glazed frost

FTのグレジュビ、OPのサンナミをこよなく愛するブログ。

姫と王子の序曲(オーバーチュア)

グレジュビ長編。姫と王子シリーズ第一話。

グレジュビ、ガジレビで、事件物を書こうかと。

やっぱり好きな女の子を護る男子は定番ですよね。

何話か続きます。

 

では、どうぞ

 

*****

姫と王子の序曲(オーバーチュア) 

 

 

 

「てめぇ、何しやがる!クソ炎 」

「あぁ!?やんのか、この変態!」

「誰が変態だ、」

「っつーか、うるせえ!ここで喧嘩すんな!

邪魔だ!」

「うるせえのはてめぇだろ、鉄クズ野郎!

怖ぇーならあっち行ってろ!」

「てめぇ、サラマンダー、誰に向かって物言っ てやがんだ!かかってこいや、オラ」

 

フェアリーテイルのギルド内は今日も騒がしい。いつものように「勝負だー!ラクサス!」と言って突っ掛かったもののそのまま一撃で投げ飛ばされたナツが、カウンターで食事をしていたグレイに激突したのに始まって、隣の席にいたガジルを巻き込み現在に至る、というまったくもっての通常運転である。

 

「やれやれ、よく飽きないわよねぇ。」

「うむ。まぁ今日は私のケーキにぶつからなかっただけ褒めてやろう。」

「グレイ様ー。

たとえ半裸でもグレイ様は世界一ステキです!

ジュビアが援護します!」

「ちょっとジュビア!参戦しないでよ!

ギルドが水浸しになっちゃうじゃない。」

「何ですかルーシィ。はっ、もしや自分がグレイ様の味方をしようとして…!?むぅ~、恋敵~!」

「違うったら!何でそうなるのよ!」

「…あっ!? ガジルくん!

グレイ様に抱き付くなんてズルい!」

「ちょっと!聞いてる!?」

 

 

「あー、みんな、おるかの?」

 

マスターマカロフがミラジェーンを引き連れて、深刻な面持ちでギルドのメンバーが騒いでいるメインフロアにやって来たのは、そんなある日の午後のことだった。

 

「…どうしました?マスター

何か、ありましたか?」

 

いつもとは少し違う雰囲気を察知したエルザが、そう尋ねると、

 

「…うむ、まぁ話を聞いてくれぃ。

こら、お前たちいい加減にせんか。」

 

マカロフも静かにそう答える。

 

その様子に、ケンカ真っ最中だったメンバーも何事かと手を止めて、ゾロゾロとマカロフの周りに集まってきた。

 

「なんだよ、じーさん。

何か、大口の仕事か?」

 

グレイも放り投げていた上着を身につけながらそう訊いた。

 

「まぁ、大口、と言うほどではないが…。

実は、評議院の方から依頼が来ての。

ある事件を我がギルドで解決してほしい、と。」

「ほぉ~。」

「で、その、ある事件、って何ですか?」

「…ふむ、実はここ数ヵ月で、女の魔導士が、続けざまに拉致される事件が起きていての。」

「拉致?」

 

エルザが反復してそう訊いた後で、『知っているか?』と聞きたげな顔で周りの皆をぐるりと見回した。

誰もが『初耳だ』のいう顔で首を横に振る。

 

「事件が事件だけに、あんまり表沙汰になっていないのよ。」

 

ミラジェーンが、マカロフの言葉を補充するようにそう言った。

 

「…拉致された魔導士は全部で4人。

一人目と二人目は、見つかっておらん。

三人目と四人目は、街に投げ捨てられておった所を保護はされたが、二人とも心神喪失態で、会話もままならん様子だと言うことじゃ。」

「…心神喪失状態って…」

「身体の傷の酷さも勿論じゃが。

…それよりも心の傷が大きいようじゃ。

精神錯乱状態で、ボロボロらしい。

相当、酷い目にあったのじゃろう。」

「それって…」

 

ルーシィはおそるおそる尋ねるようにミラジェーンを見た。

ミラは苦く微笑んだ表情で

 

