! レビィさん、これ…!?」
「……っ…」
隠しきれないと悟ったのか、レビィさんはカッと顔を紅潮させたその後で。
今度は、クシャリと顔を歪めて、瞳に小さく涙を浮かべ始めた。
やっと、わかった。
彼女をずっと、悩ませていたもの。
全然気づかなかった。
いつから?
隣で、こんなことになっていたなんてーー。
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