glazed frost

FTのグレジュビ、OPのサンナミをこよなく愛するブログ。

姫と王子の奏鳴曲(ソナタ)

グレジュビ長編。姫と王子のオマケ話です。

本編の反動でしょうか、全編通してただ甘いだけです(汗)
グレイ、自分の気持ちに振り回されるの巻です。
いろいろ、先に謝っておきます、ごめんなさいー(((^^;)

ではでは。

姫と王子の奏鳴曲(ソナタ)



「「ジュビア、レビィ、退院おめでとう~!」」

パーン、というクラッカーが音を立てて、お祝いのパーティーが始まった。

「ありがとう~」
「ありがとうございます。」

ジュビアとレビィさんも声を揃えてお礼を言う。
ホントにこんな風にお祝いしてもらうなんて、なんだか申し訳ない。
だって、どちらかというと囮の仕事には失敗して、皆さんに助けてもらった感が強いのに。
レビィさんと二人、そう主張してみたが
『まぁまぁいいじゃない、皆で騒ぐ口実の1つよ』とミラさんに言われて、ありがたく受けとることにした。
『口実なんかなくたっていつも騒いでるわよね!?』っていうルーシィの突っ込みももっともだと思ったけれど。

「家族の退院祝いじゃ~!
盛り上がるぞぃ、ガキども~!」

というマスターの掛け声を皮切りに、飲めや歌えやの大宴会が始まった。
いつもと何も変わらないようで、いつもよりほんの少し盛り上がってくれているギルドのメンバーに心が温かくなった。

宴もたけなわと盛り上がりを見せる中、
ジュビアはカウンターから少し離れたテーブルで、ルーシィやレビィさん、リサーナさんにカナさんといったギルドの女性陣が話に華を咲かせている中にいた。
周りで行われているのは、所謂『ガールズトーク』という奴。
あぁ、この中にいるのが、今は一番落ち着く。
腕の中の物をギューッと抱きしめつつ、実は半分聞いているのか聞いていないのか分からないような状態で、フンフンと皆の話に相槌をうっていた。

向こうの方では、例に漏れず、ナツさんやグレイ様、ガジル君達が騒いでいる。
今日も今日とて、レクリエーション代りの喧嘩で大騒ぎしながら、周りに囃し立てられていた。

「あ、グレイ、また脱いでる」

レビィさんの台詞の中の『グレイ』って言葉に反応して、ジュビアはキュピーンと固まった。
そのまま、ギュウウ、とまた例のブツを抱きしめる。

「ねぇ、ジュビア、グレイが…」
「はいぃっ!なんでしょう!?」

続けて何か言いかけたレビィさんに向かって、
思わず返事も裏返ってしまった。
レビィさんはそのジュビアの声にビックリした様子で「へっ?」と呟く。
カナさんやルーシィも、キョトンとしてジュビアの方を見た。

「ジュビア」
「はいっ」
「…ジュビア、今日なんかいつにもまして変じゃない?」

レビィさんが、不思議そうにそう聞いてきた。

「べっ、別に変なんかじゃありません!」
「そう?」
「はいっ、フツウです!いたってフツウ!」
「…ならいいけど」

焦ってそう返事をしたジュビアに向かって、レビィさんは腑に落ちないような顔でそう言った。

「…っていうかさー、さっきからずっと気になってるんだけど。
どうして、ソレをずっと抱っこしてるわけ?」

そう言ってルーシィは、ジュビアの腕の中にある体長約50センチの“グレイ様人形”を指差した。

「こ、こここれには、別に深い意味なんて…」

そう説明しかけると、突如、真後ろから

「ジュビア」

と呼ばれる声がした。

「はいぃっ」

ビクーンッ、として振り向くと、そこには上半身裸の状態のグレイ様が、ニッと笑って立っていた。
グレイ様は、脱ぎ散らかした上着を片手に、背後からジュビアを囲いこむようにテーブルに手を付くと、

「あちぃ~。コレ、貰っていい?」

と、ジュビアの飲んでいたグラスに手を伸ばした。

「ハハハハイ!どうぞ!」

ジュビアがワタワタしながらグラスを手渡すと、グレイ様は「ん。」と言って、そのままジュビアの手からグラスを受け取って一気飲みした。
そして、プハーと息を吐いたと思ったら、片手に持っていた服を
「わりぃけど、持ってて」
と言ってポンッとジュビアが抱きしめているグレイ様人形の上に被せて乗せた。