「…そうなの。つまりは拉致されて、普通の暴力だけじゃなくて…、

…性的な暴力も受けてきたらしいの。というか、恐らくそちらが主な拉致の目的だと思われるわね。」

 

と、苦しげにそう言った。

 

聞いているだけで不快な話だ。

ナツもグレイも、ラクサスもガジルも、眉間にぐっと皺を寄せて口をつぐんでいる。

こういった話題になると、男としては何をどう言ったらよいのか分からず困惑するばかりだ。

だが。

同じ男として『あり得ない』『虫酸が走る』とは強く思う。

ミラが静かな中にもかなりの怒りを滲ませているのを感じとったラクサスは、『落ち着け』と言いたげにミラを見つめた。

ガジルは、レビィが小さな声で『…ひどい』と呟いたのを聞いて、肩にトン、と手を置いた。

グレイも、ジュビアが俯いて唇を噛みしめたのを、黙って見つめている。

ナツは、隣にいたルーシィの手をギュッと握りしめた。

 

マカロフはそんな彼らの様子を一瞥して、さらに話を続けた。

 

「…つまりは、その犯人を捕まえて、これ以上被害が増えないようにしてほしい、というのが評議院からの命令じゃ。

捕まっているのが魔導士ばかりだということ、

彼女達が逃げ出せないよう魔力を封じることの出来る人物であること等から、魔導士ギルドでなければ犯人を捕まえることが難しいだろうというのが評議院の考えじゃ。」

 

マカロフがそう言うと、身体からユラリと怒りの焔をたたえてナツが、立ち上がった。

 

「今すぐにでも行って、こてんぱんにのして、

縛り上げて帰ってきてやんよ、じっちゃん。」

「そうよ!そんな奴、絶対に許せない!」

「「場所はどこだ(なの)!?」」

 

ナツとルーシィは口々にそう言ってマカロフに詰め寄った。

 

「…それがの、助かった二人の話…まぁそもそもその話が途切れ途切れなんじゃが、それを繋ぎ合わせても大したことはわからんでの。

…わかっとるのは、拉致の事件が起こっとるのは、恐らくダリの街だということだけじゃ。」

 

マカロフは、詰め寄ってきた二人にそう言うと、もう一度メンバー達の顔をぐるりと見回した。そして、言いにくそうに口ごもった後で、意を決したように

 

「…つまりは、そのダリの街で、何とかして奴を誘きだし、

アジトを掴むしかない、ということじゃ。」

 

そう言った。

 

「…私が、囮になりましょう。」

「エルザ!?」

 

即答で、エルザがそう言って手を挙げた。

皆が一様に驚きを隠せない様子で『囮なんて』『危ないよ』と言い合っている。

しかしその提案は、

 

「それが、エルザには無理なの。」

 

と、困ったように微笑うミラジェーンによって

却下されてしまった。

 

「無理、とは?」

「私も最初、自分が囮になりますって言ったの。

でも、私も無理なの。」

「どういうことだ?」

「…あのね、今までの被害者の方達なんだけどね、

年齢も、使う魔法も、顔かたちも、勿論所属ギルドも、みんなバラバラなんだけどね、一つだけ共通点があるの。」

「…共通点?」

「そう。

何もかも統一性がないのに一つだけ徹底されていること。

それがね、…全員青い髪だ、ってことなの。」

 

ミラは、少し躊躇いながらも事実を淡々と伝えていった。

そして、その事実が明かされた瞬間に全員がハッとしてある二人の、いや正確にはある四人の方を見つめた。

 

 

レビィが、何かを決意したように顔を上げた。

その姿を見て、ガジルは肩に置いていた手にぐっと力を込めて、レビィを睨み付けた。

そして。

ジュビアも一歩前に足を踏み出す。

そんなジュビアの腕を、グレイがぐっと掴んだ。

 

「グレイ様」

「…駄目だぞ。」

 

視線は前を向いたままで、グレイは冷気を纏ってそう言い放った。

 

「…いいえ、グレイ様。

これは、ジュビアの仕事です。

マスター。

ジュビアが、行きます。」

「ジュビア!」

 