「はっ、ははい!」

ジュビアがそう返事をすると、グレイ様はちょっとだけ眉をヘニャリ、と下げて、なんとも言えない困った顔で苦笑して…。
そして、
「…おまえ、テンパりすぎ…」
優しくそう言ってジュビアの頭をポンッてした後、またナツさん達との喧騒の中に戻って行った。

ダメ、だ。
ダメダメ!…もう、どうにかして。
テンパりすぎって、テンパりすぎって…だって…

「…怪しい…!」

ルーシィのその台詞に、はっとしてテーブルの方を見ると、カナさんもルーシィもレビィさんもリサーナさんも、全員がじぃぃーっとジュビアの方を見ている。

「…何?今の感じ…」
「怪しすぎるんですけどー!?」

リサーナさんの問いに続けて、ルーシィからの突っ込みも入ってくる。

「べっ、別に何も怪しくなんか…!」

ジュビアがそう言い掛けると、ふとカナさんが、ジュビアの足元に置いてある荷物を見て、

「ジュビアさ、一旦病院からヒルズに帰ったんだよね?…そのわりには荷物大きくない?
しかも何で人形持ってきてんの?」

と、訊いてきた。

「こ、これは、その、こうしてないと落ち着かなくて…」

ジュビアがそう言いながら、もう一度ギュウウとグレイ様人形を抱きしめると、

「えー、ますますアヤシイなぁ。
実は今日、グレイにお持ち帰りされちゃったりして~、ハハハ」

カナさんは、まさかね~なんて笑い飛ばしながらジュビアの背中をバンバンと叩いて、手に持っていたジョッキを煽った。
リサーナさんも、アハハ~やぁだ冗談キツすぎ~、なんて楽しそうに笑っている。
でも、カナさんから突然飛び出したその超特大爆弾は、ジュビアを完全に固まらせるのに充分な破壊力だった。
ピキーン!と固まったまま、黙りこくってしまったジュビアを見て、今度は、周りの全員がピタッと動きを止めて、じっとジュビアを見つめてくる。

「…うそ…、マジで?」

目を点にしたまま、ルーシィがそう言ったのに口火を切って、

「マジで!?
あの、ヘタレの代名詞のグレイが!?」
「うそッ、っていうか、いつの間にそんな、えっ?」

と、皆が身を乗り出して詰め寄ってくる。

「ちっ、ちち違います!
チガウんです~っ」

ジュビアが、涙目になって必死に否定しているのに、リサーナさんは「なんてこと、ダメだダメだと思ってたらいつの間に」と呟き、ルーシィは「やられたわ、グレイの癖に生意気…!」と半目でひきつっている。

「うぅ、違います~!
あのあの、ジュビアは、あのっ」

皆の反応に、自分がまたしても失敗してしまったことを悟って、必死で涙目で否定していると、
カナさんが、

「…あぁ、わかったわかった、ジュビア。
ほら、皆ももうやめてやりな。」

そう言って、ポンポンとジュビアの頭に手を置いてくれた。
助けて、くれたのかな?
うぅ、カナさんありがとうございます。

「…しかし、あのグレイがねぇ。
っていうか、ジュビア、この間の宿で朝までグレイと一緒だった時は、なんもなかったわけ?」

カナさんは、やめてやりな、って言ったその口で、結局はまたすぐに爆弾を落とすという非道な技を繰り出した。
ヒドイ…、感謝したのに。

「なっ、なになにそれ?.:*:」

リサーナさんが、目をキラキラさせてその話に食いつく。
ジュビアが、うぅ、と半泣きで唸っていると、レビィさんが、
「ジュビア、この間の仕事の時、朝までグレイと一緒の部屋で一晩過ごしたんだよ。
なんか二人がギクシャクしてたからさ~、カナが1日部屋を譲ったの。」
と、ルーシィやリサーナさんにご丁寧に説明してくれた。

うぅ、もう諦めよう。
どうせ、この場にレビィさんもカナさんもいるのだ。あっちにはミラさんもいるし。この話に関しては、周知の事実なことは間違いない。
ジュビアは、ハァァ、とため息をついて、