グレイは掴んでいた腕を引き寄せてジュビアを睨んだ。

身体を纏う冷気が更に濃くなったのを、見ていた誰もが感じ取った。

 

「…エサは多い方が効果的、だよね。

マスター、私も行きます。」

「チビ!」

 

続けて手を挙げたレビィを、ガジルが怒鳴りつけた。こちらも刃物のように鋭いオーラで、レビィを睨み付けている。

 

「…じじぃ、俺も反対だ。」

 

その様子を見ていたラクサスが、皆を代表するかのように意見した。

 

「今まで4人も犠牲になってる。

しかも、4人とも魔導士なのに、だ。

つまりは、魔法は使い物にならねぇ可能性が強い。

2人はボロボロ、あとの2人は帰ってきてもねぇと言われて、仲間を囮に出すのは危険過ぎる。」

 

全員が思っていたことを、兄貴分として代表してか、ラクサスが口にした。

 

「そうだよ。ジュビアもレビィちゃんもやっぱり囮なんて駄目だよ!」

 

ルーシィがラクサスに続けてそう言うと、他のメンバー達も一斉に頷いて、マカロフの方を見た。

マカロフも同意見なのだろう、ゆっくりと目を伏せて腕を組んで考え込んでいる。

 

だが、しかし。

他に方法が思い付かないというのも、また事実だった。

そうして困り果ててしまったから、こんな風に皆に相談に来た、ということなのだろう。

全員が、考え込んでしまった中で、口火を切ったのは、ジュビアだった。

 

「マスター。

どう考えても、ジュビアが囮になる以外で、犯人を誘き出す有効な手だてがありませんよね?」

「…ジュビア」

「…ジュビアなら、大丈夫です。

たとえ捕まっても、ちゃんと、皆さんの助けを待てます。」

「………」

 

ジュビアの、静かではあるが強い口調の意見を聞いて、皆が黙りこんでしまう。

 

「こうしている間にも、次の犠牲者が出るかもしれません。

次の方が拉致されてしまったら、犯人も当分はエサに食い付いてくれなくなってしまうのでは?

表沙汰になっていない事件だけに、他のギルドはきっと対策をとっていません。

1日でも早く、事情を知っている我々フェアリーテイルが動くべきです。」

 

ジュビアはグレイに腕を掴まれたままの状態で冷静にそう言って、そして、

 

「ジュビアが、行きます。マスター。」

 

と、キッパリとそう言い放った。

 

「私も行きます、マスター。

私もジュビアと同じ事を言うつもりでした。」

 

レビィも瞳に力強い光を宿して、ジュビアの後に続いた。

 

二人の台詞の後、辺りはシーンと静まって、全員が何も言えなくなってしまった。

危険な事は重々承知だが、二人はともにS級候補にもなったいわゆる天狼組で、ギルドでも上位の魔導士である。

特に、元幽鬼のエレメント4であり、水を自在に操るジュビアの力は誰もが認めるところだ。

 

マカロフは、静かに二人を見つめた。

悩んでいるのだろう、苦渋の表情は誰から見ても明らかだ。

ジュビアの腕を掴んでいるグレイと、レビィの肩に手をおいているガジルの顔を、マカロフは順番にゆっくりと確認した。

 

そして、大きく1つ息をついてから、

 

「……、頼めるかの?」

 

決意したように、そう言った。

 

グレイが、くっと顔を歪ませて奥歯をギリッと噛み締める。

ガジルも相変わらず刃物のようなオーラを納めようとはしなかった。

 

「はい。」

「任せてください。」

 

そんな空気の中、ジュビアとレビィは声を揃えて、力強く返事をする。

 

「…では、決まりじゃ。

ジュビアとレビィを中心に、2~3名でチームを組んで対処。

ミラ。」

「はい」

「編成はおぬしに任せる。

準備が出来次第、ダリに出発じゃ。

みな、よろしく頼む。」

 

マカロフの決定を誰もが無言で受け止めながら、グレイとガジルの心中を察して二人の様子を伺った。

 