「…あの時は、ホントに眠っただけで。
そんな、何かとか、何にもないです~…」

そう言ってちゃんと返事をした。

そう、あの時はホントに、ただグレイ様の腕の中で眠っただけで……

『この間みたいに、ただ抱きしめて眠るんじゃなくて。
…ちゃんと、ジュビアを抱いて眠りたい。』
『意味、わかるか?』

その時、突然昨日のグレイ様の言葉がギュンと舞い降りてきた。
ボボボッと顔中から火が出る位の勢いで、顔が火照って来るのがわかる。
きっと、誰から見ても真っ赤になってしまっているにちがいない。
ギュウーとまたグレイ様人形を抱きしめてその中に顔を埋めて隠した。

あぁ、…やっぱり、無理…っ。
昨日は、グレイ様の甘い声と真剣な表情にクラクラして、『はい』と頷いてしまったけれど。
冷静になって、しかも中途半端に1日空いたりしたものだから、グルグルといろんな事を考えてしまって、もう頭が爆発しそう。
いっそ、あのまま、あの場から連れ出してくれた方がまだマシだったかも…って今になってそう思う位だ。

ちゃんと、って、意味わかるか、って、やっぱりそういうこと、なのだろうか?
ググググレイ様と、その、……。

それに、こんな、ギルドのメンバーが皆揃っている中を、グレイ様と一緒に帰るなんて…!
しかも、寮に帰らない事は、誰かに言っておかなければならない。
そんなの一体、誰にどう言えば…!

ジュビアの思考回路は、もうパンク寸前だった。


今日、グレイ様は、ジュビアの退院に合わせて病院に迎えに来てくれた。

「どうする?一旦寮に戻って荷物片付けた方がいいよな?」

そう言って、荷物を持って、フェアリーヒルズまで送ってくれた。

寮に着いてからも、門の外で、

「…俺は、ここで、待ってるから。
部屋入って、片付けて、
で、ちゃんと用意して出てこい。
…今日はもう、…帰らねぇんだし」

少し頬を赤くしてそう言って、ジュビアの髪をポンポンしてくれた。
その言葉にも顔が火照るのを止められなくて、でも、どう返事したらいいかわからなくて、
ジュビアが困った顔でグレイ様を見つめたら。
そしたら、グレイ様は、
今度は、切なそうな目で、真剣にジュビアを見つめてから、

「…逃げんなよ」

そう言って、ヒルズの塀にフッと背中を預けた。ーー


その時のグレイ様の顔を思い出すだけで、
胸がギュッと締め付けられるように苦しくなって、ドキドキが止まらなくて…。

もう、どうしたらいいかわからない。

グレイ様人形に、顔を埋めたままのジュビアを見て、周りの皆はやっとからかうのを止めてくれた。
静かになったので、ウッと半分涙目になりながら、少しだけ目線を上げると。
レビィさんもリサーナさんも、それからルーシィもカナさんも、やれやれっていうような、まるでしょうがない妹でも見るような瞳で、優しくジュビアの方を見つめてくれていた。

そして、

「よかったね。ジュビア。」

リサーナさんが、皆を代表するかのように、にっこり笑ってそう言ってくれる。

その一言にもなんだか恥ずかしくなって、もう消えてしまいたい位だった。

「あぁ、いいなぁ~!
あたしも、なんかそういう乙女な事、ないかなぁ~!」
「ルーちゃんには、ナツがいるじゃん。」
「ななななんでナツ!?
関係ないし!」
「またまた~」
「そういうレビィちゃんはどうなのよ!?
ガジルと進展しなかったの? 今回の仕事中。」
「しっ、進展!?
進展は、その、しっしたと言えばしたとも言えるし、しなかったということはないとも言えるし…」
「…って、じゃあ結局してるんじゃん!
あぁ、いいなぁ~!
ねぇ、どうして私達には何にもないの!?カナ」
「ちょっと、リサーナ。
あたしをそこに入れないでくれる!?」

ルーシィやカナさん達は、今度は乙女の恋バナとやらに華を咲かせるのに必死になったようだ。
少しだけ矛先を逃れて、ホッとする。
多分、皆が優しさで、ジュビアに対してあまり突っ込まないようにしてくれたのだろう。