グレイとジュビア、そしてガジルとレビィの二組は、まだはっきりと付き合いこそしていないものの、どちらもとてもいい雰囲気で、明らかにお互い好きあっているのは、ギルドでは周知の事実だ。

(本人達は周りには気付かれてないと思っているらしく、決して認めようとしないが。)

素直じゃないグレイと不器用なガジルが、

一体どうやってこのじれったい恋模様を纏める気かと、メンバー達は、日々賭けをしたり冷やかしたりして楽しんでいた、のに。

こんな爆弾を期待していたわけではない。

 

指示を出し終えたマカロフがエルザを伴ってホールを去った後で、残されたメンバー達は、チームとしての指示を仰ぐため、ミラの周りに集まってきた。

 

「どう組ませる気だ?」

 

ラクサスが、ミラを見て訊ねる。

 

「…そうね。

まず全体のサポートと指示役として、カナとウォーレンは入ってちょうだい。」

 

カナのカード魔法は、カードを使って位置を特定したり、味方に危険信号を送ったりも出来る。犯人がエサに食い付いてくれた後、ウォーレンの念話と合わせて、街に散らばったメンバーをより迅速に助けに向かわせる事が出来るだろうという考えだ。

 

「承知!」

「まかせて。」

 

カナとウォーレンが即答したのを確認して、

ラクサスは続けて次の指示を仰いだ。

 

「…妥当だな。…で?」

 

「後は、レビィ組とジュビア組に分かれて2人ずつガードに入って貰おうと思うわ。」

「なるほど」

「まず、レビィ組だけれど…」

「俺が行く。」

 

ミラの台詞に間髪入れずにそう言ったのは、

誰もが予想した通り、ガジルだった。

 

「悪ィが、これは譲れねぇ。

…まぁ、駄目だと言われても、勝手に行くだけだが。」

 

ガジルが眼光鋭くミラを見つめる。

 

「…ダメなんて言う気はないわ。

じゃあレビィ組は、ガジルと……

それからラクサス、頼める?」

「わかった」

 

ガジルが無言で頷いたのをチラリと見ながら、ラクサスもそう答える。

 

「それから、ジュビア組は…」

「ミラちゃん、俺が行く。」

 

未だ、ジュビアの腕を掴んだままの状態で、静かにグレイがそう言った。

これも、全員が予想した通りだった。

だが、ミラは今度は少しためらいながら、グレイを見つめて。

 

「…グレイ。

さっき、エルザがマスターに呼ばれて行ったでしょう?

実は、もう一件大きな討伐の仕事があって、それをエルザやナツ、グレイ達のチームに任せるつもりだと思うの。

だから…」

「…そっちに行けってか?」

「行け、とは言わないけれど…。

でも、チームでしょ?

グレイ一人では決められないんじゃない?」

「………」

 

ミラが言いにくそうにそう伝えた後で、グレイも口をつぐんでしまった。

 

「いいよ!グレイ。

討伐の仕事は、私達で行くから!」

「あぁ、そうだな。

変態氷野郎なんて、別に居なくても全然オッケーだぜ。」

 

ルーシィがグレイを気遣ってそう言うと、続けてナツも憎まれ口を叩きながらニヤッと笑った。

ナツが『いいからお前はジュビアの方行け!』そう言ってくれているのは、充分伝わっている。

皆の気持ちがジンときて思わず拳を握りしめたちょうどその時。

 

「いいえ。グレイ様はチームのお仕事の方に行って下さい。」

 

頭から冷水を被せるような台詞を吐いたのは、

ジュビアだった。

 

「ジュビア!?」

 

ルーシィがビックリしてジュビアに詰め寄る。

 

「ジュビア、グレイ様には一緒に来てほしくありません。」

「………!!」

「グレイ様はチームの仕事の方を優先して下さい。

ミラさん、グレイ様は外して、二人お願いできますか?」

 

ジュビアが真っ直ぐにミラを見つめてそう言った。

その台詞に周りもシーンと静まってしまう。

ミラも困惑したのかチラリとラクサスの方に目をやりながら、どう決定を下したものかと口ごもってしまった、まさにその時だった。

 

ガンッ、という激しい音がギルドの中に響きわたった。

 

全員が咄嗟に音のした方を振り返る。

 

そこには、手近な椅子を思いきり蹴り倒したグレイがいた。

 

俯き加減のせいか前髪が邪魔してその表情は伺えないが…、抑え切れないほどの冷気が、グレイの周りに立ち上がっているのが解る。

 

「…グ、グレイ、落ち着いて…」

 

ルーシィがそう言い終わらない内に、グレイはぐっとジュビアの腕を掴み直すと、

 

「…ミラちゃん、俺が行く。

あと一人、決めておいてくれ。」

 

相変わらず俯いたままで、そう言い捨てて、無理矢理ジュビアを引っ張って歩き出した。

 

「グレイ様!ジュビアは…」

 

「うるせぇ!」

 

何かを言い掛けたジュビアを一喝して、そのまま無言でジュビアを引きずってゆく。

そうして、バンッッとギルドの扉を壊しかねない勢いで突破して、ジュビアを連れて外に出て行った。

 

「…あー…相当キテるね…ありゃ」

「…ま、仕方ねぇ。…当然だろ」

 

カナとマカオが顔を見合わせてそう言うと、

ラクサスも苦笑して「…で?…どうすんだ?」とミラに訊ねた。

 

あの様子では、グレイは自分が外される事には決して納得しないだろう。

ましてや、遠く離れた場所で違う仕事をさせてもきっと集中出来ない。使い物にならないばかりか、下手をすると致命的なミスをして自分やチームのメンバーに怪我をさせる可能性もある。

ミラは、ふぅーと大きくため息をついた後で、

 

「…ジュビアのガードには、

グレイと、…私が行くわ。」

 

そう決定を下した。

 

 

 

 

***

 

 

 

 

「…どういうつもりだよ。」

 

引っ張ってきたジュビアの両肩をギリッと掴んでギルドの外壁に押し付けた。

いろんな事に沸々と怒りが沸き起こってきて、

声にも怒気がはらむ。

 

「…痛っ、…」

「…俺と一緒に行きたくねえ、ってどういう意味?」

「………」

「大体そもそも、囮、なんて。

自分から申し出るようなことか!?」

「………」

「…ジュビア!」

 

何も答えようとしなジュビアに苛ついて、つい大声で怒鳴り付けた。

 

まだ、何かをはっきりさせた関係ではない。

自分にジュビアを縛り付ける権利は、まだない。

それは解っているが。

 

でも、コイツが自分にとって誰よりも大切な存在となってしまっている事は、もう とうの昔に自覚している。

ジュビアが俺を好きだと言う。

最初はめんどくさかったその事実も、今や俺にとっては なくてはならない当然の理だ。

俺の行動一つ一つに、アウアウ言って振り回されているコイツが、とてつもなく可愛くて愛しくなったのはいつからだっただろう。

とにかく、俺の傍にコイツがいて無邪気に笑っている、という事実は決して覆ってはならないものなのだ。

 

今回の事件はとにかく胡散臭い。

大きな魔力や闇ギルドといったとんでもないものが絡んでるようには思えない。

でも、捕まった彼女達は誰もまともな状態では帰ってきていない。

普通の人間が、魔導士相手に太刀打ち出来る訳もないだろう。

つまり、相手は何か特殊なスキルを持っているということになる。

そんなところに、自分の好きな女が囮として出向くと言い出して『おぅ、行ってこい』と送り出す馬鹿が一体どこにいるというのか。

ましてや性的暴力がどうこうと言われては、頭の線も2~3本ブチ切れるでは済まない。

 

ジュビアに…、コイツに触れていいのは、俺だけだ。そこに他の男の出番なんて欠片もない。

ましてや、そんな訳の解らない相手に無理矢理好きにされるような…、その場面を想像しただけで、怒りで頭がどうにかなりそうだ。

 

…それでも。

どうしても行かなくてはならないのだとしたら、せめて側にいて俺が護ってやりたい。

そう思って必死に自分を納得させようとしているのに。

 