「まぁ、飲みな。ジュビア」

カナさんがそう言って、にっこりと微笑んでお酒を注いでくれる。

「…はい。ありがとう、ございます。」

注いでくれたお酒を、ジュビアもグッと三分の一ほど流し込んだ。アルコールの力を借りたら、この半端ない緊張感もちょっとはマシになるかもしれないし。
そのあと、チビチビと舐めるようにお酒を飲むジュビアと、その横に座っているレビィさんをフッと見て、カナさんがゆっくりと話を始めた。

「この間の仕事でさ、二人が、捕まっちゃったじゃん?
あん時さ、もう…ホントに、必死だったからさ。
グレイも、ガジルも。」

「横で見てて、辛くなる位にね」

「愛されてるなぁって、思ったよ。」

「王子サマは無事お姫サマを助けだし、幸せに暮らしましたとさ、って奴だね。ふふふ」

カナさんが優しい笑顔で話すその台詞を聞きながら、レビィさんが短くなった髪を触りながら、真っ赤になって照れている。
そしてジュビアも、またしてもカァァと顔が真っ赤になるのを止められなくて、残ったお酒を一気に飲んで、人形と一緒に抱きしめているグレイ様の上着に顔を埋めた。

チラリと横目で見ると、向こうでは、
グレイ様が、思いきりエルフマンさんを弾き飛ばしたところだった。



それから、またテーブルでは他愛もない話がどんどん続いて。
途中で、休憩を兼ねて座りに来たミラさんとリサーナさんが交代して、リサーナさんがカウンターに行ったり、
アスカちゃんが、退院祝いにと自分で描いたジュビアの絵を持って来てくれたり、
ジェットさんとドロイさんが、レビィさんの周りで、短くなった髪を嘆いたり、でも似合ってる可愛いと褒め称えていたり。
向こう側では、グレイ様達ももう喧嘩に飽きたのか、男性陣で楽しそうに笑いながら飲んでいた。

そんな中で、ジュビアがグレイ様の方にチラッと視線を遣ると、グレイ様もジュビアを見てくれているのか、時々、二人で目が合った。
グレイ様は、その度にフッと優しく笑ってくれたけれど、ジュビアはもう頭がついていかなくて、毎回グレイ様からバッと視線を外して俯いてしまっていた。



もう、そろそろ、宴も終わる。

帰る時間が、どんどん近付いてくる。

この中を、グレイ様に手を引かれて出て、
そのあと、グレイ様の、部屋に行って、
それから…、………。


ガタンッ、と立ち上がって、足元の荷物を掴む。

駄目、無理。

とりあえず、頭を冷やそう。

そう思って、ギルドの扉を抜けて外に出た。

グレイ様人形を抱きしめたまま、大きく息を吸って深呼吸する。
少しだけ冷たい空気が肺に入ってきて、火照った頬を冷ましてくれた。

その時、

「…なに逃げようとしてんだよ、コラ」

すぐ後ろから、そう声が降ってきた。

ビクーッ、として振り向くと、

ちょっとだけ困ったような顔で、でも、何かを捕らえて離さない肉食の獣のような瞳で、ジュビアを見つめているグレイ様が立っていた。




***



「…なに逃げようとしてんだよ、コラ」

ジュビアの真後ろからそう声を掛けると、
ビクンッ、と跳び跳ねるようにしてジュビアが振り向いた。

「っ、~~グレイ様…
ジュ、ジュビアは
にに逃げようなんて、そんな…。
ただ、ちょっとだけ、頭を冷やそうと思っただけで…」

ジュビアは焦って、ワタワタとそう弁解した。

へぇ、…ご丁寧に荷物持って、俺人形を抱えて、わざわざ頭冷やしに出るのか、オマエは…。
そう突っ込もうかとも思ったが、目の前のジュビアを見て、苦笑してため息をつく。

「…ま、いいや。
とりあえず、服」

そう言ってジュビアに預けておいた服を受けとるために手を伸ばした。

「…へ、服?……あっ、
はははい、どうぞ」

ジュビアはそう言われて初めて思い出したかのように、慌てて腕の中で人形と一緒に抱きしめていた俺のシャツとジャケットを差し出した。
…なんだよ、人質として預けておいたのに、お前がそれに気付いてなかったら意味ねぇじゃん、と思った事は黙っておく。

ジュビアから手渡された上着を着ている間、ジュビアは真っ赤な顔をしてじっと上目遣いに俺の方を見ていた。

クソ…、コイツ無意識だから、ほんとタチ悪ぃよな。

シャツとジャケットをさっと着終わってから、

「…さて、それじゃ、…ん」

そう言って、ジュビアの荷物の方に手のひらを差し出す。
ジュビアは、一瞬、ウッ、というような顔をしたが、でも素直に自分の荷物を俺の手に渡してくれた。

そのまま、空いた手をギュッと掴んで。

「…行くぞ」

そう言って、ジュビアの手を引いて歩き出すと、ジュビアも大人しく、俺について来てくれた。


…ズルいよな、俺。

自分のことながら、自分でも呆れる。

今日の昼間、逸る気持ちをどうしても抑える事が出来なくて、退院するジュビアをわざわざ病院まで迎えに行った。
フェアリーヒルズまで送って、それから、
別に先にギルドに行ってたってよかったのに、
『待っててやるから、用意してこい』つって、その場でジュビアを待った。
こうやって、いざ帰ろうとする時に、ジュビアに、用意がないとか忘れ物したとか、そういう言い訳をさせないための予防線を張ったのだ。

ギルドの中では、ジュビアが一杯一杯になってるのがわかっていたから、わざと隣に行かないようにして遠くから様子を見てた。

ソワソワしているジュビアを見て、まさかとは思うが先に帰ったりしないようにと、自分の服を預けに行った。

何度も目が合う度に、安心させようと思って笑ってみたが、その度に目を反らされて、焦る気持ちはもう頂点まで達しそうになっていた。

そろそろ、ジュビアを連れてギルドを出ようかという頃になって、ジュビアが突然立ち上がって出ていくのが見えて…。

そのまま、焦ってジュビアを追いかけて、外に出た。



俺に手を引かれて、俯いて真っ赤な顔をしながらもジュビアはちゃんと俺について来てくれる。

ごめんな、こんな、ズルい彼氏で。


でも、この一週間、ずっとずっと我慢してきたこの気持ちを、どうやっても、止められそうにない。



夢に、見るんだ。
ほぼ毎日のように。



アイツに押さえつけられて、お前が泣いてて、
そうして奴が、無理矢理お前を抱こうとしていて。
助けてやりたいのに、身体が動かなくて…。
必死で叫んで、そこで、目が覚める。
飛び起きた後で、じんわりと冷や汗をかいた身体が、握りしめた拳が、わずかに震えているのがわかる。

…情けねぇ、…間に、合っただろうが。
今、ジュビアはちゃんと病院に居て、もう大丈夫だって言われただろ。

そう、自分に言い聞かせて、もう一度ごろんとベッドに横たわる。
なのに、目が冴えてしまってからは、今度は助け出した時のあの無惨な姿が頭の中によみがえってくる。
ボロボロで、あちこち痕が残ったまま泣いてるあの姿が。

くそ、離れろよ、消えろ。

両腕で頭を覆って、なんとかいつものジュビアの笑顔を思い出す。

…今。
今、ここにジュビアがいたら、力一杯抱きしめてぜってぇ離さねえのに。
抱きしめて、キスして、それから、全部全部俺だけのものにしてしまう、のに。

そして、身勝手にそんな風に思う自分に、また嫌気がさす。
…は、…馬鹿か、俺は。
あんな目にあったジュビアにそんなことできるわけねぇだろ。

…明日、明日もまた病院に行こう。
そして、二人でたくさん話をして、ちゃんと二人の時間を積み重ねていけばいい。

昨日までそんな堂々巡りを、ずっとずっと続けてきた。

でも昨日、明日退院だっていう時になって、
ふわふわと話すジュビアの腕に残った内出血の痕を見たら、また、堪らなくなって。
我慢できずに抱き寄せて、キスして、そして、
結局、半ば無理矢理に、こうして連れて帰ることを了承させた。

お前の気持ちが追い付いてないのも、
わかってんのにな、…ごめん。

お互い、気持ちを伝えあってから、まだ、一週間とちょっとしかたってない。
しかも、その時間の殆どは病院で、
ちゃんと二人で出掛けたりしたこともない。
なのに、こうやって焦って先に進もうとする、こんな野郎で、お前はホントにいいのかよ。