押さえつけたジュビアをじっと睨み付けた。

ジュビアも負けじとこちらを見つめ返してくる。

 

「…グレイ様には、チームがありますから。

そっちに行って下さいって言っただけです。」

「別に、チームだからって常に一緒に動く訳じゃねぇ。

そんな事お前だって解ってるだろ。」

 

実際、バラバラに仕事に行くこともよくある事で、俺がジュビアと二人で組むこともしょっちゅうだ。そんな事が今更理由になるかよ。

ジュビアはフイと横を向いて口を開いた。

 

「…ジュビアは、一人でも大丈夫ですし、今回は他の皆さんも助けてくれますから。」

「………」

「幽鬼の時にも似たような任務もありましたが、その時も一人でした。

……ですから、グレイ様は、必要ありま……」

 

ジュビアのセリフを最後まで聞く気持ちには到底なれなかった。

 

壁に押さえつけたそのまま、ぐっと顎を掴んでこちらを向かせて、強引に唇をふさいだ。

 

ジュビアが両腕を必死に突っ張って抵抗しているが、知ったことか。

そんな程度の力で、無理矢理押さえ込んでくる男に勝てる訳もねぇだろ。

そのまま、壁に両腕をついて、もっともっと囲いこんでやった。

 

「…やっ…」

 

小さく声をあげたところを狙って、更に深く口づける。

 

ジュビアの脚の間に自分の脚を割りいれて決して逃げられないように押さえ込んだ。

 

こんな距離でジュビアと触れあった事なんて今までなかったから…。

こんな時なのに、それだけで頭の芯がクラクラしてどうにかなりそうだった。

 

まだ、気持ちもなんも伝えあってねぇのに。

はじめてのキスがこんな無理矢理じゃ、俺もそのクソ野郎と変わんねぇのかな。

 

でも。

でも、違うんだ、ジュビア。

お前の一番近くで、一緒に笑い合うのも。

こうしてキスして抱きしめ合うのも。

お前を一番そばで護るのも。

全部全部、俺の役目だろ。

『要らねぇ』なんて言葉は、絶対に認めない。

 

 

ゆっくりと口づけを解いて、ジュビアを見つめた。腕の中に、頬を上気させて必死で息を整えているジュビアがいた。

くそ、こんな時なのに、とは思うが…

…かわいい。

手放す事が出来なくて、そのまま一度ギュッと抱きしめて、…それからゆっくりと腕をほどいた。

 

「…グレイ様、…あのっ、ジュビアは…」

 

何かを言い掛けたジュビアの口許を掌で押さえた。

 

「…今回は、お前が何を言おうと聞く気はねぇ。

…俺が、一緒に行く。

それで、決まりだ。」

 

ジュビアは大きく目を見開いて俺を見た。

瞳が揺れて、僅かに潤んでいる。

 

そっと、押さえていた掌を外した。

そのまま、ジュビアの髪にクシャッと手を入れて、ぽんぽんとあやすように頭を撫でる。

 

「…グレイ様…」

 

「…戻って、準備してくるわ」

 

次にジュビアが何かを言い出す前に、

静かにその場を後にした。

残されたジュビアの表情は伺えなかったが、

でも、ジュビアももう何も言わなかった。

 

 

ポツリ、と雨が、頬を濡らし始めた。

 

俺が、護る。

 

気持ちの中心にあるのは、

ただそれだけだった---。

 

 

 

 

 

〈続〉

 

 

 

 

○°。

 

 

 

∞∞後書き∞∞

 

 

第一話お付き合いいただきありがとうございます。

グレジュビ、ガジレビ、ラクミラと好きなCPてんこ盛りで事件物を書こうかなと。

やっぱり、王子達は姫達を護らないと駄目ですよね。

そんなつもりでは全然なく書き進めているのに、私が書くグレイ様はキレるとすぐ手を出す……アレ?

ごめんなさい。(((^^;)

 

あと、何話か続きます。

 

もし宜しければ、根気よくお付き合い下さいませ。

 

 

 

◆◆