そんな風に自嘲しているくせに、
でも、やっぱりこの手を、どうやっても離せない。
たとえお前がなんて言おうと。

ごめん、…ごめんな。ジュビア。


そうやって、
二人で黙って歩いていたら、ギルドを出て15分もしないうちに、自分の部屋の前に到着した。

ジュビアの手を引いたまま、もう片方の手で、カチャリ、と、鍵を開けたあと、
じっと立ち止まって、掌の鍵を握りしめて俯く。

入ってしまったら、きっともう、止まってやれない。
ホントに、それで、いいのか?
俺の我が儘で、コイツを泣かせる事になるんじゃねぇのか?
強引にここまで引っ張ってきて、今更ながらこんなことを考えるなんて、自分の中途半端さ加減に嫌気がさした。

ゆっくりとジュビアの方を振り返った。

そして、おもむろに繋いでいた手を離して、
それから、自分の肩に掛けていたジュビアの荷物を下ろして、そっとジュビアの手に握らせた。

「…あの、グレイさま?」

突然荷物を返されたジュビアは、キョトンとして、戸惑った声をあげた。

「…こんなとこまで引っ張ってきて、言うセリフじゃねぇかもしれねぇけど…」

「……は、い」

「…今から、10数える間、俺は目を瞑ってるから。」

「………」

「だから、どうしても無理だ、って思ったら、その間に帰っていい。」

「…グレイ、さま」

そんなことを言われるとは思っていなかったのだろう、俺のその台詞に、ジュビアが大きく目を見開いた。
びっくりしながらも、少し安堵したようにも見える、そんな表情に、胸の奥がジリッと焼けついた。

「…ズルい、よな。
こんなとこで、そんなこと言うなんて。
でも…」

そう言って、じっとジュビアを見つめる。

「…お前の事、困らせたいって、思ってる訳じゃないんだ。
…どうしても無理なら、ちゃんと、待つから。
お前の気持ちが、俺に追い付くまで」

「…グレイ様…」

「…だからこれが、お前にとって、最後の、チャンス。」

そう言ってフッと笑ったあと、ドアに背中を預けて、大きく息を吐いてから、
そっと、目を瞑った。

ゆっくり、ゆっくり、カウントを始める。

目の前で、ジュビアが、身動いだのがわかった。
…靴音は、聴こえない、けど。
あぁ、でも、水になって、音をたてずにこっそり帰ってるのかもしれねぇなぁ。
それとも、いてくれてるのか、そこに。
そんなことを自問しながら、早く目を開けたい気持ちをグッとこらえて、ゆっくりと心の中で、10まで数えた。

数え終わってから、そっと、閉じていた瞼を上げる。


目の前に、ジュビアは立っていた。


真っ赤な顔をして、少しだけ水気を帯びた目で覚悟を決めたようにジッと上目遣いに俺を見ていた。
そして、荷物も人形もギュッと左手一本に抱え込んで、空いた右手を、僅かに震わしながら必死に俺の方に差し出していた。

その姿に、プツッと音を立てて、最後の理性がいとも簡単に崩れ去った。

…限界。ごめん、ジュビア。

差し出されたジュビアの腕を引いて、一気に部屋の中に連れて入った。

我慢できずに、そのまま玄関で腕の中に閉じ込める。
思い切り引き寄せて、力ずくで抱き締めたら、
ジュビアの腕から、鞄と人形が、こぼれて落ちて行った。

ジュビアの頤をぐっとあげて、噛みつくように唇を塞ぐ。

腕の中でバタバタと身動ぐジュビアの後頭部を掌で抱え込んで、深く深くキスをした。

それから、ゆっくりと、口づけをほどいて。

「…お前が、悪い。
もう、止まってやれねぇからな。」

自分の熱を吐き出すようにそう言って、ジュビアの手を引いて、寝室に向かった。

そのまま、二人で倒れ込むように、ジュビアをベッドの上に押し倒した。

「…グレイ、さまっ、…待っ…」

何かを言いかけた唇をもう一度塞いで、ジュビアの台詞ごと飲み込む。
待って、も、駄目、も、もう無しだ。

ジュビアの髪をかきあげて、額、目元、鼻筋と、順にキスを落としていくと、
「…ん、…やっ…」
というジュビアの甘い声が聴こえて、頭の芯がますますクラクラした。

ジュビアの顔の横に両手をついて、檻の中に閉じ込めて、首筋にもキスを落としていく。一つずつ、ボタンを外していきながら、肌けた胸元にも、唇を這わす。
そうして、思い切り吸い上げて、紅い華を幾つも散らしてやった。
俺のものだっていう所有の印がジュビアの真っ白な肌の上に咲いていく。
これからずっと、消えずに残ればいいのに。
そうして、いくらでも他の男に見せ付けてやればいい。

ジュビアが瞳を潤ませて、
「…グレイさま…」と呟いて、恐る恐る俺の方に手を伸ばしてくる。

その声に、その腕に、こみ上げてくる愛しい気持ちが抑えられなくて、思い切り抱き締めたあと、もう一度貪るように、キスをした。

息苦しさから逃れようと「…あ、っ…」と甘い声を上げた隙を逃さず、すぐさま舌を入れて、口の中の何もかも絡めとるように唇を合わせる。

競り上がってくる愛しさと、この大事な物に他の男が触れたのだという嫉妬とが、ない交ぜになって押し寄せてきて、このまま無茶苦茶に抱いてしまいたい衝動に駆られるのを、必死で我慢した。

合わせた唇を、ほんの少しだけ離して、苦い気持ちを吐露するように、

「…アイツの、触ったとこ、どこ?」

と、訊ねた。

ジュビアが、大きく目を見開いて、ふるふると首を横に振る。

「…っ、どこだよ?」

絞り出すようにそう言うと、
ジュビアはまた、瞳に零れ落ちそうなほど涙を貯めて、力一杯首を横に振った。

…ごめん、…こんな時に、嫉妬でこんな事口走って、お前を泣かせるサイテーな男で。

でも。

袖口から覗いている腕の痕に目を遣って、それからゆっくりとそこに唇を移動させる。

「俺以外の男が、お前に触れるのなんて、
ぜってぇ、許さねぇから。」

縛り付けるようにそう吐き出したあとで。

「…消毒。」

そう言って、腕に残った痕の上に、何度も何度も口付けた。


この髪も、この腕も。
瞳も、唇も、背中も、なんもかんも全部。
これからずっと、俺だけのものだからな。

そう誓いをたてるように、ジュビアの身体中にキスを落としていく。


夜の静寂の中で、
俺の唇や指が奏でる音に合わせて、
ジュビアが甘く鳴く声だけが響いた。



***






朝の光が、優しく部屋の中に差し込んで来るのを感じて、そっと目を開ける。

緩やかな日差しの中で、目に飛び込んで来たのは、鮮やかな濃紺のギルドマーク。

そして、鍛え抜かれた胸元、だった。

パチパチと数回まばたきしたあとで、軽く目線を上げると、安心しきったような顔で眠っているグレイ様の顔が目に入った。

ジュビアの頭の下には、グレイ様の腕。

その瞬間に、カァァ、と顔が火照って来るのがわかった。

そっ、そそそうだ。きっ、昨日、ジュビアはグレイ様と…。

改めて今度は視線を下に下ろすと、自分が一糸纏わぬ姿でグレイ様に抱きしめられているのが目に入って、ますます頭にカァァと熱がこもる。

…は、恥ずかしい。
消えたい。

昨日の事を思い出すと、もう正気でいられない位恥ずかしい。

だっ、だって、ジュビア、
あんなあんな格好をグレイ様にさらして、
脚なんてあんな風に…。
そっそれに、…声。
あんな声が、自分から出てくるなんて、…信じられない。
恥ずかしくて、消えたい。

きっと、みっともなかった。

もう、グレイ様に呆れられてしまったかも。
ど、どうしよう、
どうしたらいいの?

泣きたくなる気持ちで、今度は、どんどん顔色が落ち込んでいく。


とりあえず、
この場から逃げよう。
こんな状態で、グレイ様と顔を合わせるなんて、……無理。


ズクン、と重い下半身を引きずって、なんとか起き上がろうとすると、
突然グレイ様の腕が、身体に巻き付いてきて、
グッと胸元に、引き摺り戻された。

「…どこ行こうとしてんだよ、コラ」

そう言って、ギュッと抱きしめられる。

「…グッグレイ様、起きて…!?」

そう言って、腕に力を入れて、グレイ様の腕から逃れようとすると、

「…こら、暴れんな」

そう言って、グレイ様はまたもっと強い力でジュビアの事を抱きすくめた。

「…はっ、離してください、グレイ様…!
ジュビア、ジュビア、もう…」

恥ずかしくて、どこかに消え去りたいんです…!
最後までは言えなかったけど、もう半分泣きそうな声でそう言うと、

「…離すかよ、バーカ」

グレイ様は囁くようにそう言って、ジュビアの額にそっとキスをした。



「…身体、…辛くねぇか?」

ゆっくりと唇を離して、心配そうにグレイ様がそう訊いてくれた。

「…悪かった…。止められなくて、
何回も、…無理させた」

ジュビアの髪を撫でながら、まるで小さく懺悔するようにそうグレイ様がそう言ってくれたから。
あんなに恥ずかしかった気持ちが少しだけマシになって、それから、フルフルと首を横に振った。

「…大丈夫、です。」

「…そっか。なら、いいんだけど…
無茶苦茶だったから、俺」

余裕なくて、ごめん、と、グレイ様はほんの少し自己嫌悪に陥っている風にそう言った。


そんなこと、ない。

恥ずかしくて、死にそうだったけど、
でも、すごくすごく幸せだったから。

グレイ様を全部受け入れた時は、やっぱりすごく痛くてびっくりしたけど、
でもその衝撃とか、痛みとか、それから、壊れそうな位にたくさん愛してくれた事とかが、
自分の中にあったあの事件の時の嫌悪感や恐怖をキレイに洗い流してくれたような気がした。

胸元にも、腕にも、グレイ様が付けてくれた痕が、たくさん残っていて。

グレイ様が、ジュビアの記憶を浄化してくれたんだ、と思った。



ギュッと抱きしめられた腕の中で、もぞもぞと動いてグレイ様の頬に触れた。

それから、ちょっとだけ勇気を出して、
ほんの少し無精髭の生えたグレイ様の顎にそっと鼻筋を擦り寄せた。

するとグレイ様が、

「…おまえ、そういう事すんなよ…
また、…我慢できなくなるだろ」

と突然そう言ってきたので、意味がわからず

「…へっ?」

と間抜けな声で返事をすると。


グッと、抱き込まれた身体が回転して、
気がついたら、ジュビアを組み敷いてグレイ様が、上に乗り上げていた。


こっ、ここここれは、あの、
もしかしてそういう…

熱のこもった瞳でジュビアを見ているグレイ様の意図に気付いて、アワアワと焦る。

「…むっ、無理!無理です。
だって、だって、
まだ、中にグレイ様がいる感覚が残ってて…!」


ジュビアは必死になってそう言っているのに。

グレイ様はそれを聞いた瞬間に、小さく、
…クソ、煽んなよ、と呟いてから。

「…おまえさ、そういうの無自覚で言うの、
ほんとヤベぇんだけど…。」

そう言って、またギュッと腕の中抱きしめてくれた。


それから、ゆっくりと顔を上げたあとで、

ホントに切なそうな顔で

「…好きだ…」

って、囁いてから、

もう一度噛みつくように、ジュビアにキスをした。--








〈了〉












∞∞後書き∞∞



姫と王子のおまけ小話、ご精読いただきありがとうございます。

もうね、ただ、甘いだけ!の話です。

グレイ様、がっついてみたり、ためらってみたり、嫉妬してみたり。
そして、翌朝また、後悔してみたり、がっついてみたりと、どないやねん!って突っ込みが聴こえてきそうです。
ごめんなさいぃ。

今回のタイトル、『奏鳴曲』。
そこはかとない詩的エロスを感じるのは私だけでしょうか?(笑)
私だけですね、すみません。
もちろん奏がグレイで、鳴がジュビアですけどね!まだ言うか。

長かった姫と王子も、ここで一旦終了とさせていただきます。
ガジレビの方は、また、機会があれば、じっくりと。

長々とお付き合いくださった皆様、本当にありがとうございました。


また、宜しくお願いいたします。